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孤立

「こっちだから、付いてきて。」


 リナは今までのことが何もなかったかのように無理に私の手を取り、引っ張った。

 見た目通り手がすべすべしていて、さわり心地がいいと思いながら、リナが導くがままについていった。

 歩いている事が心地いい柔らかな絨毯に一つ一つ高級そうな調度品。

 緊張で気付かなかったが、今まで見たことのないような高級マンションというものらしい。


「そんなに硬くならなくてもいいのに。」

「う、うん。大丈夫。」

「大丈夫ってこういう時に使わないものじゃないの?」

「そっか……そうかも。」

「そんなに緊張しなくてもいいからね。」

「う、うん」

「だめならいつでも帰って貰って大丈夫だからね。」

「大丈夫。」

「それならいいんだけど」


 言葉や話し方は柔らかなものだったが、どこか信用しきれない何かがあった。有無を言わさない圧力といえばいいのか私にはわからなかった。

 その圧力によるものか、アーイシャも後ろを黙って付いてきていた。


「ここだよ。」


 リナは、扉の前で手を放し、改まって言った。

 その扉は他のものよりも一段と手間がかかっていた。

 扉の中には選ばれたものしか入れないような雰囲気で、今までの私なら何も取らずに引き返すような重圧を感じた。


「ありがとう。」


 一言、感謝を述べて扉に手を掛けた。

 しかし、私はみゆを守ると決めた以上もう一歩も下がる気にはならなかった。


「ちょっと待って。」

「え?」


 引こうとした私の手にリナは手を重ねた。


「本当に中に入る気なの。」


 にこやかな表情とは裏腹に目は全く笑っておらず、扉を強く締めていた。


「どういう事?」

「そのまんまの意味。そんな緊張して大丈夫。大人しく帰ったほうがいいんじゃないの。」

「帰れって事?」

「そんな直接的な事じゃないんだけどさ。帰ったほうがお互いの為だと思って。」

「お互いって誰の事?」

「みんなの事だよ。」

「そっか。」


 改めて、リナの目を見ると敵愾心にあふれていた。後ろを歩いているアーイシャも同じような目をしていた。


「ここには味方はいないの。わかる。部屋に入ったらみゆに無理だったと伝えてね。」

「無理っていうのは。」

「VTuberの事。できれば二度とみゆに近付かないでもらえるとありがたいけど。」

「そっか……そうだようね」

「そうそう、ここはみんなの……」


 リナの言葉の途中で私は思いっきり扉を開けた。

 咄嗟の事にリナは反応しきれず扉が大きく開かれた。


「でもそれってわたしとみゆの為じゃないよね。」


 私は勇気を振り絞り、声を震わせながら言った。

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