カグツチVSスサノオ
バルト達の<ランドキャリア>がノーマンのいる廃墟の近くまで戻ってくると、突然進路上にD粒子の弾が撃ち込まれた。
その衝撃で<ランドキャリア>内が大きく揺れる中、バルトは<カグツチ>を格納している後部コンテナに走り、カナタは状況を確認するべく操縦席に向かった。
「ポンペ、一体何が起きたんだ!? ――あれはっ!」
<ランドキャリア>の操縦席に到着したカナタの目に入ってきたのは廃ビルの屋上からマシンガンを乱射するダークブルーのAFであった。
ポンペはマシンガンの弾に当たってたまるかと建物の裏側に進路を変更し突き進んでいく。
すると操縦席のモニターにバルトが映し出された。
「バルト!」
『今<カグツチ>に乗り込んだ。ジタンが調整をしてくれていたからすぐに出せる! <ランドキャリア>を廃ビルの中に入れてコンテナのハッチを開放してくれ。緊急出撃する!』
「了解! 近くの廃ビルの中に入るよ」
ポンペはハンドルを大きく切って強引に廃ビルの中へと<ランドキャリア>を突っ込ませた。
その様子を見ていたダークブルーのAF――<スサノオ>のコックピットではデューイが感心していた。
「あの<ランドキャリア>の操縦者は良い腕をしているな。基礎を覚えれば戦艦の操舵手になれるかもしれない。――む?」
<ランドキャリア>が廃ビルの中へ姿を消して間もなく、その建物の裏から数発のミサイルが姿を現した。
ミサイルは弧を描くようにして飛んでくると<スサノオ>がいる廃ビルに直撃した。
足場が崩壊した<スサノオ>がその場から飛び去ると、コックピットにアラートが鳴り響く。
モニターにはいつの間にか屋外へと移動していた赤い重装甲のAF――<カグツチ>の姿が映し出される。
<カグツチ>は左腕に装備したガトリング砲『レオパルド』で攻撃を開始した。
無数のD粒子の弾丸が<スサノオ>の周囲に展開されているDフィールドをかすめる中、デューイはスラスターや姿勢制御バーニアを巧みに操り被弾することなく着地する。
そして青と赤の装甲を纏う二機は廃墟のメインストリートであったであろう広大な交差点で対峙するのであった。
『何処の誰だか知らねーが、いきなり襲ってくるとはいい度胸してるじゃねーか!! こんな不意打ちしてきやがって、蜂の巣にされても文句はねえだろうなぁ!!』
『随分と血の気の多い奴だな。――なるほど、どうやら本物の<カグツチ>のようだな。外装は複数の量産型の物で構成しているのか。間に合わせの割にはよく出来ている。やはりあの方には戻ってきてもらわなければ!』
『あの方だと? 本当に訳の分からない奴だな。けどな降りかかる火の粉は全力で払いのけるだけだぜ!!』
バルトの気合いの入った咆哮と共に<カグツチ>の両肩、両脚部に設置されているミサイルランチャーのカバーが一斉に開放される。
ミサイル全弾の照準が<スサノオ>を捕捉するとバルトは一瞬ためらった後に操縦桿の発射スイッチを押した。
『悪く思うなよ。――こいつで吹っ飛びな!!』
<カグツチ>からミサイルの一斉射とガトリング砲を組み合わせた弾幕が放たれ、それらは吸い込まれるように<スサノオ>に飛び込んでいく。
『――ふっ』
デューイは笑みを見せると<スサノオ>を突撃させる。
ガトリング砲の弾丸を回避と肩に装備している大型の盾による防御でいなし、複雑な軌道で飛翔するミサイルの群れを両手のマシンガンで撃墜していく。
『この弾幕をかいくぐって来ただと!? ――ヤロウッ!!』
ミサイルとガトリング砲の弾丸の雨をノーダメージで突っ切ってくるダークブルーのAF。
敵ながらその見事な動きに一瞬だけ魅了されながらも我に返ったバルトは<カグツチ>をローラーダッシュで高速後退させガトリング砲を撃ち続ける。
それでも二機の距離は縮まっていき、<スサノオ>は<カグツチ>に追いつくと両肩の二枚のシールドを機体前面に展開し体当たりで廃墟に押し込んだ。
AFのコックピット周りはD粒子による重力制御によって衝撃や加速等によるGを軽減する機構が設けられている。
その為AFは極めて高い高機動を発揮すると同時にパイロットの生命維持を重視する設計になっている。
その機構によって<カグツチ>は勢いよく建物に叩きつけられてもコックピットへ伝わる衝撃は軽減されパイロットの命に関わるレベルにはならなかった。
バルトは軽い脳しんとうを起こしながらもすぐに持ち直し、自機を廃墟に押しつける青い機体を押しのけようと試みる。
『くそっ、こいつ何てパワーだ。全然押し戻せねぇ……!!』
『無駄だ。互いにアマツシリーズの機体である以上基本的な出力は同じ。しかし今の<カグツチ>はリアクターが不調で出力が低下している。パワー勝負でこの<スサノオ>を押し切ることは不可能だ』
『アマツシリーズだと!? それじゃあ、そいつは軍の機体ってことじゃねーか。まさか<カグツチ>を回収しにきたのか?』
『……ほう、思ったよりもちゃんとした知能を持っているようだな』
『どういう意味だテメー!!』
アマツシリーズ同士の機体である<カグツチ>と<スサノオ>の戦いが一方的な形で進んでいく中、カナタは身一つで<タケミカヅチ>のもとへ走っていた。
戦闘の影響で破壊された建物の破片が飛び散るのを躱しながら何とか自分の<ランドキャリア>へと到着する。
そこには二機のアマツシリーズの戦いを見守るノーマンが立っていた。
「爺ちゃん、良かった無事だったんだね。あの青い機体は只者じゃない。このままじゃバルトがやられる。急いで<タケミカヅチ>を出すよ」
「待つんじゃ、カナタ」
<ランドキャリア>のコンテナの方へと向かおうとするカナタをノーマンは止めた。この緊急事態にも関わらずそんな事をするノーマンにカナタは戸惑う。
「待てって……状況分かってる!? このままじゃバルトがやられるかもしれないんだよ?」
「少なくともお前よりは分かっているつもりじゃ。心配しなくてもあの青いAF――<スサノオ>はバルトを殺めたりはせんよ。あくまでバルトと<カグツチ>の実力を確かめるための戦いなのじゃからな」
「スサ……ノウ? それって確か<タケミカヅチ>や<カグツチ>と同じアマツシリーズの機体じゃないか。それじゃ、あれは軍属のAFってこと?」
ノーマンが頷いたことで緊急事態だったカナタは冷水を掛けられたように一気に静かになった。そしてこれまでのノーマンとの会話から状況を把握していく。
そしてノーマンはカナタに問うのであった。
「カナタよ、ここがターニングポイントになるじゃろう。これからわしが話すことをちゃんと聞いて、そして自分で判断するのじゃ」
「何を判断しろって言うのさ?」
「これから先、サルベージャーとしての生活に戻るか……それとも<タケミカヅチ>に乗って戦争をするかという選択じゃよ」
突然の宣告にカナタはその場に踏みとどまる。
自分が保育装置を出てサルベージャーになってからずっと一緒に生活してきた好々爺が今では別人のように見えていた。
「どうしてそんな極端な話になるんだよ。僕たちはフィオナを『ヨモツヒラサカ』に連れて行くのが目的なんだよ? それがなんで――」
「その理由を今話す。実はお前たちが街に行っている間にわしは<スサノオ>のパイロットであるデューイという男と話をしておったんじゃ。その内容をかいつまんで説明する。これは『ヨモツヒラサカ』へ行くことにも関係しておる。ちゃんと聞くんじゃぞ」
「……分かった」




