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新星機動のアサルトフレーム―タケミカヅチ・クロニクル―  作者: 河原 机宏
第1章 白いアサルトフレーム

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剣の鬼

『いいね、いいねぇ。この緊迫感、何度経験しても楽しくって仕方がないね。――それでこそ<タケミカヅチ>、それでこそ『剣鬼(けんき)』ってもんよなぁぁぁぁぁぁ!!』


「――剣鬼? あんたはこの機体のことを知ってるのか!?」


『ああ、よく知ってるとも。そいつは百年前の戦争で破壊の限りを尽くした怪物なんだよねぇ。ビームソード一本で『ノア3』の(アサルト)(フレーム)を次々に五十体も斬り倒したとかな。戦場において剣を持って命を刈り取る鬼――それ故付けられた二つ名が剣鬼なのさ』


「<タケミカヅチ>ってそんな機体だったのか……」


『その通り。でもまぁ<タケミカヅチ>自体もそうだけど、もっとヤバかったのがパイロットの方なんだよねぇ。あの男の徹底した『敵は絶対に殺す』姿勢はオレ達を驚愕させたもんさ』


 ……男? <タケミカヅチ>の元々のパイロットはフィオナじゃなかったのか? それにこの男の口ぶりはまるで当時の戦争――大罪戦役を直に知っているかのような感じだ。

 それも『ノア3』側にいたかのような……まさか……。


「あんたは一体何者なんだ? サルベージャーじゃないな……何が目的だ!」


『……くははは、ちょっと口が滑っちゃったかな。まあいいや――オレの名前は【ジェノバ・バルトス】。『ノア3』に所属する軍人さ』


「な……、『ノア3』の軍人だって!? 嘘をつくな! そんなはず――」


『どうして敵勢力の人間、しかも軍人が単身でこんな場所にいるのかって? ――そりゃ企業秘密だからさすがに教えてあげられないけど目的なら分かるだろ? それはお前たち『ノア11』の連中を今度こそ根絶やしにするためさ』


 僕たちを『抹殺する』。その言葉を発した時のジェノバの声色は淡々としたもので感情的でないことが分かる。

 つまりこの男にとって『ノア11』の人間を殺害することは息をするのと同じくらい自然な事だということだ。


「そんな事をされてたまるかっ!!」


 僕はビームソードの出力を上げてジェノバに連続で斬りつけた。奴はそれを余裕で受けきって笑い続ける。

 こっちは非戦闘員のサルベージャーで本格的な戦いは最近始めたばかり。一方のジェノバは口ぶりからして大罪戦役時の記憶がある本物の軍人だ。

 この経験の差が戦闘中の余裕として表れている。


『いいね、いいねぇー! その必死な感じが素晴らしいじゃないか。剣鬼ほどではないにしろ君も中々悪くない腕をしている。もっと闘争本能をむき出しにしてかかってきなよーーーーー!!』


 ――駄目だ! こいつの挑発に乗って感情的になったら負ける。よく考えろ。僕には僕なりの戦い方があるはずだ。


 ……そうだ。

 人間が身体を動かす時の骨や筋肉の動きと同じように、AFでも動作時に内部フレームと装甲の可動の具合で次にどういう動きをするか推測する事ができるはずだ。

 他にもスラスターや姿勢制御バーニアの出力レベルでどの程度の加速をしようとしているのか、それらにパイロットの戦い方の特徴が組み合わさることでどんな戦術を展開しようとしているのか先読みすることだって可能なはずだ。


 相手を倒すという闘争心を高めつつ、それを実行するための情報を冷静にかき集め処理するんだ。――そうすれば、自分よりも格上の相手にだって勝てる。


『どうしたんだい、随分大人しくなっちゃったじゃないか。もしかして、怖じ気づいちゃったかな? ……なら時間の無駄だし、もう終わりにしようかなぁ』


 ジェノバのどこか落胆したような声がすると<ガルム>がやや前傾姿勢になり方向転換に使うバーニアの動きが大人しくなる。

 それとは対照的に機体を前方に加速させる各スラスターが微調整の為なのか活発に動き始めている。

 そこに敵機の現在の武装やパイロットの戦い方の癖といった情報を掛け合わせて次の行動を推測する。


「――高速移動による特攻か!!」


 自分の頭の中で敵が次に起こすアクションが鮮明に描かれる。そして、思考はそのアクションに対する自分の行動に移る。

 ジェノバはこちらの懐に一気に入り込んで勝負を決める気だ。その戦術に一番効果的なこちらの動きは――!!


『死んじゃいなよーーーーーー!!』


 ジェノバは僕の予想通りに各スラスターを全開にして<ガルム>を直進方向に加速させ、<タケミカヅチ>目がけて突っ込んできた。

 そのタイミングに合わせて僕も<タケミカヅチ>のスラスター出力を上げて<ガルム>に特攻を仕掛ける。


『なにっ!?』


 コックピットにジェノバの驚きの声が響く。

 そうさ、驚くはずだ。戦意喪失したと思っていた相手が自分とほぼ同時に同じ動きをしたのだから。

 相手に接触するタイミングを完全に狂わされる形になったはずだ。


『こいつ、まさか最初から狙って――!?』

 

「遅いっ!!!」


 高速で互いに向かっていき激突する直前、<ガルム>のビームソードが振り下ろされる前に僕は機体を更に加速させ、敵機のコックピット目がけて<タケミカヅチ>のビームソードを突き刺した。

 ぶつかる瞬間に互いの(ディバイン)フィールドが干渉して減速したため衝突の勢いがある程度弱くなった。

 そのお陰で二機は衝突しても大破を免れ、結果的にはこちらのビームソードが敵機のコックピットごとその身体を貫くという結果に終わった。


「はぁ……はぁ……はぁ……勝った……勝ったぞ……でも……」


 モニターには自機のビームソードでコックピットを貫かれ、メインカメラから光が消えた敵機の姿が至近距離で映っている。

 自分が明確な殺意を持ち、最後には相手の命を奪うことへの躊躇など考えず確実に葬る手段を即決実行した。

 戦っている間は無我夢中で生き残る事だけしか考えられなかったが、いざ冷静になると他人の命を奪った事への罪悪感が押し寄せ気持ちが悪くなる。


「う……うぷ……」


『――おいおい、このオレをここまで追い込んだ奴が何をやってるんだい?』


 聞き慣れた男の軽快な声が聞こえてくる。だが、そんなはずはない。だって奴が乗っていた機体は……<ガルム>はコックピットを貫かれたはずだ。

 その状態でパイロットが――ジェノバが生きているはずはない。

 それなのに――。


『こいつは本当に驚かされたよ。まさかあのタイミングでカウンターを仕掛けてくるなんてねぇ。逃げるなら理解できるけど、こっちの攻撃に対して攻撃を重ねてくるなんて普通の人間ができる発想じゃない。一瞬だったけど、まるで剣鬼と戦っているような感じだったよ』


「どうして……コックピットを破壊されて生きているんだ? あんたは……不死身なのか?」


 到底理解できない状況に恐怖で手が震える。自分が戦っていた相手はビームで焼かれても命を奪えないような化け物だとでも言うのだろうか?

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