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事故の理由


 偽りの神々シリーズ

「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

「破れた夢の先は、三角関係から始めます。」星廻りの夢

「封じられた魂」前・「契約の代償」後

「炎上舞台」

「ラーディオヌの秘宝」

「魔女裁判後の日常」

シリーズの6作目になります。


 異世界転生ストーリー

「オタクの青春は異世界転生」1

「オタク、異世界転生で家を建てるほど下剋上できるのか?(オタクの青春は異世界転生2)」

        ※


「それは地獄だったよ」

 その一言で始まった話を、僕は一生忘れることはできない。


 だから僕、言ったじゃないか。

 バスケ部のチームメイトがバスの中で、オオカミみたいな野獣に食われた現場に戻るなんて考えられないって。

 一人で現場に戻るなんて、危ないって。


 話を聞いて、僕はあの時どうして和木をもっと必死て引き留めなかったのか。

 いや、どうして僕も一緒に行こうとしなかったのか。


 後悔しても、もう遅い。

 過去は変えられないから。


 あのとき和木は、樫木に薬が必要だと判断し、僕達に食料が要るって思って。

 たった一人、ーー危険なバスの現場に戻ったんだ。


        ※


「チッ」

 なんで俺がこんな貧乏くじ引くんだか。

 和木はひ弱なチームメイト二人を残したまま、必要な物資を取りに行こうとしていた。


 あいつら弱すぎるし。

 しかもけっこう他人任せだし。


 人が生き死にする瞬間ですら、命令されることを望んでいるようなやつ、ーー森利刀。

 助けてやらなきゃ、即死だな。


 樫木の怪我もひどかった。

 まぁ、最悪足が腐って一本失うくらいの覚悟をしてもらおう。


 森だって頭から血流してたから、打ちどころ悪かったらお陀仏。

 あいつ等は、いつ死んでも仕方ないかな、と思う。


 でもなんか、薬と食料を持って帰るって約束しちまった。

 樫木の足が無事動くように。

 そして森がもう一回、まともに人間らしいこと言えるように。


 貧乏くじだ。

 それはわかっていた。


 戦うための刀剣ですら、なんの気の迷いか、森に預けてきてしまった。

 今、自分の武器は刀の柄だけ。

 オオカミもどきに襲われたら正直やばいって思っている。


 あいつらがオオカミに生態が近くて、夜行性出あってくれ。

 そしたら日が登っている間は、大丈夫だ。


 警戒しながら横転したバスに近づいた。

 昨夜は暗くて、全貌はあらわになっていない。

 幸い夜だったから、残酷なもの全てを目にしなくて済んだ。


 でもーー。

 オオカミもどきがいない時間帯を狙ってきた自分は、全部見なければならない。


 いったい誰が無事で、誰が死んだのか。

 ここに戻ってきた自分は、知らなければならない。 

 和木はバスに恐るおそる近寄った。


 黒田の死体でも見てしまったら。

 ーー考えるとゾッとして、足がすくむ。

 でももし誰か未だ生きている人がいて、それが黒田だったら。

 ごくんと生唾を飲んだ。


 人肉を食うオオカミみたいな獣がバス内に残っていたら、戦わなければならない。

 そう覚悟をして、横転したバスの窓枠をくぐっった。

 

 風が凪ぐ。

 バスの車体には生き物の気配はまるでなかった。

 あるのは吹き抜ける風と、血痕だけ。


「ぐちゃぐちゃになった死体想像したんだけどな……」

 和木は最悪の地獄を覚悟して、そこにいた。

「なんもないやん」


 一夜にして食われたのか、残忍な鱗片にお目にかかることはなかった。

 これくらいの清々しさなら、昨夜のあれは全部夢で。

 前の世界に戻れるんじゃないか。ーーふと期待してしまう。


 けれど。

 和木を待っていたのは、オオカミもどきの恐怖ではない。

 現世の続きだった。


「まさか、バスジャックしたはずが、この役立たずの運転手がーー!」

 そろっと近づいた和木の耳に、人の声が聞こえてきた。

「せっかく金持ちのボンボンばっかり誘拐するチャンスだったって言うのによ。しくじりやがって」

 誰もいないと油断して、男が二人、和木が潜ったバスの反対側で会話している。


 何を言っている!?

 和木はもっとその話を聞きてくて、息を潜めて、耳をそばだてた。


「仕方ないだろ? まさかガキにこいつ見つかるなんて思わなかったんだし」

 男二人の顔が確認できるところまで足を進めると、一人の男がもう一人に拳銃を見せている。


 一人は運転手だった。

 そしてもう一人は、ーー部活の監督だ。


 監督ーー?

 なんで監督が拳銃所持してるんだよ。

 しかも、誘拐って何の話だ!?


 耳に聞こえてくる内容で、大方の察しはついていた。

 けれど和木は、現実を認めるのが怖かった。


「昨夜もオオカミどもに襲われるし。何体か死体放り出して食わせたけど、何人か逃げただろ? 見られてたらまずいんじゃ」

「早く、そいつ隠した方がいいんじゃないか?」

 話す内容の汚さに、反吐が出そうだ。


「でもまたオオカミに襲われたらまずいだろ?」

「ああ。だけどこんな事故起こしちまって、俺運転手だし、やばいよな」

 こいつらは、自分たちのことしか考えていない。


 和木は震えた。

 こんなひどいことをする人間がいるなんて。

 現実を直視するのが怖い。


 それはこんなくだらない人間のために、自分たちは命を奪われたと言うこと。

 そしてインターハイに行く夢を、奪われた者がいると言うこと。


 ぶるぶると震え出す。

 それは怒りからだった。

 人は本当に腹が立つと、体の奥から震えが止まらない。


 絶対許さない!

 和木は二人の大人の前に飛び出し、血走った眼差しで仁王立ちになった。

 

「オタク家を建てるまで」:2020年12月26日

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