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めぐりあい

作者: 74

築港…赤レンガの近代モダンの建物は、1923年貨物用の倉庫として建設されました。


「レトロでいいね。」と、貴女は笑う。

100年前、海の見えるこの場所で、「モダンで近代的だ」とおさげ髪を揺らして同じように笑っていましたね?


あの頃、私は、17才、貴女は3つ年下の14才。

地方から奉公に来た、職人の私には、お嬢様は眩しい存在でした。


旦那様に連れられて、ヒラヒラのワンピースで踊るように歩く貴女は、西洋人形のように愛らしいと噂をしていたものです。


めっきりお話をする機会も無くなった私を覚えてくださり、この倉庫の案内役に指名されたときは、私は、とても誇らしく、また、嬉しく感じていたのですよ。


明治時代からの悲願であるこの倉庫の完成は、2棟の倉庫。

北に200。

南に300。

2階建ての最新建築でした。


私は、それを自慢げに貴女に話しましたね。


貴女は、「お嫁さんになってあげる。」と、無邪気に笑った7つの頃と変わらない無邪気な笑顔で私を見ました。


日清戦争で、予算がなくなり、欧州の大戦で予算を貰えるようになるとは、因果を感じますが、戦争は終わりました。

流行り病も下火になり、発展する日本を貴女は嬉しそうに語ってくれました。

貴女は、発展する日本のように若く美しく、遠い人のように思えました。


貴女にこの倉庫を…私の仕事を説明したひとときは、今でも、私の心の宝物なのです。


ただ、今でも心残りなのは、住吉様に2人でお参りした時の事。


貴女は…神様にお参りしてから境内をめぐり…そして、何を願ったのか?そう質問した私に、真剣な顔でこういいました。


「あなたの…お嫁さんになりたい。」と。


東京の貴族の息子さんと、見合いが迫っていました。


何処からか、潮の香りにまぎれて、初夏のバラの香りがしていました。


私は笑って、あなたの言葉を冗談に変え、


貴女は、酷く傷ついた顔で、走っていってしまいましたね。



夏が終わる頃、東京へと旅立つ貴女のその先を、住吉様にお願いしました。


この煉瓦の倉庫のように、長く、美しく、幸せであってほしいと。



結局、貴女は、この倉庫の完成を見ることは叶いませんでしたね。


私も、あの、恐ろしい震災を知っていたら…

例え、この身が切り刻まれようと…貴女の手を放したりはしなかったでしょうに。


旦那様は貴女を探しに何度も関東へと向かい、

私も、倉庫の施工の合間をぬって貴女を探しに行きました。


やっと…あえた。


姿かたちは変わっても…私には、貴女がわかるのです。

貴女の魂が昔と変わらずキラキラと輝いているから。


貴女の様に、この倉庫も、新世紀に生まれ変わりました。


ゆっくりと、楽しんでいって下さい。


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