未成年でも異世界には法律がないから、酒飲んでやる
こんばんは。
なかなか忙しく、昼休憩執筆タイムとは言えないものの、オタクシリーズも始動し始めました。
一人称は肩が凝らんでいい。
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ツンデレ和木が用意していたものは、祝いの席の料理だけではなかった。
「美味しい水だ、これは。わいも正月は飲んどったで」
「は? 何?」
この世界水は確かに美味しかったけど。
樫木が買ったゴージャスなテーブルに並んだのは和木の手料理だったが、樽に入った飲み物を見て、僕は首を傾げた。
「こここ、これって酒?」
あ、またチックが出動した。
異世界にきてけっこうマシになってきたけど、驚くと出るんだよなぁ。
「普通に飲んでたけどな。なんで正月だけなんだ?」
「うちは御神酒ぐらいしか許してくれやんかったからな。正月の御神酒はたらふく飲んだ」
和木も樫木も、僕と同じ高校生だったはずなのに。
こいつら……。
日本の法律なめてる。
「こっちの酒は主に葡萄を発酵させたもんだ。でもワイン以外に美味い酒ってもっとあるから、儲かる(もうかる)と思って試しに作ってたんだ」
高校生のいうセリフか?
「わい、日本酒しか飲んだことないから、こっちのワインは肌に合わんで困ってたんや。日本酒作れたんか?」
目をキラキラさせて体を乗り出す樫木に、和木は言う。
「ひと通りの食材が供給できる庭を作ったと言っただろ?」
この小さな面積の庭で?
僕達は必要最低限ってぐらいに過小評価していたんだけど。
「今なら前の世界で食べていた料理、全て再現できる。フォアグラとかは残酷なんでやってないけどな……」
和木、そこは優しいんだ……。
「米は作った。てかそれは一番最初に目をつけて作ったから、日本酒なんてとっくにできてる」
「はぁぁ?? おまえ麦製品ばっかり出してただろ? パスタとかパンとかそんなんばっかりやったやないか!?」
樫木のツッコミに、僕もその横でうんうんとうなづいた。
「僕だってさ、食べたかったんだけど、米!!」
急に味噌汁の味が懐かしくなったよ。
「日本人だからそうなるよな。同意見だ」
和木はしらっと答えてくる。
「だったらなんでもっと早く、それ食卓に出さんかったんや?」
そうだそうだ!
「んっとさ、米ってのは暑い国じゃ育ちにくいし、あと育てたところで日本の米みたいに美味くならない。それにこの国の文化では喜ばれないだろうな。金儲けだけ考えるなら、無駄だったからな」
欧米人や西洋人の文化から考えたら、多分和木の言うことは正しい。
あいつらは結構、味音痴だった。
素材の味なんて重要視しない。
前いた世界で、僕達は知識を持っていた。
「てことで先に暑い国でウケる、麦からできるビールを作った。というかビールは半分できかけていて、でもアルコール度数が強くてまずかったので、それを改良した。たぶん流行る」
「ーー!」
僕達は言葉を失った。
和木は何でも商売中心に考えている。
すっ、すごいんだけど……。
「米とか、それで作った酒は完全に嗜好品。俺たちだけのな」
「それがこれかいな?」
「ああ」
僕はごくんと息を飲んだ。
「美味しいお水、ね!? 僕達は未成年!!」
「ちゃうちゃう!」
樫木が僕の肩に手を回した。
「こっちの世界じゃわいらは成人しとるって。合法や」
「そうだな。あっちの世界でも、成人年齢決めてるのって大人の勝手や。日本だって平安時代の成人年齢はもっと若っかった。勝手に変わって行くのが法律だな。だから守るのはつまらない」
真理だけどさ。
一般市民って法律が絶対なんで、僕は一人複雑な気持ちになる。
それが顔に出ていて、僕が目の前の美味しい水を飲まないでいると、和木は不思議そうだった。
「前の世界では、おまえが一番世界に抵抗してきたのに、どうしてだ?」
「はぁ!!?? ぼっ僕のいったいどこが!?」
くっと和木が口のはしをゆがめた。
「義務教育なのに、不登校の引きこもり。子供なりに、おまえが一番社会に抵抗してきたんだと、思っていたんだけれど、違うのか?」
「そやなぁ。わいは学校は行かなあかんと思って、イヤイヤでも行ったわ」
「単に黒田がいたから学校に行ってただけだけれどーー。少なくとも俺たちは前いた世界で、学校に行くことはあたりまえだったわけだ」
「せいぜい隠れて酒飲むくらいや」
「そうだな。不眠症の若者に酒を飲めって教えてくれる大人はいない、バカみたいな世界だった。薬の方が、体に悪かったとしてもな」
僕は何だか納得した。
「うん。飲もう!!」
成人年齢なんて、時代によって違うことは、僕だって知識で知っている。
まして僕らがいた世界でも、若者に選挙権を与えるだとか何だとかで、成人年齢が引き下げられるって話がニュースになっていた。
僕にとって初めてできた友達の和木が開発してくれた酒だ。
一緒に異世界で苦労してきた仲間が囲む祝いの席だ。
僕はぐいっと、美味しい水(たぶん日本酒)のグラスを傾けた。
感想、足跡、コメント、評価、ブクマが次の活力に。
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偽りの神々シリーズ紹介
1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
2「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
3「封じられた魂」前・4「契約の代償」後
5「炎上舞台」
5と同時進行「ラーディオヌの秘宝」
6「魔女裁判後の日常」
7「異世界の秘めごとは日常から始まりました」
8「冥府への道を決意するには、それなりに世間知らずでした」
9「脱冥府しても、また冥府」
10「歌声がつむぐ選択肢」
シリーズの10作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
異世界未来ストーリー
「十G都市」ーレシピが全てー