不在
「おじゃまします。」
私は時間より2時間前にみゆの家に来た。
みゆに渡された合い鍵を使って部屋に入ると、誰もいなかった。
「みゆー。」
念の為に声を掛けるが何の返事もない。
買い物にでも出かけているのだろうか、私は中に入りみゆを待つことにした。・
配信する為のPCを立ち上げ本番をシュミレーションする。
今日はお披露目という事でなにか特別な事はしなくてもいいといわれてはいるが、だからこそ緊張する。
「はじめまして、雪城なぎさです。
はじめまして、雪城なぎさです。
はじめまして、雪城なぎさです。」
本番で名前を言い間違えないように。口にキャラクターの名前を定着させる。
具体的に何を準備していいか分からないので試行錯誤しながら話す。
多少噛んでも問題ないといわれてはいるが、できるだけ失敗しないで収録したい。
「はじめまして、雪城なぎさです。
はじめまして、雪城なぎさです。
はじめまして、雪城なぎさです。」
そう思うと何回も何回も練習してしまう。
「そんなんじゃ、本番前に喉枯れちゃうんじゃない」
「みゆ。」
気が付くと後ろにいたみゆが立っていた。
「どこ行っていたの。」
手ぶらで帰ってきたみゆを不審に思って声を掛ける。
「ちょっとね……。」
「ふーん。」
胡麻化したみゆをそれ以上追及できなかった。
「それよりいつから来てたの。」
「そんな経ってないよ。」
そういいながら携帯の時計を見ると来てから30分ほど経っていた。
緊張からか時間も忘れて同じことを繰り返し練習していたと考えると情けなくて笑いが漏れる。
「どうしたの。」
「ごめん。気が付いたら来てから330分ぐらいたっていたからさ。」
「なるほどね。じゃあずっと練習してたんだ、さっきの。」
「そうだね。」
照れ隠しで笑うと、みゆもそれを見て笑った。
「ねえ、ゴンちゃん。」
ひとしきり笑うとみゆは改まったように聞いてきた。
「なに?」
「ずっと配信続けて行ってね。」
「どうしたの急に。」
「いや、なんでもないよ。」




