ことの真相
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
シリーズの6作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
※
不透明な未来の中で、進路を決める年齢って、ずいぶん早い。
そう思うけど、昔の人は17歳の頃にはもう、生きる道決まってたんだよな。
体育館からバスケットボールを入れたカゴを出してきて、
一人、スリーポイントシュートの練習をした。
体育館は誰も使っていなかった。
鍵が開いていたので勝手に使用してしまう。
和歌山でも分散登校にオンライン授業で、学生の姿がまだらだ。
部活で集まろうにも、感染症の影響は昨年よりひどい。
インターハイが開催されなかったらどうしよう。
そんな不安が脳裏をよぎることがあった。
ずっと、退屈だけれど平穏な日常が続くのだと思っていたのに。
昨年から、自分の日常はおかしい。
和木がいなくなってから。
チームメイトを失ってからだ。
ダン。
ボールはリングに弾かれて、ぐるりと周り、右に落ちる。
心の中がモヤっとしているとシュート率が悪くなる。
『全然ダメだ』
辛辣な悪友が、今にもそんなことを話しかけてきそうなのに、側にいない。
小学校で出会って、一緒にバスケをやってきた和木は、もういない。
「黒田先輩」
声をかけられてドキッとした。
新入生の、甲斐龍樹だ。
「練習?」
「ああ。今年もインターハイ狙いたい」
一つ年下の甲斐は、中学時代バスケ部のフォワードだった。
自分と同じポジションで、動きも早く、シュート率も高い。
「お前に負けないようにしないとな」
素直な感想を言うと、甲斐は笑った。
「黒田先輩ってほんと……。いい人」
甲斐は横でボールを取り、シュートを決めてしまう。
「変な時代になりましたよね」
「ああ」
コウはうなづいた。
日常が一変するなんてこと、これまで生きてきた人生では考えもしなかった。
「先輩は噂聞いてますか?」
「何?」
自分の隣でスリーポイントの練習を始める甲斐は、しなやかに全身のバネを使ってゴーを狙う。
きれいなフォームだ。
「監督の話です」
「ああ」
去年、バスの事故で亡くなったからな。
「次の監督が決まらない話?」
「違いますよ。前の監督を紹介した教員が、責任とってこの三月退職した話です」
「?」
話が見えなくて、コウは甲斐の方を見た。
彼が打ったシュートが放物線を描いて、リンクに吸い込まれていく。
「前の監督の会社、コロナで経営状態が悪くなって、ーーどうやらあのバスの事故に関係してたらしくて」
体が凍りつく。
「ーーそれ、どういうこと?」
「身代金目当てに、バスケ部員を誘拐しようとしてたとか……」
いい加減なこと言うな!
咄嗟くってかかりそうになったが、甲斐はそういう男ではない。
「なんか証拠あんのか?」
「監督の家族が、自首したみたいなんだ」
手にしていたボールがこぼれ落ちた。
「オタク家を建てるまで」:2020年1月19日




