「11.そのまま谷底へと落ちていくのだった」
今思えば狩りの成果等全てを捨ててでも逃げ出すべきだった。
ここから色々な歯車がかみ合わなくなっていってしまう。
「シグレ、”アレ”を倒すことはできる?」
「わからないー、やってみる?」
恐らくあの怪物はこの山のヌシだろうということは想像ができた。
”アレ”を倒すことが出来ればお父さん達に認めてもらえる。
今の暮らしがもっと豊かになる、そう考えてしまった。
更に昼間、自分達の力でイノシシを狩ることが出来たという事実が、
逃げなくては殺されると思い至った思考を捻じ曲げてしまった。
息を潜め、昼間と同じ無数のアイスランスを出現させる。
それと同時にどっと脱力感があり、倦怠感もでてきた。
昼間の100を優に超え、3倍位はあるであろうアイスランスの出現に勝利を確信する。
怪物はようやく異変に気付いたようだが時すでに遅し。
「いけえええええ」
怪物に無数のアイスランスがぶつかり、アイスランスは小さな氷の結晶をまき散らしている。
しばらく攻撃が続き最後の攻撃が終わると辺りは静寂に包まれる。
この山のヌシを狩り先程に勝るとも劣らない赤い石を想像し、さらに大きな氷の箱を作り始めようとシグレに声をかける。
「ありがとう、シグレ!僕達あの怪物に勝ったんだ!新しい氷の箱を用意し」
僕の言葉を遮るように化け物が咆哮する。
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」
あまりにも突然の咆哮だった。
その咆哮で美しく輝いていた小さな氷の結晶は離散し、
少し傷がついた白い怪物がこちらに気付き突っ込んでくる。
何が起こったか理解できないでいるとシグレが声をかけてきた。
「ルー!!逃げる!!アレは強すぎる!!早く逃げる!!」
その声を聞き森の入り口へと一目散に駆け出した。
その間にも木々をなぎ倒しこちらへ突っ込んでくる。
霧を発生させながら走り続けているが身体がだるく思うように動かない。
幸いな事に攻撃が効いているのか木々が生い茂っているからなのか分からないが怪物の速度は最高速度ではないらしい。
距離が詰まったり離れたりを繰り返しながらもう少しで森の入り口というところで、
入り口が物凄く明るくなっているのが分かる。
とにかくその明かりに向けて歩みを進めるが、既に力が入らない。
森を抜けてすぐ谷の橋の向こうへお父さんたちが見えた。
「ルインッ!!お前なんで森なんかに入ったんだ早くこっちに来るんだ!」
「お父さんっ!!助けて!」
そう呼びかけた次の瞬間声が出なくなり寒気と同時に口から大量の血を吐く。
下に目をやると大きな牙がおなかから突き出していた。
朦朧とする意識の中でシグレが何か言っている様な気がしたが、
死ぬんだと悟り思考が停止した。
そのまま谷底へと落ちていくのだった。




