「Another.【父】」
人生の中で最も悪い日となるその日は朝から忙しくしていた。
ルインは大きくなり手もかからなくなった。
昔から気を使いすぎる位のかわいい息子だったんだ。
それもあってかルインに兄弟が出来る話はまだしていなかった。
ルインのおかげで食べるものは増えたが肉が無い。
妻には肉を食べてほしいと考えていたのだが、
フリルの家からのお裾分け位しか肉を食べる機会はなかった。
食べ物があるだけでありがたいそう思いながら妻の分も働かなくてはいけなかったので、
朝から畑仕事に向かい作業を始める。
「あなた、そろそろ食事にしましょう」
「あぁ、家で待っていてくれてもよかったんだぞ?」
「まだ大丈夫よ!私もできる限りのことは手伝うわ」
お昼ご飯を食べ仕事に戻る。
数時間経っただろうかフリルが俯きながらこちらに歩いてくるのが見えた。
「おーい!フリルどうかしたのかい?」
フリルはこちらに気が付くと走って私達の所へ向かってきた。
着くや否や驚愕する言葉を発する。
「ルインが、ルインが森へ入っていったの・・・」
「フリル、落ち着いて教えてほしいんだけど今の事は本当かい?」
「私、ルインを驚かそうと思って後ろについて行ってたのそしたら森の入り口の大人がいなくなるのを待って、森へ入っていったの。
私はお父さんから何度も入っちゃダメだって言われていたから最初迷って、入ろうと決めたときには大人が戻ってきて入れなくなっちゃったの」
心臓が脈打つ音が聞こえる。
妻には内容を説明せず家に帰るように伝えた。
「もう少しで日も暮れる、フリルお父さんは家にいるかい?」
「お家にいるよ」
「わかった連れて行ってくれるかな?」
「わかった、ごめんなさい私止められなくて・・・」
「いいんだフリルは悪くないよ、とにかく先を急ごう」
フリルの家に到着すると話を聞いたことを説明し村の男衆を何人か呼び集め山の入り口まで向かうことになった。
皆片手に松明を持ち森の入り口に到着した。
日も傾き辺りはオレンジ色に染まってきている。
すると突然獣の鳴き声とともに地震の様な揺れが起こる。
「ここからかなり距離があるだろうがなんなんだあの声の大きさとこの揺れ」
私の口から出た言葉を聞きまわりの皆焦燥感に襲われる。
よく目を凝らしてみていると木を吹っ飛ばしなぎ倒しながら何かがこちらへ向かってきている。
皆一様に脅えて不安を募らせていた。
その何かが森の入り口へ差し掛かろうとしたときに前を走る姿に気が付いた。
「ルインッ!!お前なんで森なんかに入ったんだ早くこっちに来るんだ!」
「お父さんっ!!助けて!」
ルインがこちらへ助けを求め叫んでいるその瞬間に腹部から大きな牙が突き出しルインの口から大量に出血するのが見えた。
「ルイン!ルイン!!あぁ、、あなたルインがルインが」
妻も心配になりこちらへ様子を伺いについてきていた様だが、
目の前の現実を受け止めきれずに茫然としてしまう。
その間も大きな怪物はルインを玩具の様に振り回していた。
次の瞬間ルインは牙から振り払われ谷底へ真っ逆さまに落ちて行った。
私は膝から崩れ落ち言葉も出ずただ泣き喚くことしかできない。
妻は男衆に抑えられているようだ。
そんな様子をしり目に残っている者が松明の火を橋に点けた。
あんな大きな怪物では、
木のつり橋を渡ることはできないだろうに徹底してこちらへは来させないつもりのようだ。
今日という日から地獄の日々が始まるこれから永劫自分の事を攻め続けることになるだろう。
この日この瞬間そしてこれからくる”あの日”までは、
どんな事をしてもルインに会いたい、どんな状況でもルインを抱きしめたいと心から思っていた。
そして私は人生において大切な者を失う日になるのであった。




