九話
総合pt300いきました。
入れて下さった皆さんありがとうございます。
それにしても……
九話だというのに主人公の描写が一切ないという。
一話で変わったとか言いながら話に全く出てこないですね。
もう、いっそのこと人物紹介でも作るべきなんでしょうか。
アイリスに名を付けたあと、さすがにずっと抱きしめているわけにもいかなかったので彼女を解放すると隣に腰掛けた。
「アイリス……って少し言いにくいですね。イリスでいいですか」
「ん。もちろん。………そうだ。言い忘れていたが、精霊に名をつけて自分の名前を渡したら、契約したことになるからな」
さらっと彼女が告げた言葉が一瞬理解出来なかった。
「……はい?」
それは俺の聞き間違いでなければ俺とイリスは契約を交わしたということで。
「聞いていないんですが。そんなこと」
「言ってないからな。訊かれなかったし」
確かに俺は訊ねなかった。
しかし普通、あの場面で断るとかはないだろう。
こういうものは先に言っておくものだと思うのだが。
「いいじゃないか。ずっと一緒にいられるぞ」
彼女は嬉しそうに笑う。
卑怯だ。
そんな顔されたら何も言えなくなってしまう。
俺は諦めたように息を吐いた。
「……別に拒否する理由もないしいいですけどね。で?その契約とやらはどんなものなんです?」
「契約した精霊の属性の力の増幅だ。これは私の場合全部の属性だな」
つまり俺の力は現在、神にもらった膨大な魔力+全ての精霊魔法+始祖精霊のバックアップ、というわけだ。
あれ?なんなんだろう。この状態は。
「どうしたんだ?」
黙りこんだ俺を不思議に思ったのかイリスが顔を覗きこんで来た。
「いえ、何でもないです。……ただ真面目に努力している人に少し申し訳なく思っただけで」
元の世界から来てまだ1日と経たずしてこの力。
魔法も一度も失敗することなくぶっつけ本番で成功してしまっているし。
しかも規格外に全種類使えて始祖精霊と契約。
俺だったらこんな存在知ったら切れる。
そう言った俺の言葉にイリスはよく理解出来ないといったように首を傾げる。
「別にそんなこと思う必要はないだろう?魔法というのは才能の問題だ。いくら努力してもなかなか報われることはないんだぞ」
「……報われないんですか」
それはそれでどうかと。
「ハヤトの才能は凄いぞ?しかも精霊に懐かれているしな」
その理由を精霊たちに問おうとして途中で邪魔が入ったのだった。
ちょうどいい。
イリスに訊くことにしよう。
「何で俺は懐かれているんですか?特に何かをした記憶はないんですけど」
「んー。そうだな。理由は3つある」
イリスは自分の指を三本立てる。
「まず第一に精霊に気付けること。なかなか気付ける奴はいないからな。気付いてくれる存在は嬉しいんだ」
精霊に気づける人がなかなかいない?
「魔術師は?魔法を使うということは存在に気付けているのではないですか?」
「いや、彼らは知識として知っているだけだよ」
彼女は寂しそうに言った。
「では契約が出来るのは何故です?」
存在がわからないというのに契約など出来るのだろうか。
「契約するのは上位の精霊だけだ。上位精霊は人に姿を見せることが出来るからな」
なるほど。
風の精霊が見えなかったのは彼女たちは上位精霊ではなかったからか。
「説明に戻るが、第二に精霊を道具と思ってないことだ」
「道具って……。彼女たちには自我があるじゃないですか。下手な人間よりも頭がいいのに」
なのに何故彼女らを道具として扱う奴らがいるのか。
しかし彼女は首を横に振る。
「だとしても気付いてくれないからには意味がない。言葉を交わせるのはハヤトぐらいだろう?」
あぁ、そうか。
忘れていた。
だから風の精霊はあんなににも喜んでいたのか。
お礼を言ったとき嬉しそうだったのは感謝されていなかったからだろうか。
道具に感謝する人などいないだろうから。
誰も──誰にも見えていなかったのか。
精霊にも心があるのだと。
「で、最後にハヤトの魔力は精霊には心地いいんだ。精霊にのみ有効なフェロモンを撒き散らしている感じだな」
「ちょっと待って下さい」
何か今不名誉なことを聞いた気がするのだが。
「何かひっかかるようなことでもあったか?」
「えぇ、とてつもなく」
フェロモンを撒き散らす?
なんだそれ。
俺はどこぞの色男ですか。
「まぁ、気にするな。事実だ」
「その一言で余計に気になりました」
ここでグダグダ言っても仕方ないのはわかる。
けれどあの表現だけは止めて欲しい。
「こんなとこだな。ハヤトが精霊に好かれる理由は。風の精霊に関してはもう少し理由があるようだが」
「?それは?」
これ以上に何かあるというのだろうか。
出来れば三つ目の理由のようなものは止めて頂きたい。
そう考えていたら風の精霊たちが声をあげた。
〝それは私たちが言うわ〟
〝王様はね、相性がいいのよ〟
〝私たちと性質が同じだから〟
彼女たち、今の話を聞いていたのか。
風だから聞こえたのだろうが、今後俺にプライバシーというものがなくなりそうだ。
────とりあえずそれは今は置いておこう。
「性質ってどんなものがですか?」
〝それは───〟
〝誰にも縛られない〟
〝自由気質?〟
〝自分の面白いと感じることを追求する〟
〝やりたいようにやる〟
「つまりはゴーイングマイウェイだ」
……否定はしない。
けれどイリスさん。
貴女の一言は色々とくるものがあるんですが。
なんて俺が少なからずダメージを受けていると、
〝そうだ。王様〟
〝始祖様を助けてくれてありがとう〟
〝ありがとう〟
〝私たちにはどうすることもできなかったから〟
〝ありがとう〟
精霊たちが思い出したようにお礼を言ってきた。
声は風の精霊しか聞こえないけれど、他の精霊も言っているようだ。
「俺は特に何もしてないですけどね」
「感謝は快く貰っておけ。───精霊たち、私の名はアイリスだ。イリスと呼べ」
イリスは囁くように呼び掛ける。
精霊のトップだからな。
精霊たちに慕われているようだ。
「イリスは名前でよんで貰えるのに、俺は相変わらず王なんですね」
〝ごめんなさい、王様〟
〝契約の一部に関わっちゃうから〟
〝呼ぶことは出来ないの〟
〝ごめんなさい〟
謝られてしまった。
別に強制したいわけではないし、謝るほどのことではないのだが。
「彼女たちは力が弱いからな。名を呼ぶだけでハヤトに捕らわれる」
ハヤトの力が大き過ぎるんだ、と。
「それは……。知りませんでした。謝るのはこちらのほうですね。すみません」
〝気にしないで〟
〝気にすることはないわ、王様〟
でも王様と呼ばれるのはちょっと……。
誰だ?って思ってしまう。
「そういえばイリス。君も始め俺を王と呼んでましたよね。何故俺が魔王だと?」
魔力は抑えたはずだし……どうしてわかったのだろうか。
直ぐに見破られては俺の勇者補佐という体のいい勇者たちを観察するという娯楽……いえ、同郷の者の行く末を見守ることが出来なくなってしまう。
「今本音が……」
「何のことですか」
にこり、と笑いかける。
「すまない。気のせいだ」
顔を背けて震えているがどうかしたのだろうか。
「それより魔王だとわかった理由だったな!」
何かを振り切るように声をあげるイリス。
「精霊は力に敏感なんだ。精霊自体が力の塊みたいな者だからな。普通の精霊にはわからないかも知れないが私は始祖精霊。直に魔力を貰ったときにハヤトの魔力の量に気がついた。それだけ魔力を持っているんだ。魔王でないわけがない」
「───なるほど。ということはこの状態でイリス以外にはバレることはないですよね」
「そうだな。普通の魔術師よりも少し多いぐらいの魔力、としか感知出来ないだろう」
それは一安心だ。
と、思ったら。
コンコン、とノックされ、「ハヤト、入るぞ」とヒビキが声をかけて来た。
待って下さい。
イリスが部屋に居るんですけど。
「イリス、隠れられませんか」
「石に戻れるが……なんでだ」
「まだ精霊と契約したとバレたくないんです。手札は隠しておくものでしょう。いずれは打ち明けると思いますが、もう少し人となりを知ってからにしたいんです」
「わかった」
早口、かつ小声で会話するという器用なことをやり、なんとかヒビキが扉を開くまでにイリスが宝石に戻れた。
アイリスの愛称をアイかアリスかイリスかで迷ったんですが一番彼女に合っているのがイリスかなって。