法律なんてさ、所詮人がつくったものだよ
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
シリーズの6作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
※
「和木くんって、あっちの世界で犬でも飼ってたの?」
「飼ってないし」
「何でこんなに、ハチに甲斐甲斐しいの?」
オオカミのハチの親、殺してしまったから。
以前和木はそう言った。
和木が刀で斬りつけた親犬は死んでいた。
ハチはその横で、ずっと親の顔を舐めまわしていたという。
そんな姿見たら放っとけなくて、連れてきてしまったらしい。
それから和木はハチにご執心だ。
最近どこからか嫁さんを見つけてきたので、ちょっとした群れになっている。
「このチビたちが大きくなるまでには、家建てたいな」
リーインリーズ伯爵の館の従業員が、オオカミを飼っていることを快く言わないものがいて、和木はそれを気にしている。
「誰のいうことでもちゃんと聞いて、お利口さんにな」
あいつらに接している時だけ、顔がデレている。
でも犬じゃないよ、多分。
犬よりも牙も大きいし、爪も鋭い。
後最近、結構食費もかさんでいるようだ。
野生に返したらいい。
動物に興味がない僕は、そう思うけれど、和木は彼らを手放したくないようで、彼らの躾を怠らなかった。
僕は口には出さなかったけど。
和木に無言の圧を与えていたみたい。
あるとき和木はこう言った。
「おまえこっちに来ても、ほんと向こうの世界と繋がってるよな?」
どうしてそう言われたのか分からなかった。
「たぶん、俺こっちに一人で来ていたら、あのとき俺らを誘拐したやつ、殺してたと思う」
「それって……?」
僕は分からなくて首を傾げる。
「あっちはさ、ーー法律うるさかっただろ? これはしちゃだめ、あれはダメって」
「そうだね」
こっちの世界は、法とかあるのかな。
神の氏族が法律みたいなところあるから。
何が法律なんだか。
「おまえは、あっちの法律を俺に忘れさせない存在かも」
うるさいってことなんかな!?
「俺、ハチを見てあいつら殺さなかったって言ったよな?」
バスで悲惨な出来事。
監督と運転手、僕らを殺したあいつらを許せないって気持ち、僕はわかる。
「でも和木くんは我慢したんだよね?」
「ああ」
和木はハチの頭を撫でる。
「でも踏みとどまったの、こいつ足におまえの水色のリュック引っかかってたから」
僕のリュック?
「あの、アニメキャラの缶バッチだらけのリュック、あるだろ?」
「和木くんが、子供のハチを入れてきたリュック?」
僕は好きなキャラの缶バッチ集めて、水色のリュックにありったけ付けていた。
「こいつ、そのリュック食べ物あると思って、足に引っ掛けて親の側に居たんだよね」
和木は笑う。
「必死で生きてたいんだなって。ーーてか、必死で生きようって言ってるみたいだった」
僕はなんだか、和木を見ていると苦しくなった。
和木は笑っているのに、なんだか苦しい。
「だから殺生なんてできないだろ? どれだけ自分達の人生狂わされても」
「ごめん。そんなとこに一人で行かせて」
僕の言葉は、少なからず和木を驚かせた。
「おまえも少しは変わったのな」
「そうだね」
僕は真っ直ぐに和木を見ている。
前の世界だったら、苦手意識が強い和木のこと、斜め上にしか見られなかったのに。
今は向き合えるんだ。
「俺はさ、前の世界でも法律なんてどうでもいい。ーーいや、かい潜れればいいって思ってただけ。でも……、おまえやこいつ見ていると、大切なもの守るためにできたもんかなって思えるよ」
すごく和木は、色々考えているんだ。
人の命について。
いや、命について。
僕は言った。
「前の世界でも、法律は人のためにあったはずだ。ーーでも、例外もある。例外がない法令なんてないんだ。ジャッジは常に人の心に寄り添うべきだと思う」
「オタク家を建てるまで」:2020年12月29日