第3話「いらないって言ったよな!なんだよスキル【セーブ】って!?」
「あんたも欲しいよね? 【付与能力】」
「いりません」
こういうとき、『結構です』という返事は勘違いされるから良くない。
ハッキリキッパリ、『いりません』だ!
「どんなスキルがいいかしら」
「だから、いらないって」
「リアンの【MOD】は地味だけど、結構使い勝手良いし。こういうのがいいわね」
「地味ですけどね。けっこう簡単にプログラムに弾かれちゃうし」
「弾かれる?」
あ。
思わず質問しちまった。
まるで、俺が興味津々みたいじゃないか!
……興味がないことはないけど。
「『スキル』ってのはバランスが大事なんだ。世界のバランスを崩すような『スキル』は『神』が許さない」
「なるほど?」
「僕の【MOD】だと……例えば僕の『称号』を『人類最後の一人』なんて改変したら、僕以外は死んでしまうだろう? そんなぶっ飛んだ改変はできない」
「ああ、確かにえらいことになりそう」
「とにかくバランス。『僕に触れたら死ぬ』とかも無理だし、『〇〇くんを好き』なんていう、その人の人生に影響するような改変も出来ない」
「ほえ〜」
「『幸運』の消費も大きいし」
「『幸運』って?」
「スキルを使うためのエネルギーだな」
なるほど。MPみたいなもんか。
「だから派手な【MOD】は、ここぞという時にとっておいてだな。地味な【MOD】で相手の足元を崩していく。それが僕の戦闘スタイルだ!」
「すげえ!」
……って、ちっがーう!!
「すごいけど俺には必要ありません。いりません」
あぶねえあぶねえ。
俺の中の厨二が、めっちゃ興奮しちまった。
なんだよ対戦相手って。なんだよ戦闘スタイルって。
そういうのは、中二で卒業したんだよ!
「決めた!」
黙り込んでいたラフィーが、突然叫んだ。
「あんたに与えるスキル、決めたわよ!」
「だから、いらないってば!」
「勝手に与えるから大丈夫」
「俺の承認とか必要ないの?」
「ない! なぜなら、私は『大聖女』だから!」
ラフィーが、昨夜と同じように両手を突き出した。
──パァー!
その掌から、白い光が溢れる。
『郷土歴史研究部』の狭い部室は、あっという間に白い光に包まれた。
「はい。完了」
眩しさに目を閉じていたのは、ほんの数秒だったと思う。
ソロリと目を開けると、白い光は消えて元通りの部室になっていた。
「終わり?」
「うん」
「俺、スキル与えられちゃった?」
「うん」
がっくり。
最悪だ。
……最悪だが、ちょっとドキドキする。
これは、ワクワクだ。
俺、ぜんぜん厨二を卒業できてないじゃん。
いや。男子たるもの、かくあるべきだ……!
「……どういうスキルなんだよ」
「あんたに与えたスキルは、その名も【セーブ】!」
「【セーブ】?」
「うん」
「なにそれ」
「あんた、ゲームしないの?」
「するよ!」
「【セーブ】したことない?」
「あるけど」
「あれ」
「つまり?」
「【セーブ】して『ロード』できる?」
ラフィーが首を傾げた。
ちょっと可愛いじゃないか、この性悪聖女!
「えっと、俺はいつでもゲームを中断できるってことか?」
「は? 中断なんてできないわよ。何言ってるの?」
「いやいや。【セーブ】ってゲーム中断する時にするじゃん」
「どっちかっていうと、クイックセーブみたいな使い方になるんじゃないか?」
口を挟んだのはリアンだ。
さてはこいつ、けっこうなゲーマーなんだな?
「それなら分かる。【セーブ】しておけば、『ロード』した状態に戻せるってことか」
「そういうことね」
「じゃあ、『魔王』の封印が剥がれてない現時点を【セーブ】しておけば、何度でも『ロード』して『魔王』の復活を阻止できるんじゃないのか?」
「できない」
「なんで?」
「さっき、リアンが『バランス』の話をしたでしょ? 世界の状態ぜんぶを【セーブ】できるスキルはバランスが悪いわ」
「確かに」
「せいぜい、人一人分の状態を【セーブ】できる程度よ」
「ははあ。なるほどなるほど。……って、地味!」
「地味かなぁ?」
「地味だろ? 【セーブ】して『ロード』って、どうやって戦闘で活用するんだよ」
「そこは、工夫次第ってことで」
「もっと、こう……。燃やしたり凍らせたり雷出したり、そういうスキルじゃないの!?」
「そういうのは好きじゃない」
「地味ですね。ラフィーさん、ほんとに地味なスキル好きですね」
リアンよ。
そんなことでしみじみするんじゃない。
怒っていいとこだぞ。
「地味スキルをどうにかこうにか工夫して戦うのを見るのが、楽しいんじゃない!」
「わかる」
「それは、まあ、確かに」
思わず、リアンに続いて俺も同意してしまった。
わからなくはない。
地味な主人公が地味なりに頭を使って戦略的に勝つ。
そういう漫画やアニメは、けっこう好きだ。
「ちょっと使ってみなさいよ」
「え?」
急にそんなこと言われても。
「あんたのスキルの使い方は、シンプルにしといたから。対象の『名前』に続いて【セーブ】を宣言する。『ロード』も同じよ」
「名前がわかんないと、使えないってことか?」
「そうだけど。……名前、表示されてない?」
は? 表示?
ゲームじゃないんだぞ。
「されてないけど」
「そっか」
「なんか、まずいのか?」
「ううん。気にしないで」
なんか、ひっかかる言い方だな。
まあ、いっか。
「このスキルも『幸運』ってやつを消費するのか?」
「もちろん。でも、回復できるから大丈夫よ」
『幸運』って、ほんとMPみたいなもんなんだな。
「ふーん。じゃあ、『ラフィー』【セーブ】」
……。
「なんも起こらないな」
「【セーブ】しただけだしね。『ロード』……の前に、何か変化させておかないと効果がわからないわよね」
「そうだな」
「顔に落書きでもするか?」
「それ面白い」
俺とリアンでサインペンを探す。
このへんの引き出しに入ってないか?
そうこうしている内に、ラフィーはハサミを見つけたらしい。
え、ハサミ?
「落書きなんて嫌よ」
──ジョキッ!
「「ぎゃー!!!!」」
俺とリアン、二人分の悲鳴が響いた。
「何してるんですか、ラフィーさん!」
「お、お、お前、髪の毛!!」
「いいのよ。どうせ『ロード』で戻るんだから」
「戻らなかったらどうするんだよ!」
「戻るわよ。私が与えたスキルなんだから」
「そうだけど、そうだけど!」
俺とリアンがギャーギャー騒いでいる間にも、ラフィーはどんどん髪を切っていく。
ああ……綺麗な金髪のロングヘアがぁ……。
見るも無惨な、ザクザクボブになってしまった……。
「落書きの方が良かったんじゃないか?」
「嫌よ。そんな顔見られるの」
「その髪はいいのかよ」
「短いのも、似合うでしょ?」
「それは、まあ」
確かに、可愛くはある。
「そういう問題じゃありません」
リアンが渋い顔で言った。
「せっかく綺麗なんだから、大事にしてください」
「ん。わかった」
……ん?
なんだ、この雰囲気は。
この二人、まさか……!?
百合的な……!?
「違うからな」
「え?」
リアンがさらに渋い顔になっている。
おばあちゃんが梅干しを食べた時みたいな顔だ。
「お前、考えてることがぜんぶ顔に出てる」
「マジ?」
「マジ」
ラフィーの方は、首を傾げている。
あ。こっちは俺の考えてること分かってない。
リアンは相変わらずの渋い顔。
なんか、複雑そうだな。この二人の関係。
リアンはラフィーに対しては敬語だし。
「ま、いいわ。さっさと使ってみなさいよ」
「そうだな。んじゃ……『ラフィー』『ロード』!」
あっという間だった。
ページが切り替わるみたいに、シュパッとラフィーの姿が変わった。
美しい金の髪が、サラサラと揺れる。
嬉しそうに微笑んだ顔と相まって、本当に本物の聖女みたいだと思った。
とにもかくにも、ラフィーの髪が元通りに戻った。
「おお」
「髪は元通り。記憶も戻っちゃうのか?」
「ううん。記憶は操作されないみたいね。あくまでも、外的な変化を戻すってことらしいわ」
ラフィーは満足げな様子だ。
が、それはほんの一瞬のことだった。
次の瞬間には、二人の表情がガラリと変わってしまった。
「……ラフィーさん、まずいです」
「まずいねえ」
「何がまずいんだよ」
「私もあんたも『幸運』を消費したから。当然、不運になる」
「は?」
『幸運』って、MPじゃないの?
まさか、文字通りの意味なの!?
「運悪く、奴らに居場所がバレたみたいね……。来るわよ」
「は? は?」
──ドーンッ!
何かが壊れる音と地響き。
──ドーンッ! ズズーン!
しかも、1回や2回じゃない。
近づいてくる!
「私が人間にスキルを与えるのは、『魔王』を倒すため。スキルあげたんだから、協力してもらうわよ!」
「いやだ!」
「断れないわよ。だって、あいつらはあんたのことも狙ってるんだから」
「なんでだよ!」
「言ったでしょ? あんたが『明智』だからよ」
「は?」
意味わかんねぇ!
そうこうしている内に、窓の外を大きな影が覆った。部室が暗くなる。
何か巨大なものが、窓の前に立ち塞がっているんだ。
ここ、3階だぞ!
──ガタガタガタッ!
足元が揺れる。
──ピシッピシッピシピシ!
窓ガラスにヒビが入る。
「来たわよ」
ラフィーのセリフを合図に、あいつが来た。
『よくわからないモノ』だ──!