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和木の上手な使い方

「オタクの青春は異世界転生2」

気ままに投稿しています。

お付き合いよろしくお願いします。


        ※


 元ヤクザの跡取りに包丁を渡しながら、もう1人の異世界転生仲間に、僕は自転車を作っていた。


 鉄とゴムを錬成したんだから、リクエストされるのも当然だった。


 自転車ねぇ。


 マウンテンバイク(MTB)は自転車で山を駆け降りる遊びからできた自転車。

 頑丈なフレームと太いタイヤでオフロードを走るんだそうだ。


「わいロードバイクも好きやったけど、山岳登る時はマウンテンバイク乗ってたんよ」

 無知な僕は自転車なんて全部一緒に見えるんだけどね。


 ママチャリ。

 一番ユーザー数が多いかも。

 荷物の運搬に便利なカゴや荷台付き。

 タイヤは太めなんで段差は怖くない。


 ロードバイク。

 軽くてアスファルト走行向き。

 スピード重視。

 自転車のタイヤなんかを外すと、袋に入れて電車にも乗れるという持ち運びもできる代物。

 タイヤはめちゃくちゃ細い。

 だから段差や砂利で、割とすっ転ぶ。


 クロスバイク。

 ママチャリをかっこよくしたシティサイクル。

 軽量化したものも多く、ロードとママチャリの間みたいな存在。

 ロードみたいに下ハンドルはなくてハンドル幅もあるから、操縦しやすい。


 僕はママチャリにしか乗ったことがなかったんで、樫木くんに自転車が欲しいって言われてママチャリを渡したんだけど、それだと樫木くんはかなり転びまくっているらしい。


 あと圧倒的にペダルにかける脚力がいるらしくって。

 迷った末に、僕にマウンテンバイクの形状を説明し、製作を依頼してきた。


 おかしいな。

 有名な半妖の犬夜叉の世界じゃ、主人公めっちゃママチャリ乗り回してたけどな。

 あのアニメの世界では、かごめってすごいバランス感覚だったのか。


「せっかくママチャリつくってくれたのに、すまんでリトウ君」

「ううん。なんか新しいもの作るのって僕の楽しみでもあるから」


 ただマウンテンバイクの形が僕の頭の中には入っていない。

 だから図面とか欲しいんだけど。


 そう言うと、

 樫木くんが絵を描いてくれて、一つ一つ自転車の説明をした。


 ーーーー……。

 して、くれてるんだけどさ……。


「ーー樫木くん、絵が下手すぎるよ」

 用途は自転車だってわかったけど……。

 タイヤが太いらしいってことしか情報が入ってこない。


 紙にインクをつけたペンで、一生懸命描いてくれた。

 でも全部、レモンの輪に棒切れがついているようにしか見えない。


「あかん。わい絵のセンスゼロや」

 ああ、こんな時はやっぱり和木君頼りだよね。

 僕は傍で調味料を仕分けしている和木の背中に目をやった。


「和木君って確かクロスバイクは持ってたよね? 自転車も詳しい?」

 僕の声かけに、長身の広い背中がピクリと動く。


 確かに聴こえているはずなのに、黙殺しようとしている。

 返事はない。


「ねぇ、和木君手伝ってよ」

 僕はもう一度声をかけた。


 以前の僕なら、こんなふうに気安く和木君に話しかけることなんてできない。

 でも異世界に来てしまった僕は、少し変化していた。


 嫌そうな顔をして、和木は目線だけこっちに向けてきた。

「何を手伝えって?」

 嫌そうだ。


「だからマウンテンバイクって種類の自転車の絵を描いて欲しいんだ」

「無理だ」

 一言で一刀両断してくる。

 遠い目をして、全身で拒絶してきた。


「リトウ君、無理強いやめとこ。あいつもほら、不得手なことあるんや。かっこつけたがりやから、ほら、できんとか言いたくないんやて」

 樫木くんに言われて、僕は素直に納得した。


 ああ。

 そういうことね。


 僕、和木君はなんでもできると思ってたけど、そういう才能には恵まれていなかったんだ。

 心底申し訳なく思う。


「ごめん。誰にだってできないことあるよね」

「そや。下手くそなんは誰だって見せとうないからな。わいは他が完璧やから、それくらいのハンデあっても隠さへんけど、こいつそういうのナーバスやんか」

「そっか、だよね。ごめんね和木くん……」

 そう言って引き下がろうとする僕達を背にして、和木君の肩が震え出した。


 ああ。ごめん。

 プライド高いのに傷つけたかも。

「配慮が足らなくて、ごめん」


 謝罪する僕に、和木君は「はぁ?」と言った。


「ーー誰がぁ、絵下手くそだって!?」

 怒気を帯びた低い声で言って睨まれる。

「誰が隠してるって!?」


 和木君が、絵下手くそ。

 和木君が、それを隠している。

 きょとんとした僕から、一瞬で和木は紙とペンを奪い取った。


 さらさらと図鑑に乗っているような正確な絵が描かれていく。

 ママチャリ、ロードバイク、マウンテンバイク。

 その絵は設計図のようで、ハンドルの形やタイヤの太さの注釈まで書き込まれていく。


「これでいいのか!?」

 一気に描き上げて、和木は顎を上げて僕らを見下した。

 タイヤのインチまで書き加えている注釈図に、僕たちは舌を巻いた。


「なんだ、やっぱり絵も上手いし」

「めんどくさいんだよ。絵って描くの、時間かかるだろが」

「ううん。さっきから樫木君が描いてる方が時間かかってたけど」

 和木はペンと紙を突き返して、調味料整理に戻っていった。


 樫木君が僕の横でボソッと呟く。

「覚えとけ。和木の上手な使い方」

「オタク家買うまで」:2020年12月14日

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