処す覚悟
「こいつ……わざと街を破壊しているのか!?」
『アハハハハハ、当ったり~! さーて、どうするよ。オレを相手に不殺とか甘いこと言ってると、どんどん街は燃えて死人も増えちゃうよ。殺す気でこないと次はお前の大事な人が死んじゃうかもね~!』
そう言われて爺ちゃんやフィオナが奴に踏み潰されたりバズーカで吹き飛ばされたりする凄惨なイメージが頭の中で再生される。
こんな殺人鬼の命に遠慮して爺ちゃんやフィオナが不幸な目に遭ったら死んでも死にきれない。
「こいつを相手に殺さないように戦うなんて不可能だ。――覚悟を決めるしかない!」
『お、ついにやる気になったかな? だったらせいぜいオレを楽しませてくれよ~』
<ガルム>は弾を撃ち尽くしたバズーカを捨てて主武装のショットガンを構える。重量が減ったことでスピードが増し<タケミカヅチ>との距離が縮まる。
ショットガンからD粒子の散弾が放たれ、こちらのDフィールドに何発か当たって耐久値が減ったことをOSが知らせてくる。
『Dフィールド出力八十パーセントに低下』
「至近距離であの散弾をまともに受けたらDフィールドが持たない。――でも<タケミカヅチ>の性能を活かすには接近戦に持ち込まないと……」
どう攻めるか考えていると街の外に出た。とにかくこれで周囲に被害を出さずに戦う事が出来る。
アサルトライフルを左手に持ち替えると右腕を左腰部のサイドアーマーに伸ばし収納していた<レッドキャップ>のビームソードを手に取る。
さっきまで戦っていたサルベージャー達よりも格上の相手にビームダガーでは心許ない。最大火力でDフィールドごと<ガルム>を斬り裂くしかない。
「もう少し街から離れないと流れ弾で被害が出るかもしれない。……後もう少しだけ引きつけて……」
敵を『アハジ』から遠ざけようとしていたら奴は急に街側に正面を向けた。
その謎の行動を訝しんでいると<ガルム>の各部に装着されているグレネードランチャーが稼動し発射態勢に入る。
「何をする気だ!?」
『せっかくだから街を吹き飛ばそうと思ってね。白兵戦主体のその機体じゃグレネード全てを落とすのは難しいだろ。――残念だったね!』
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
止めようにも僕がいるのは<ガルム>が攻撃しようとしている『アハジ』とは正反対の位置だった。
全速力で奴の正面に回り込もうとすると無情にもグレネード弾が一斉に発射された。
『その位置じゃ対処できないねぇ。これで何人死んじゃうかなぁ? んはははははははは!!』
<ガルム>のパイロットの勝ち誇った笑い声が木霊する中、発射されたグレネード弾が『アハジ』に向けて飛んでいく。
最悪の事態を覚悟した時、全てのグレネード弾が街中に入る前に爆発した。
『ったく……一応回り込んでおいて正解だったな。無抵抗の街にグレネードぶっ放すとか、とことんいかれてやがんなテメェ!!』
いつの間にか街の方に回り込んでいたバルトがガトリング砲で撃墜してくれた。すると間髪入れず全てのミサイルランチャーのカバーが開放される。
『ロックオン完了……これで爆ぜろ!!』
<カグツチ>の両肩と両脚のミサイルランチャーから多数のミサイルが発射され不規則な軌道を描きながら<ガルム>目指して飛んでいく。
<ガルム>はスラスターやバーニアを駆使してミサイルの弾幕を躱したりショットガンでまとめて撃墜して被弾せずにやり過ごした。
『んはははははは!! 本当に楽しませてくれるじゃないの! まさかこんな片田舎でここまでオレを昂らせる連中と戦えるとは思わなかったよ。でも惜しかったなぁ、その程度の弾幕じゃオレは落とせないよー!!』
「だったら接近戦でぇぇぇぇぇ!!」
<ガルム>に向けてアサルトライフルで牽制しながら<タケミカヅチ>を突撃させ、間合いに入った瞬間にビームソードで斬りつける。
敵機のDフィールドは斬り裂けたが本体の装甲をかすめただけで回避される。
さらにショットガンで反撃され、今度はこちらが後方に飛んで回避するもアサルトライフルに散弾の一部が当たり使用不可能になってしまった。
「ちぃっ!」
左手に持っていたアサルトライフルを捨て、代わりにビームダガーを装備すると<ガルム>がビームソードで斬りかかってきた。
<タケミカヅチ>と<ガルム>のビームソードがぶつかりあって激しい閃光がほとばしる。
コックピットには目の前にいる<ガルム>の姿が大きく映り、その赤い複眼はまるで僕を睨んでいるかの様に見える。
すると敵の嬉しそうな声が聞こえてきた。
『いいねぇ、さっきの斬撃はコックピットを狙っていた。――オレを殺そうとしたな? 甘ちゃんは卒業したのかい?』
「覚悟を決めたと言ったろ! あんたは街もそこに住む人も無差別に、しかも楽しんで破壊していく。そんな奴を相手に手心を加える気は無い。――確実に機体もパイロットも潰す!!」
<ガルム>は切り払うと一旦距離を取ってショットガンを撃ってきた。僕は機体のバーニアとサイドステップを組み合わせて真横に高速移動して散弾を躱す。
再び<ガルム>はショットガンの銃口をこちらに向けようとする。
発砲される前に左手に持っていたビームダガーを投擲してショットガンの銃身を斬り落とし破壊することに成功した。
『へぇ、やるじゃないの!!』
<ガルム>は破損したショットガンを投げ捨て装着されていたグレネードランチャーを全てパージして身軽になると、今までとは段違いのスピードで接近してくる。
お互いに残っている武器はビームソードのみ。ここから高密度D粒子の刃をぶつけ合う剣戟に突入した。




