表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/21

再会への約束

 だけど、会えないままに季節は変わる。


 手紙でのやり取りは繰り返していたけど、返事を待つ時間ももどかしく、オスカー様からのお手紙が届くまでの間に二通三通と送る頻度は上がっていった。

 急かしているわけじゃないんです。でも早く返事をしてほしい、叶うなら会いたい!


 そうしてようやく『収穫感謝祭でお会い出来るのを楽しみにしています』と再会を約束する言葉が届いた。


 収穫感謝祭はその名の通りの行事。王都では冬が近づくと領地に帰るのが困難になる人もいるからと、秋の始まりに行われる。転送門が運用されている現在ではそうそう帰領出来ないなんてことはなくなったというけど、これも古くからの決まりみたいなものらしい。うちの領地ではもう一ヶ月ほど経って収穫作業が落ち着いてからの行事だった。


 城下では各地からやって来た露店がたくさん並んでにぎわう。収穫を祝うお祭りだけに食べ物を扱うお店が多くて、夜には食べて呑んで歌って踊って騒いでと、時間が進むほどに盛り上がっていくものだという。

 学園でもちょっとしたパーティーがあって、貴族生徒たちの親から送られてきた領地の特産物をふんだんに使用した料理がメインになる。庶民生徒は昼間に実家を手伝ったりすることもあるみたいだけど、生徒たちは大体友達と街に繰り出して、でも夜はごちそうを食べに戻ることが一般的のよう。

 あたしも王都に出てきてからは、一人だったり、誰かとだったり、街に出歩いて露店を冷やかしから学園のパーティーに参加するのが去年までの流れになっていた。


 オスカー様との約束は夜会、お城で開かれるパーティーの会場で。

 お城はもちろん招待客でなければ入ることは出来ない。学生での参加なんて、それこそ年上の婚約者の同伴でもなければ無理な話。つまり……と考えて顔がゆるむ。


 待ち合わせが会場ということだからエスコートはお会いして以降ということになるのが残念だけど、エスコートされながらのパーティー入場はこれから先に取っておこうということね。なんといっても婚約者なんだもの。


「ああでも何を着ればいいのかしら」


 クローゼットの中を引っくり返す。入っているのは制服と、ワンピースとドレスが数着。

 貴族の娘といっても、今時は王都のご令嬢もワンピースを普段着にしていることが多いみたいで、あたしも領地では基本的にワンピースだったから、どちらかと考えるまでもなく手持ちはドレスよりワンピースの方が多い。

 パーティーでエスコートしてくださるならデザインを揃えたドレスを殿方から贈るものだと聞くのに、オスカー様ったら。そんなうっかりしたところも可愛いから許してあげるわ。


「せっかくならデートしてから夜会に行きたかったけど、仕方ないわね」


 学園の行事やドレス指定の授業では、いつもは学園からレンタルしていた。寄贈されたりチャリティーバザーの売れ残りだったりするらしいけど、どれも綺麗なもので、授業用には大半の子がレンタルを利用していると思う。


 だけど、今回ばっかりは新しく仕立てないといけない。なんといってもオスカー様直々のお誘いで、しかも『大切な話があります』と言うのだから。


 デザインはともかく色くらいは合わせたいけど、彼が何色を着るのかがわからない。となると、やっぱりここは緑かしら。オスカー様の瞳の色。光を受けてキラキラきらめく葉っぱのような。

 フリルで華やかにして、刺繍はお金はもちろん時間もかかるから諦めるけど、精一杯お姫様みたいなドレスにしたい。

 父様におねだりしなくちゃ。愛娘が幸せになるんだもの、一着くらいどうにかしてくれるはずよ。


 当日を待ち遠しく思い馳せて、笑みがこぼれてしまう。気持ちのまま、衣類の散らばったベッドに飛び乗って転がった。


「ふふっ」


 人生最良の日になりそうだわ!


 それからはあっという間。実家と連絡を取って、ドレスを用意してもらう。流行りもあるから作るのはもちろん領地ではなくこちらで。父様は愛娘の晴れ舞台だからって張り切って、話を聞いた兄様も奮発して琥珀の装飾品を買ってくれた。

 あたしが侯爵夫人になればお返しをしてあげるから、もうちょっと待っていてね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ