意思なき決断
「覚悟ならあるよ。そうじゃないとここに来れないし居れないよ。
確かに心配させてしまうかもしれないけど、私も一生懸命頑張るからさ。」
シュミレートしてきた言葉を喋る。流石にアーイシャのを見て喋ることができずに視線をしきりに動かしながら口だけ動かした。
しかし、喋れば喋るほどアーイシャからの圧力を感じた。
「本心の言葉?」
一言だが重い言葉だった。
言葉の意味以上の圧力を感じ言葉を継ぐことができなかった。
「これぐらいで黙るくらいの覚悟って事?」
「そんなことは……」
「そんなことはないなら説明できる。覚悟の程を。」
「それは……えっと……さっき言ったようにまだまだ決意は足りないかも……」
「決意が足りないならここに来てほしくない。今ここから去れば私から二人に上手く伝えるから黙って去って。」
「その……決意なら……。」
私はそこに立っていることしか出来なかった。
そこから逃げ出さないことが唯一出来る自分の意思表示だった。
しかし、それさえ見通すようにアーイシャは言葉を続けた。
「いつまでもそうやって立っているつもり、遅刻するのも嫌だから早く決めてほしいんだけど。」
「……」
私はそこから何もしゃべれなくなった。言葉を出せば声が震えてしまいそうで、必死に足を震わさないで立っている事に集中した。
「分かった。そうやっているもみゆに頼ってきたんだ。そこで黙って立ってればいいよ。」
『そうじゃない。私はあなた達がみゆを理解していないから、それをサポートするためにここに来た。あなたはみゆの何を知っているの。』
言葉にできない言葉が頭の中に浮かんだ。
しかし、実際その言葉は誰にも伝わることなく。何にも影響することなく。消えていった。
「私は今から入る。あなたは入ってこないで。ここから先は自分の意思を持たない人は入れない。」
そう言い残し、アーイシャはインターホンを鳴らした。
「もしもし。来たよ。」
『はーい。どうぞ入って。』
インターホン越しにこの前聞いたリーの声が聞こえ、オートロックの扉が開いた。
中に入る直前、アーイシャは再びこちらに向き直った。
「早く帰れば。」