献上品
こんばんは。
芸術の秋なので、どんどん更新しています。
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和木くんが手伝ってくれなかったから、僕は一人で鏡を運んで行った。
久しぶりだよ、こんな肉体労働。
僕が将来進路決定する時、絶対に選ばなかったのは肉体労働だった。
僕運動神経も、体力もないしね。
しかも早死にする職業のワーストって、深夜働くとか肉体労働とか出てたから。
でもあのニュース見た時思ったんだ。
肉体労働というか早死に職業ナンバーワンからナンバースリーに入った、その職業に就いてしまっている皆さん、ほんと大丈夫?
僕は体力なし、根性なし、記憶力だけの人間なんで、そっちの世界を敬遠したけどさ、すでにその職業についてても長生きする人だっているのに、ワーストに入れられるのってどうなんよ、って思った。
資本主義社会は残酷だったよなぁ。
報道の自由とかも、かなり残酷だった。
傷つく人がいても、平気で報道する人がいるし。
ニュースで流れれば、それが真実だと思い込む人もいた。
その点鏡って、真実だけを映すよね。
黙ったままそこに存在して、ただ目に映る真実を映すだけ。まぁ左右あべこべになってるから、反対のものを映しているとも言えるんだけどね。
僕は鏡を運びながら考えていた。
改めて鏡が完成した時、僕はクリアに映るそれに自分の姿が見えて、怖くなった。
色白でひょろっとして、メガネをかけた冴えない男が映ったとしても驚かなかったと思う。それが僕だと認識していたから。
それなのに違う意味で裏切られたんだ。
日に焼けて、割と筋肉質になって、少しだけやつれた大人になった僕。
初めまして、僕。
そんな感じだったんだ。
玄関に鏡を運び込んだ。
どういうわけか和木君が後を追ってきていて、僕の行動を阻止しようとする。
「おい、やめとけって」
「何も悪いことなんてないよ。鏡はさ、気づきを与えるものなんだ」
自分の経験からモノを言っていた。
「和木くんは仕込みに戻っていいよ」
「ーー。だからおまえ殺される可能性とかリスクジャッジしろよ」
鏡を設置しようとする僕と、それを止めようとする和木で、玄関先でもめにもめた。
「おまえたち、何をしている!?」
おそらくはジウスを送り出そうと見送りに来たリーインリーズに、僕たちは咎め(とがめ)られることになった。
「ただ僕はーー」
そういった横腹に和木は容赦なく拳を振るう。
ゴホッ!!
危うく吐きそうになる程息を詰まらせ、僕はそのばに膝をついた。
そのまま和木に首根っこを押さえつけられ、地面に這いつくばることになる。
「いえ、大王神をお見送りするのに、玄関を磨いておりました」
「ーーそうか。しかし騒がしい」
和木のとりつくろった態度に、リーインリーズは苦言を述べた。
殺されても文句を言うなとばかりの、常日頃の寛容さがないリーインリーズに、僕だって背筋は凍ったけど、ここで諦めるわけにはいかなかった。
「そう綺麗にしたんです。それに僕たちの文化では、出かける前に全身を確認することが普通でしたので、ジウス様にも体験していただきたく、鏡を持って参りました!」
僕はぐいぐいと地面に頭を押し付けられながら、必死に言い切った。
「ジウス様への、僕からの献上品です!」
「ばかっ!!」
ここで和木君を巻き込むつもりは毛頭なくて、僕は声をあげていた。
たぶん、出方次第で、本当にやばいんだと直感が言っていた。
でなければ、和木は僕を止めないし。
リーインリーズは下がれと和木に目配せしない。
僕が勝手にしたことだ。
「神様仏様ジウス様、どうか私の献上品を見ていただけないでしょうか?」
「ーー神様仏様っておまえな……」
日本人は宗教に分別がない人間が多かったので、全部を口にした僕に対して、和木はもうだめだという表情になって青ざめている。
大丈夫。
僕はこの件に関して和木くんを巻き込まないと決心していた。
押さえつけられている和木の手を払って、立ち上がった僕の肩に、急に何か気配を感じた。
気配を感じるというか、あまりに突然の気配に身震いしてしまったのだ。
「なっ……」
「献上品、見せてもらおう」
僕が自分の左肩を振り返った時に、銀色に発酵する光が通り過ぎていた。
早すぎて、視界で捉えられない。
完全に背後を振り返った時には、僕が運んできた鏡の前に、長い髪の御人ーーつまり大王神ジウスが立っていた。
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偽りの神々シリーズ紹介
1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
2「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
3「封じられた魂」前・4「契約の代償」後
5「炎上舞台」
5と同時進行「ラーディオヌの秘宝」
6「魔女裁判後の日常」
7「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
8「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
9「脱冥府しても、また冥府」
10「歌声がつむぐ選択肢」
シリーズの10作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー