君の為
少しの間の後、みゆはアーイシャと同じ手順を踏んで中へ入っていった。
心の中で先ほどのみゆの言葉が何度も反芻された。
『誰の為でもなく、自分の為に』
みゆに言われて自分が情けなくなってきた。
みゆの為に来たのに逆に心配されて、何のために来たのかわからない。
「ふーーーーーー」
一度大きく息を吐く。
「パシッ」
そして、自分の頬を力強く叩く。
「よし」
気合が再び入った。
みゆの顔を見て、声を聴いて自分のやりたいことを再び思い出した。
私はみゆの為にここに来た。
みゆともう一度一緒にいるためにここに来た。
みゆと会えなくなるものと比べたら、怖いものなんて何もない。
「ここで終わり。前に進もう」
自分に言い聞かせるように呟いて。インターホンを押した。
手の震えも背中の汗も止まらないが、必死に抑えて一つ一つ正確に押していく。
緊張もあるが、迷いはない。
『もしもし。』
リーの声が聞こえる。
「遅くなりました、金剛寺飛鳥です。」
『……今から開けるね』
「お願いします。」
扉がゆっくりと開かれた。
今この一歩がこれからの私とこれまでの私を分ける。
アーイシャにも誰に言われても変わらない。私はみゆの為。VTuberになる。