新たなる刺客
<ガルム>を駆り暴れていたジェノバを倒し、マーケット中の『アハジ』を襲ったサルベージャーに端を発した戦いは幕を閉じた。
結局、自らを『ノア3』の軍人だと言っていたジェノバが<ガルム>に搭乗した経緯やコックピットを破壊されても無事だった理由は分からずじまいだった。
今回の事件に巻き込まれ、この事実を知った人々は大罪戦役のような戦争が再び始まるのではないかという恐怖に駆られマーケットは二日目にして早々に終了した。
『アハジ』を襲撃したサルベージャー達は『AFジャンキー』を通して管理局に引き渡され、その褒賞金を手に入れた僕たちは戦闘で消費した弾薬などを補給した後で改めて出発する事にした。
「本当にタダで補給物資を頂いてもいいんですか!?」
「ああ、遠慮無く持って行ってくれ。何せお前たちはこの『アハジ』を救ってくれた恩人なんだからな」
『AFジャンキー』のオーナーであるジルさんが無料で弾薬や武器を提供してくれた。
先の戦闘で<タケミカヅチ>の武器を全て失っていたので、この申し出は本当にありがたい。
ジルさんがくれたアサルトライフルはこれまで使っていた物よりも性能が格段に上で購入しようものなら<ソルド>一機分以上はする代物だった。
さらに『ライキリ』と言う二本のビームソードまで付けてくれた。
「このビームソードは何年も前に大規模な戦場跡で発見した物でな。修理して使えるようにしたのはいいんだが、そんじゃそこらのAFじゃまともに使うことが出来なかった。しかし、お前の機体……確か<タケミカヅチ>だったか? あれの性能ならきっと使えると思ってな」
「そんな大切な物をもらってもいいんですか? それほどの性能なら絶対価値がある物ですよ」
「いいんだよ。どんなに優れた武器だって使えなけりゃ意味はないし、それに何かの手違いで<ガルム>に乗っていたようなイカレた奴の手に渡るかもしれないだろ。それなら、お前のようにちゃんとした奴に使ってもらったほうが良いと思ったんだよ。――餞別だ。遠慮無く持って行きな」
ジルさんが僕の背中を思い切り引っぱたいて送り出してくれた。ここで断ったりしたら逆に失礼だろう。
「ありがとうございます。それではありがたく使わせてもらいます」
承諾するとジルさんはニカッと屈託のない笑顔を見せてくれた。
その時、搬入作業を手伝っていたフィオナが現れビームソードを見ると驚きの声を上げる。近くにいた僕とジルさんは何事かと思い彼女に駆け寄ると信じられない話を聞いた。
「あの二本のビームソードってもしかしてライキリじゃないですか!?」
「「そうだけど、知ってるの?」」
「だってあれ……<タケミカヅチ>専用の武器ですよ!」
「「……ええーーーーーーー!!」」
ジェノバが言っていた。今回僕と戦った事がまるで神様が仕組んだような奇跡的な出来事であったと。
それに加えて今度は<タケミカヅチ>がかつて使用していた武器がこうして手元にきた。
神様が本当にいるかどうかなんて分からない。けれど不思議な縁を僕も感じていた。
もしかしたらこの先にも到底予想できない奇跡とも言える偶然が待っているのかも知れない。
◇
『アハジ』をサルベージャーが襲った事件から一週間が過ぎていた。
カナタ達が<タケミカヅチ>を発見したエリアを管理するサルベージャー管理局南方支部では彼らを捕える為に何人ものサルベージャーを向かわせていたが、そのことごとくが返り討ちに遭っていた。
この状況を苦々しく思っていたのは<レッドキャップ>でカナタ達を襲った管理局の職員【ゼノア・サンド】であった。
そんな彼が次の刺客として選んだのは最近『ノア11』領内で頭角を現し始めていた、ある二人のサルベージャーであった。
「わざわざこのような場所にお呼びだてして申し訳ありませんでした。しかしこの依頼はあなた方でなければ達成できないと思い直接連絡をさせていただいたのです。ご容赦願います。【デューイ・ブルーリバー】様、【ルーン・ミッドナイト】様」
管理局南方支部の客室では、この三名の人物がソファに座り話し合いをしていた。
ゼノアの正面のソファに座っている二名のサルベージャーのうち一人は色白の肌に白い短髪、痩せ型でありつつもがっしりした体格で長身の若い男性であるデューイだ。
二十歳の彼は眉目秀麗の顔立ちで、この施設に姿を現した際には女性職員たちが皆色めき立っていた。
もう一人は小麦色の肌に亜麻色のボブヘアをした十八歳の女性であるルーン。
彼女は時々足を組み直し、肉付きの良い太腿がショートパンツとニーソの間から顔を出している。
無表情のデューイとは対照的に常に微笑みを絶やさず柔らかい印象を相手に与えており、こちらは男性職員を何人か虜にしていた。
その二人は用意された紅茶を静かに飲み、その間ゼノアは説明を淡々と続ける。
「ターゲットはこの南方エリアでサルベージしたAFを無断で自分の物にし、回収に向かった管理局のAF部隊を襲って破壊しています。その後は一週間前に発生した『アハジ』でのAF暴動にも関わっていたという情報が入っています。彼らをこれ以上野放しにすれば被害が広がる一方と考えた我々管理局は、早期の問題収拾のためにあなた方に依頼をお願いた次第です」
ゼノアが説明を一旦終えるとデューイは静かにティーカップを置き、冷たさすら感じる視線を目の前にいる男に送った。
「なるほど。――それで死人の数は?」
「――は?」
突然の返答にゼノアは呆然とした感じで声を出す。すると先程まで微笑んでいたルーンが挑発的な笑みを見せながらゼノアに言った。
「察しが悪いですねぇ。そのターゲットがこれまでに何人のサルベージャーや民間人を手に掛けたかって訊いてるんですよ。――ねえ、デューイ?」
デューイは黙ったまま頷く。
一方でゼノアが渋々といった感じで死者は出ていない事を伝えるとデューイとルーンは目を光らせた。
「へぇ~え、それは随分と変な話ですよねぇ。あなたの口ぶりだとそのターゲットは滅茶苦茶悪者の感じですけどぉ、誰も殺害していないところを見るともしかして割と善人だったりして……実際のところどうなんすかぁ?」
「――やめておけ、ルーン」
デューイは鋭い視線でルーンを黙らせると彼女はつまらなそうにそっぽを向いてしまう。
「相方がすまなかったな。……色々と考えるところはありそうだが、管理局の依頼を断る理由はこちらにはない。そのターゲット……確かカナタ・クラウディスと言ったか?」
「ええ、そうです。その少年が回収したAFに搭乗しています。報告では中々腕が立つとか……この依頼を受けて頂けると解釈してよろしいですか?」
「ああ、それで構わない。それと依頼内容の確認だが、AFは可能な限り損傷は与えずパイロットの生死は問わない……それで構わないか?」
「それで結構です。AFに関しては回収後、軍に送るのでなるべく穏便にお願いします」
「了解した。それでは我々はこれで失礼する。――行くぞ」
デューイが席を立ち部屋のドアに向かって歩き始めるとルーンも彼の後に付いて行く。部屋から出る直前で彼女はゼノアの方に振り向くと悪戯な笑みを見せた。
「それじゃ失礼しましたぁ。――それと! 依頼通りに例のAFはコックピット部分だけ破壊してなるべく綺麗な状態で持ってくるんで安心してくださ~い!」
二人が去るとゼノアは苦虫をかみつぶしたよう顔で客室のドアの方を睨むのであった。




