殺ってねーよ
偽りの神々シリーズ
「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢
「封じられた魂」前・「契約の代償」後
「炎上舞台」
「ラーディオヌの秘宝」
「魔女裁判後の日常」
シリーズの6作目になります。
異世界転生ストーリー
「オタクの青春は異世界転生」1
「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」
※
「それで、どうなったのさ!?」
僕は和木から聞かされた話に驚いて、震えていた。
その時の和木の感情が乗り移ったみたいだ。
「俺もバカだよな。もうちょっと隠れて情報収集しときゃよかったのに、拳銃持ってるあいつらを殴り倒したくて、出ていっちまった」
反省するわ。
和木は頭をかいている。
いつも冷静沈着な和木が、それくらい逆上したってことじゃないか。
「当たり前だよ。僕だって……」
あ、僕だったら腹立ってても怖気付いて出れなかったかな……。
でもさ、事故っていう自然災害みたいなもんで命落としたのと。
誘拐されようとして、それ原因で事故に遭ったんじゃ、ずいぶん意味合いが違ってくる。
あの事故が何らかの人為的な悪意の元に起こったことなら。
僕達は、浮かばれない。
いや、異世界転生したんで、すでに浮かばれてないけど。
でも腹立つ。
「あの時俺がもっと冷静にあいつらの話をちゃんと聞いてたら、お前らに拳銃の話ももっと前にしてたかもしれない」
あ、そうだ。
和木は、僕や樫木が拳銃所持してきたことも疑っていた。
今の話なら、監督とバスの運転手が首謀者じゃないか。
「それがさ、二人だと思っていたら、どうやら違ってた。あいつらを逃すために車を取りに行ったやつもいたみたいで」
『ーーああ、遅いな』
『まさか裏切ったんじゃないか』
和木は飛び出した瞬間に、その言葉を聞いたのだと言う。
「しくじったと思ったんだ。もうっちょっと泳がしておけばよかったんだけどな、飛び出しちまったから、監督の顔面張り倒すのでやっとだった」
わ。
さすが和木くん、戦闘能力高いね。
「でもって拳銃が物騒だから、足蹴りしてそいつ取り上げて」
うんうん。
「で、銃口を二人に向けた」
ーー!
「ま、ま、ま、まさか撃っちゃったの!?」
ここにきて殺人!?
和木ならやりかねない。
僕は和木の腕にとりすがった。
「だ、だだ、ダメだよ、和木君」
過去のことだから、今止めても仕方ないんのわかってたんだけどね。
人ってのは超えてはいけない一線があって。
「殺ってねーよ」
「ほ、ほ、ほんと?」
「殺してない」
和木は引き金を引きかけた。
けれど目の端に、死んだ母親オオカミの横で、その体を舐めている子供のオオカミ。
ハチを見つけたのだと言った。
銃口は火を吹くことなく、威嚇にとどまった。
「でも、逃しちまった」
「オタク家を建てるまで」:2020年12月28日