ゼノアの結末
僕たちは爆発の直前に距離を取っていたので爆発には巻き込まれなかったが、離脱が遅れた<スサノオ>はダメージを負い左腕が動かない様子だ。
『デューイ中尉大丈夫ですか!?』
『ああ、問題ない……と言いたいところだが左腕がやられた。奴は何処に行った?』
爆煙が風で流され周囲の状況が明らかになっていく。
爆発の中心部だった場所は地面が大きく抉られクレーターができあがっていた。その付近も爆発と炎によって全てが吹き飛ばされていた。
奴は炎燃えさかるクレーターの中に降下すると頭部の黄色いメインカメラをこちらに向けてくる。
その軽快な動きはゼノアの操縦によるものではない事は明らかだった。つまり今<レッドキャップ>を動かしているのはジェノバ。
奴は<レッドキャップ>に搭載された強化装置を媒介にして機体を乗っ取ったんだ。
『ぐ……うう……何だこれは、機体が勝手に動いているだと!? ジェノバ、これは一体どういう事だ』
『あれー、言ってなかったっけ? お前さんに広めさせたあの装置はね、本当はOSを強化する物じゃなくてAI化された我々『ノア3』の人間が機体を掌握するための物だったんだよねぇ』
『AI……だと?』
ゼノアは愕然としていた。最初の他人を嘲笑っていた様子はもう微塵も残っていない。自信を持っていたAFによる戦闘では大敗しプライドはズタズタになり意気消沈している。
『だから言葉の通りだよ。『ノア3』の人間はね、全員肉体を捨ててプログラム上の存在へと進化したんだよねぇ。それで今は<クロノス>が用意したサーバー内の仮想世界で生活してるってわけ。前にも君に説明したでしょ。この『ネェルアース』の荒廃した世界とは違う、豊かで安全で素敵な世界だって』
『そんな……それでは話が違う! この仕事が認められれば私も『ノア3』で生活できると説明されたから……だから私は……! けれど、そんな世界では私が何をしたところで行けるわけがないだろう!!』
ゼノアの辛辣な声が聞こえてくる。しばらく不気味な沈黙が続くとジェノバがおどけた口調で会話を再開した。
『やー、実はそうなんだよねぇ。騙して悪かったけど、そういうこと。君はまんまとオレ達の口車に乗せられちゃった訳よ。ごめんねぇ』
『ふざ……けるな!! ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなーーーーーー!!』
ゼノアの怒号が続いていると、その声に混じってジェノバのため息が聞こえた。
すると<レッドキャップ>が腰部サイドアーマーに設置してあったビームソードを手に取り、自らのコックピットブロックの辺りに発信部を押しつけるのが見えた。
「な……まさか……止めろ、ジェノバ!!」
『あひゃひゃ、そりゃ無理ってもんよ。だってオレ、静寂を愛するクールな人間だからねぇ。騒がしくされるのは我慢できんのよ』
こちらの制止の言葉には聞く耳を持たずジェノバは笑って返すと、絶叫していたゼノアの声が突然消えた。
同時に<レッドキャップ>のコックピット付近に小さい穴が出来ていることに気が付く。
『ふー、やっと静かになったわ。自分の腹に穴を開けるっていうのはどうにも嫌な感じだねぇ。……確かこういうのをセップクっていうんだっけか? 生身では絶対やらないわこんなの。きっと死ぬほど痛いだろうからねぇ』
ルーンさんが<ツクヨミ>の生体センサーで<レッドキャップ>のコックピットを確認すると首を横に振った。
『何てヤロウだ。仲間を簡単に手に掛けやがった。――これがテメーらのやり方かよ!!』
人一倍仲間想いのバルトはジェノバのやり口に怒りを覚えていた。デューイさんとルーンさんは何も言わなかったがその表情から憤っていることは確実だ。
――そしてそれは僕も同じだ。
『さーて、邪魔者はいなくなったしそろそろ殺し合おうや。特にカナタ……君には期待してるから頑張ってねぇ!』
モニターに映るジェノバは嫌悪感を抱かせる笑みを浮かべると腰部リアアーマーに固定していた二本の武器を両手に取った。
ビーム発信部から高出力のビーム刃が形成され斧の形を取る。
「ビームアックスか。それを二本同時に展開するなんてジェネレーターをより高出力の物に変更してきたみたいだな」
ビームアックスは並のビームソードなんかより出力が高く、<レッドキャップ>の初期ジェネレーター出力では二本同時に扱うなんて事はできない。
それにさっきの爆発の際にも驚くべき機敏さで爆心地から離脱した。あの<レッドキャップ>はかなり改造されていると見て間違いない。
「皆にお願いがあります。――あいつとは僕一人で戦わせてください」
『なにバカなこと言ってんだ! まさかこの期に及んで一対四が卑怯とか考えてんじゃねえだろうな!?』
『アタシもとんがり頭さんに賛成です。あの<レッドキャップ>はかなり魔改造されているみたいですし、性能的にはシャーマニックデバイス級と言えるでしょう。しかもほぼ無傷の状態です。それに対し<タケミカヅチ>は既にダメージが蓄積しています。分が悪すぎですよねぇ』
『……単独で戦いたい理由と勝算はあるのか言ってみろ。お前に任せるかどうかはそれ次第だ』
『ちょ、中尉!』
デューイさんは真剣な眼差しでモニター越しに僕を見ている。その視線を真っ直ぐに見つめ返しながら問いに答える。
「理由はあのクソ野郎をこの手でボコボコにしてやりたいからです。勝算は……さっきデューイさんと戦って暴走した時、意識はしっかりしていました。だからあの時の戦術を再現すれば勝てる。そう判断しました」
『そうか。……分かった、お前に任せよう。言い切ったからにはあいつを倒して見せろ』
「はい、そのつもりです!」
<タケミカヅチ>を<レッドキャップ>の方へ移動させグレネードで作られたクレーターを滑り下りていく。
――そしてついにジェノバと相対した。




