覚悟
翌日、私は見上げるような高さのマンションの前に立っていた。
「大丈夫かな……」
思わず不安が口から零れた。
青空が広がり気持ちの良い天気の下、自分だけが緊張で震えていた。
「いつまでそこにいるの。」
「え?」
後ろから声を掛けられ振り返ると、そこにはアーイシャがいた。
どこか馬鹿にしたような目線でこちらを見ていた。
昨日、私が”VTuberになる”と宣言したところ、一番反発したのがアーイシャだった。
意外にもリーは笑いながら私の事を歓迎した。
目の奥が全く笑っていないのが気になったが、表面上は問題がなさそうだった。
最終的には、みゆがアーイシャの事を丸め込む形で何とかなったのだが目を見る限り問題の解決になっていなかった。
「あ、アーイシャさん。」
「そんなところでボーとしていないで早く中に入ったら。」
「は、はい!」
私はアーイシャに引き連れられて中へと入っていった。
心の準備ができていない状態で中に入ってしまったので背中に尋常でない汗をかいた。
「本当にやるの?」
エントランス前でアーイシャはこちらを振り返り鋭い目付きで質問してきた。
「やめるなら早くしてほしいんだよね。覚悟がないんでしょどうせ。」
「いや、その、覚悟は……」
「ないでしょ。あるならもっと自信もって喋れるよね。」
「ある……よ。」
「嘘はつかないでよ、目見ればわかるんだからさこっちは。」
久々に味わうとげとげしさに私の目は泳いだ。