VTuber
「ピンポーン」
家の中に虚しくチャイム音が響く。
『誰もいませんよー』
心の中で私は呟く。
「ピンポーン。ピンポーン。」
再びチャイムの音が響く。
『私はいないので早く帰ってくださーい。』
冷房の聞いた自室で頭も回転させずにボーっと漫画を読んでいる。
「ピン、ピン、ピンポーン。ピ、ピ、ピ、ピ、ピン、ピンポ、ピン、ピンポーン、ピ、ピ、ピ、ピンポーン。」
急にチャイムが連打された。
思わず身体が跳ね上がる。
平日の午前に家族が帰ってくるわけもないだろうし、家族ならこんな乱暴な真似はしない。
世間は夏休みというやつらしいが、私に会いにくる物好きなんていないと思う。
「ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン」
今度は遠慮なしに扉を叩く音がする。
怖くなり私は毛布に包まった。
『早く帰って下さい。この家には何もないです。』
祈るような気持ちで念じた。
それが通じたのか、急に音がしなくなった。
「どーん!」
大きな衝撃音。というより大きな声が家に響いた。
「ごんちゃーん!!」
再び聞こえてきた声は聞き覚えのある懐かしい声だった。
「……みゆ。」
小声でつぶやく。
部屋の外からはドタバタと家を物色する音が聞こえる。
誰がいるのか見てみたいが、それをする勇気が持てなかった。
完全な安全地帯だと思われた部屋の中が揺らいでいくのを感じる。
「ごんちゃん!」
私の安全地帯はこの瞬間から崩された。
「やっぱりごんちゃんじゃん!どうしたのかと思った。大丈夫そうで何よりだね!家の扉が壊れたかもしれないけど多少の損害は仕方ないよね。それにしても銃社会じゃないからいいよね日本は。ごんちゃんに撃たれたらどうしようと思ったよ。
そうだ、VTuberになろう。」
膨大な情報量が私の中に流れ込んできた。
私の中で死んでいた時間が動き始めるのを感じた。
「警察呼ぶよ。」
私から出たのは反発の言葉だった。
感謝でも賛同でもなく小さな反発の声だった。
「ごんちゃんそんなこと言わないでよ。なんでそんなに怒ってるの、遊び来ただけじゃない。確かにドアをぐちゃぐちゃにしちゃったのは悪かったかもしれないけどそれは心配で仕方なかったからだしさ。修理代とかは出すし……」
「そういうことじゃなくって!!!出て!!!部屋から!!」
私は気がついたら叫んでいた。久しく言葉を発していないこともあり、吃どもりながらになったが感情を吐き出し続けていた。
「そもそもなんなの!急にいなくなったのはそっちなのにさ!!何がしたいの!!!」
「飛鳥!!大丈夫!!」
玄関から母親の叫ぶ声が聞こえてきた。