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物語のヒロインのように

 そうして迎えた当日は朝から、ううん、ドキドキしすぎてちょっと寝不足なくらい昨日から緊張している。

 約束までに時間があるから街に出ようかとも思ったけど、今日は人生の一大イベント、思い出に残る大事な日になるのだからと、入念な準備に費やした。


 城内の部屋を借りられればとも考えたけど、警備上の問題とかで入城時間は決められているし、どうせそんなところで使用人も連れずに準備なんて緊張するだけだから寮ですればいい。ここから綺麗にして出掛けていく姿を見せて、学園のみんなを驚かせるのも楽しいだろうし。


 丁寧に化粧を施し、どの角度から見ても可愛く見えるように何度も確認をする。くせっ毛の髪はいつも通り理想のようにはまとまってくれないけど、お気に入りの香油でどうにか整えた。

 艶やかな髪に、ふんわりやわらかな生地で作られた緑のドレスは華やかでとっても可愛い。仕上げに、小ぶりだけど上品なネックレスとイヤリングで上品にまとめる。鏡に映るあたしは、もう間違いなく物語のヒロインだった。


「これはオスカー様も惚れ直すこと間違いなしね!」


 浮き立つ気持ちのまま、まだ少し早いけど部屋を出る。

 窓の向こうは明るくて天気がいいのがよくわかった。オスカー様が手配してくれている馬車もそのうち着くだろうし、行き来に不便はなさそうね。

 外に出るためエントランスホールの談話スペースを通り抜けようとしたところ、そこで見慣れた顔を見つける。


「まあ、キャンベルさん?」

「ごきげんよう、皆様方」


 そのご令嬢たちは同学年の中でも、比較的会話を交わすことの多いグループのうちの一つに属す二人だった。普段着のワンピース姿の彼女たちが着飾って綺麗になったあたしに目を丸くしているから、ソファに歩み寄り優雅に一礼して微笑んでみせる。


「素敵な装いですわね」

「とてもお似合いになってますわ。進級祝いにいただいたの?」


 にこやかな彼女たちの言葉に気分が上がる。


「今日のために特別に仕立てたの」

「あら、感謝祭のためにわざわざ?」

「うーん、そうだけどそうじゃなくって」


 正直に言ってしまおうかどうしようか、ちょっと悩む。

 あたしとオスカー様が付き合っていることはなんとなく察している人も多いと思うけど、元婚約者が亡くなってまだそう経っていないのに浮かれるのはいけないことと思われるかな?


「前々からの約束で、デートの予定だったから」


 そう、だからタイミングが悪いのはたまたま。あたしを公の場で正式にエスコートしたいって言ってくれたから。それに見合うような装いが必要だったんだもの。


「……お噂の彼と?」

「まあ……それは楽しみですわね」

「噂だなんて、どんな噂かしら、恥ずかしいわ。でもほんとにずっと楽しみにしていたのよ」


 予想はしていたのか、驚くでもなく二人は声をひそめ、その分だけそっと顔を寄せた。今もあたしを変な目で見ている人がいるみたいだから、その気遣いがありがたい。

 きっと噂もいろんなものがあるに違いない。でも負けないわ、あたしにはこうして味方がいるんだから。


「ジェイミーさんとビビアンさんもご婚約者さんがいるのよね?」

「わたくしたちはお昼の間に出掛けてきましたの。ね、ジェイミー」

「学生のうちは日中にお会いするのが定番ですもの」


 定番を外して夜デートなあたしを、二人は羨ましそうに見る。

 照れくさくなって笑っていると、玄関から入ってきたばかりのナターシャさんが通りかかった。休日だというのに制服の、いつも通りの格好だ。


「ナターシャさん、今お帰り? お手伝い出来なくてごめんなさいね」

「ありがとう。ビビアンさんはご予定があったのだから気にしないで」

「先生方も先輩たちもあなたに頼り過ぎではないかしら」

「予定もないから自分で買って出たのよ。でもありがとう、ジェイミーさん」


 微笑むナターシャさんは、さすが学年代表だけあって頼りにされている。こんな日にも誰かのお手伝いを頼まれていたなんて。


「あれこれやらされてナターシャさんったら可哀想。そういうのは断った方がいいわ」

「無理な時はきちんとお断りしますから。お気遣いなく」

「ナターシャさんは意外とそういうことが苦手だものね。何かあったらあたしが言ってあげるからねっ」

「……お優しいですね」

「そりゃあお友達のためですもの!」


 力強く請け負ってあげれば、ナターシャさんはいつものようにそっと笑う。普段誰よりしっかり者だからこそ、こういう時はお互い様よね。

 それより、とナターシャさんが言う。


「キャンベルさんは今からお出掛けですか?」


 あたしはにっこり笑顔で頷く。


「そうなの、お城の夜会に招待されてて。まだちょっと早いけど遅れるよりはいいでしょう?」


 楽しみでたまらない気分があふれてその場でくるりと回ったあたしの姿に、ナターシャさんが目を細めた。通りすがりの寮生がこちらを見てくるのを感じたけど、それすらも気持ちを高揚させてくれる。


「楽しんできてくださいね」


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