四話
サラ先導のもとに───周りを兵士に囲まれつつ、だが────俺たちは森を出るため現在歩いている最中だ。
〝王様、王様〟
〝勇者と行くの?〟
〝魔の王なのに?〟
精霊たちが不思議そうに声を上げた。
俺はそんな彼女たちに言葉を返そうとするが、 ふと気が付く。
────先程のヒビキの反応を見るに、他の人に彼女らの声が聞こえていないのなら、俺が彼女らに話しかけたら一人誰もいないところに話しかけている人になるのでは?
周りを見てみるが誰も声が聞こえた素振りはない。
だが彼女たちに返答をしないといけないだろう。
そういや彼女たちの声は念波のようなものだ。
なら頭の中で話しかけて見ればいいのではないだろうか。
『精霊たち、聞こえますか?』
〝聞こえる。聞こえるわ〟
〝凄い、凄いね王様〟
〝凄いわ〟
どうやら無事成功したようだ。
『凄いって何がです?』
〝王様、私たちと念で会話したわ〟
〝誰もそんなの出来なかったのに〟
〝だから凄いの〟
〝凄いのよ〟
そうなのか。
案外あっさりと出来てしまったのだけれど。
『先程の質問ですが俺は彼らについていきますよ』
〝どうして?〟
〝どうして?〟
『そうですね。
理由は色々とありますが、あえて言うなら、その方が面白そうだから、でしょうか?』
〝そうね〟
〝そう〟
〝面白そう〟
〝勇者と行動する魔の王なんて〟
〝面白そうだわ〟
どうやら俺の考えは彼女たちのお気に召したようだ。
『ところで王様と呼ぶのは止めてくれませんか?ハヤトでいいですよ?』
〝いいの〟
〝いいのよ〟
〝王様は王様だから〟
〝でも名を許してくれてありがとう〟
彼女たちはまた嬉しそうにくるくる舞っているようだった。
断られてしまったが、彼女たちがいいと言うのならその呼び方でいいのだろう。
此方としては王様なんてむず痒いものがあるのだけれど。
「そろそろ森を出ますわ」
サラの言葉を受けて前を向くと道の先に光が見えた。多分あそこだろう。
そこへは5分程でつけた。
そこにはサラが乗ってきたのだろう豪華な馬車と、兵士たちの馬があり、俺たちはサラに促されて馬車に乗り込んだ。
「今から王都に向かいますわ。今から二時間程かかるのですが、その間に説明をした方がいいかしら」
彼女の提案はありがたい。
なんせ来たばかりで情報が不足しているのだから。
「お願いします。それと敬語じゃなくて構いませんよ」
彼女のような地位の高い人に敬語を使われると、そんなことはないのに地位が高い者だと周りに誤解を与えてしまう。
それに、彼女には悪いが彼女のしゃべり方に無理があるような気がする。
敬語自体に問題はないのだが、しゃべり慣れていないのだろう。
なんとなくぎこちない印象を受けた。
「そ、そう?なら貴方も敬語じゃなくていいよ」
彼女はどこかほっとしたような表情をして言った。
後に続けて言った言葉は俺に言っているのだろう。
ヒビキは森で話しているうちにだんだん敬語がなくなっていったから。
これについてはなかなか敬語を使う機会なんてないから仕方ないと言えば仕方ないだろう。
「いえ、俺のこれはクセみたいなもので。これが自然体なんですよ」
だから気にしないで下さいと微笑む。
サラは何故か固まってしまった。
もしかして勇者の代わりに彼女を助けてしまったから本来ヒビキのフラグだったのを俺が立ててしまった………なんてわけないよな。
それは自意識過剰というものだ。
平凡な俺と違いヒビキは美形だから、俺が最後にちょっとだけ助けたからってヒビキのフラグが折れることはないだろう。
俺はバカな考えを放棄して、サラに話しかけた。
「では質問してもいいですか?」
「え、あ、はい」
彼女はやっと気が付いた。
「まず、何故貴女は一人であんなところにいたのですか?」
「確かに。なんで女の子が一人でいたんだ?」
俺の質問にヒビキが便乗する。
俺とは違い、純粋に彼女の身を案じてのことのようだが。
「えっと、勇者様を探しに私たちはあの森に行ったんですが、ちょっとはしゃいでたら、みんなと離れちゃってて……」
サラはうつむきながら話した。
外見からして同じぐらいの年のようだから、いい年して迷子になったことが恥ずかしいのだろう。
フォローは……無理だ。
せめても俺は話題を変えるためにも急いで話しを進めることにした。
「ゆ、勇者を探しに来たということですが、勇者が来ることがわかっていたのですか?」
「あ、はい」
対面に座った彼女の淡い金の髪が頷いたことにより波うつようにひろがった。
「実はお告げがあって、勇者が来ることはわかってたの」
「お告げ、ですか」
「はい。この国には先読みの巫女がいて……。実は私だったりするんだけど」
そう言ってサラは少し照れたように笑った。
「へぇ……。先読みか。どんなことが出来るんだ?」
「この国に関わる大事を神託することが出来るのよ。先読みの巫女はね、代々王家の女の子が着く役職なの。私は母様のあとを継いで巫女になったのよ」
その仕事に誇りを持っているのだろう。彼女の顔は誇らしげだった。
「的中率はどれくらい?」
「ほぼ外れたことはないわ」
「ほぼとはどういうことなんです?」
言い切った割には言葉の頭に付けられた言葉が気になる。
「私が知ってる限りって意味………」
信憑性が下がった。
「でも勇者様たちが無事でよかった」
彼女はそう微笑んだが意味がよくわからない。
何か危険でもあっただろうか。
「というと?」
「森の中で凄い重圧感を感じたの。あれはかつてない強大な力をもった魔王が生まれたからよ」
………どうやら気付かれていたようだ。
目の前にいることが気付かれなければいいが。
ん?かつて?
ということは魔王は元々いるわけか?
「それは俺も感じたな。すぐに消えたけど。先読みで魔王が生まれることはわからなかったのか?」
「一応神託を受けたわ。誰も太刀打ち出来ないほどの力を持った魔王が現れるだろうって。でもそれは、今年ってことしかわからなかったの。まさか勇者様がくる日と同じだなんて」
「まあ、言っても仕方がないことですからね勇者が来るよりも前じゃなかったことを喜びましょうよ」
そう言ってこの会話を打ち切る。
このまま続く色々とヤバい。
窓のそとに目をそらすと城とその城下町が見えた。
疲れてきました。