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献上品

こんばんは。

芸術の秋なので、どんどん更新しています。

        ※


 和木くんが手伝ってくれなかったから、僕は一人で鏡を運んで行った。

 久しぶりだよ、こんな肉体労働。


 僕が将来進路決定する時、絶対に選ばなかったのは肉体労働だった。


 僕運動神経も、体力もないしね。

 しかも早死にする職業のワーストって、深夜働くとか肉体労働とか出てたから。


 でもあのニュース見た時思ったんだ。

 肉体労働というか早死に職業ナンバーワンからナンバースリーに入った、その職業に就いてしまっている皆さん、ほんと大丈夫?


 僕は体力なし、根性なし、記憶力だけの人間なんで、そっちの世界を敬遠したけどさ、すでにその職業についてても長生きする人だっているのに、ワーストに入れられるのってどうなんよ、って思った。


 資本主義社会は残酷だったよなぁ。

 報道の自由とかも、かなり残酷だった。


 傷つく人がいても、平気で報道する人がいるし。

 ニュースで流れれば、それが真実だと思い込む人もいた。


 その点鏡って、真実だけを映すよね。

 黙ったままそこに存在して、ただ目に映る真実を映すだけ。まぁ左右あべこべになってるから、反対のものを映しているとも言えるんだけどね。


 僕は鏡を運びながら考えていた。


 改めて鏡が完成した時、僕はクリアに映るそれに自分の姿が見えて、怖くなった。

 色白でひょろっとして、メガネをかけた冴えない男が映ったとしても驚かなかったと思う。それが僕だと認識していたから。


 それなのに違う意味で裏切られたんだ。

 日に焼けて、割と筋肉質になって、少しだけやつれた大人になった僕。

 初めまして、僕。

 そんな感じだったんだ。


 玄関に鏡を運び込んだ。

 どういうわけか和木君が後を追ってきていて、僕の行動を阻止しようとする。


「おい、やめとけって」

「何も悪いことなんてないよ。鏡はさ、気づきを与えるものなんだ」

 自分の経験からモノを言っていた。


「和木くんは仕込みに戻っていいよ」

「ーー。だからおまえ殺される可能性とかリスクジャッジしろよ」

 鏡を設置しようとする僕と、それを止めようとする和木で、玄関先でもめにもめた。


「おまえたち、何をしている!?」

 おそらくはジウスを送り出そうと見送りに来たリーインリーズに、僕たちは咎め(とがめ)られることになった。


「ただ僕はーー」

 そういった横腹に和木は容赦なく拳を振るう。


 ゴホッ!!

 危うく吐きそうになる程息を詰まらせ、僕はそのばに膝をついた。

 そのまま和木に首根っこを押さえつけられ、地面に這いつくばることになる。


「いえ、大王神をお見送りするのに、玄関を磨いておりました」

「ーーそうか。しかし騒がしい」

 和木のとりつくろった態度に、リーインリーズは苦言を述べた。


 殺されても文句を言うなとばかりの、常日頃の寛容さがないリーインリーズに、僕だって背筋は凍ったけど、ここで諦めるわけにはいかなかった。


「そう綺麗にしたんです。それに僕たちの文化では、出かける前に全身を確認することが普通でしたので、ジウス様にも体験していただきたく、鏡を持って参りました!」

 僕はぐいぐいと地面に頭を押し付けられながら、必死に言い切った。


「ジウス様への、僕からの献上品です!」

「ばかっ!!」

 ここで和木君を巻き込むつもりは毛頭もうとうなくて、僕は声をあげていた。


 たぶん、出方次第で、本当にやばいんだと直感が言っていた。

 

 でなければ、和木は僕を止めないし。

 リーインリーズは下がれと和木に目配せしない。


 僕が勝手にしたことだ。


「神様仏様ジウス様、どうか私の献上品を見ていただけないでしょうか?」

「ーー神様仏様っておまえな……」

 日本人は宗教に分別がない人間が多かったので、全部を口にした僕に対して、和木はもうだめだという表情になって青ざめている。


 大丈夫。

 僕はこの件に関して和木くんを巻き込まないと決心していた。


 押さえつけられている和木の手を払って、立ち上がった僕の肩に、急に何か気配を感じた。

 気配を感じるというか、あまりに突然の気配に身震いしてしまったのだ。


「なっ……」

「献上品、見せてもらおう」

 僕が自分の左肩を振り返った時に、銀色に発酵する光が通り過ぎていた。


 早すぎて、視界で捉えられない。

 完全に背後を振り返った時には、僕が運んできた鏡の前に、長い髪の御人ーーつまり大王神ジウスが立っていた。




 




感想、足跡、コメント、評価、ブクマが次の活力に。

何卒反応よろしくお願いします!


偽りの神々シリーズ紹介

1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

2「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

3「封じられた魂」前・4「契約の代償」後

5「炎上舞台」

5と同時進行「ラーディオヌの秘宝」

6「魔女裁判後の日常」

7「異世界の秘めごとは日常から始まりました」

8「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」

9「脱冥府しても、また冥府」

10「歌声がつむぐ選択肢」

シリーズの10作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」


 異世界未来ストーリー

「十G都市」ーレシピが全てー

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