カメラか、絵か
オタクの青春は異世界転生2
気ままに投稿しています。
お付き合いください。
※
手渡された絵は非常に繊細。
絵ってさ、人の性格出るよなって思う。
上手いとか下手だとかそんなものよりも、神経質かどうかっていうのがまず如実に現れてくるんだ。
樫木のは荒々しくて、端的に早く描きたいって言う性格が、ペンのタッチに現れている。
一方の和木のは、全く感情が見えないけれど、正確に模写したような几帳面さだ。
「よくわかった」
じゃあ明日からフレーム作りやってみよう。
人の性格って、こんな些細なことからでもよくわかるようになったんだけど、僕はどうなんだろ?
最近の僕はけっこう自分探しの旅に出ている。
今はチーム異世界転生だけど、いつか2人とは友達っていうか、親友みたいな存在になりたいから。
僕は自分を高めたかった。
「フレームってやっぱり鉄よりもカーボンの方がいいよね」
「そりゃ、軽くて丈夫っていったらカーボンだけどさ。カーボンってなんでできてるん?」
炭素繊維と樹脂。
今の僕たちにとったら、けっこう難易度高い。
ただ樹脂に関しては、ここでは手に入りやすかった。
イドゥス大陸は石油が取れる。
日本では中東で石油が取れるが、その風土が当てはまる。
でもこの文明の人は地面を深く掘るという習慣は、石材を掘り起こしたいか、地下水を出したい時くらいで、鉱物資源をさほど重要視していないのだ。
石油があれば、作れるものはかなり多くなる。
「和木君」
相変わらずリーインリーズ伯爵の料理人として働いている僕たちは、夕食の準備をしていた。
僕は横になって話しかける。
「僕、石油王になりたいんだ」
あ、間違えた。
最近アニメ見れてないから、元いた日本のアニメのワンシーン、ワンシーンがことある毎に蘇ってくる。
あの指先と眼球さえあれば、幾重にも楽しめた怠惰な世界は、もう存在しない。
あと前の世界には自意識過剰なのか鏡ってもんが乱立してたけど、この世界ってあんま鏡がないんだ。
貴族の高級品らしい。
その分肖像画は日常に取り入れられている。
「お前、石油掘り当てるのはいいけど、穴掘る道具先に作らないと無理じゃない? こっち人力。石油掘るの人力でやってたら、300年の寿命なんてすぐに終割っちまうんじゃないか?」
ああ。おっしゃる通りです。
でも家買ったら、穴掘ってみるよ。
たぶん温泉ほども掘れないかもしれないけど。
「あ、じゃあさ。和木君、肖像画とか描く絵師になれるかも」
ジロリと睨まれた。
「ーー暇らしい。おまえ、カメラ作れよ」
うーん。
まあ現代社会じゃ、カメラが当たり前だったから、思い出残すのもカメラが主流だったよね。
「んでも絵がなければ、アニメの世界成り立たないし。もっとその、感性的な?」
「わかんねぇ!」
絵描くの時間かかるだけって言ってたもんね。
人類の進化をひっくり返して、生まれた時からカメラってものがある文化だったら、人は絵を描かなかったのかな?
一番最初の絵の目的は、記録を残すこと。
そんでもって、思い出を残すこと。
洞窟壁画もそんな役割だったんかな。
「僕、一回和木君を描いていいかな?」
「だからカメラ作れって」
んーー。
「じゃあ、和木君が黒田君を描くのは?」
和木は僕の方に歩み寄って、両手でグーを作って、僕の眉間をぐりぐりしてきた。
「お前、傷口に塩塗ってる自覚ないだろ?」
「え? ごめんごめん」
悪気ないよ。
ただ和木君のセラピーになるかなって思っただけ。
「だったら電気作る方法考えて」
「電気は作れるよ」
「そんなんじゃなくて、もっと生活で使っても使っても、当たり前に供給されるような電力」
和木はスマホを僕に向けた。
「この中に、あいつの思い出入っているんだよ」
和木は苦笑した。
「ほんとはスマホ作れよって言いたい」
「オタク家を買うまで」:2020年12月14日