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僕のハムスターが無属性全体攻撃を覚えた

作者: へびうさ
掲載日:2020/05/16

 僕がハムスターを飼おうと思ったのは、大学に入学してすぐの頃だった。


 それまでは家族と一緒に暮らしていたのだが、一人暮らしをするようになったことで、寂しかったのだと思う。


 数ある動物の中からハムスターを選んだのは、その寿命の短さのためだった。なんとハムスターは二年半ぐらいしか生きられない。

 寿命が短いと何がいいのかと言えば、「飼い主の責任」を果たしやすいのだ。

 飼い主は必ず、ペットが死ぬまで面倒を見なければならない。

 だが、十年以上生きるような動物だと、飼い主の状況が変わってしまうことがある。

 十年経てば、僕はどうなっているかわからない。就職はしているだろうが、職種によっては、世話をしてやる時間があまり取れなくなるかもしれない。結婚しているかもしれないが、妻が動物好きとは限らない。

 でも二年半なら、僕はまだ在学中で、環境はそんなに変わっていないだろう。飼い主の責任などと気負わずに、最期まで世話ができる。


 そこで僕は、ある(おす)のハムスターを飼うことにした。

 僕は彼に「ジャン」という名前をつけ、かわいがった。




―――




 それから月日は流れ……


 ジャンは今日で十歳の誕生日を迎える。


 どういうことだ? 寿命は二年半じゃなかったのか?

 ジャンは今も元気に、回し車で走り回っている。


 なぜかは分からないが、ジャンはまだ生きている。

 僕は就職して、アパートにいる時間は減ったが、相変わらずの一人暮らしだ。彼女などいない。


「おまえ、なんでまだ生きてんの?」


 もちろん、返事を期待して問いかけたのではなかった。だが、予想もしないことが起こった。


「なんだ、その言い草は。オレが生きてちゃ悪いってのかい?」


「…………」


「まあ、信じられない気持ちは分かるが、これが現実だ」


「な、な……、なんでしゃべってるんだよ!」


「そんなに驚くなよ。ハムスターってのは元々しゃべる動物なんだぜ」

「いやいや、そんなわけないだろう。しゃべるハムスターがいるなんて、聞いたことないぞ」

「条件があるんだ。十年生きたハムスターのみが、知恵を付け、話せるようになるんだ。今までそんなハムスターがいなかったから、誰も知らなかったんだろう」


 人類はハムスターについて、まだまだ知らないことがあったのだ!


「だが、オレの場合、そこで話が終わりじゃねえ」

「どういうことだ?」

「御主人はオレに対して、一度も(めす)のハムスターを用意してくれなかったよな?」

「そりゃそうだろ。繁殖されたら困るし」

「そのせいなんだ!」

「ん?」


「童貞か処女のまま十歳になったハムスターは、話せるだけじゃなく、『無属性全体攻撃』ができるようになるんだよ!」


「…………」

「おい、なんか言えよ」

「意味がわからん。なんだ、無属性って」

「まあ、御主人はゲームとか、全然やらねえからな」


 ジャンはやれやれ、という仕草をして言った。


「仕方ねえ、見せてやるよ」


 そう言ってジャンは、勝手にケージの鍵を開け、外に出てきた。


「おい」

「こんなもんでオレを閉じ込めておくなんて、無理な話だ」


 そしてジャンは、部屋の隅に置いてある、空き缶が入っているビニール袋を指さした。


「その空き缶を三十センチほどの距離を置いて、等間隔(とうかんかく)に並べてくれ」


 僕は五本の空き缶を並べた。

 するとジャンは、なにやらおかしな手の動きをしながら、声を出した。


「はーむーはーむー、()ーっ!」


 五本の空き缶は、一斉に倒れた。


「これが『無属性全体攻撃』だ」

「思ったより地味だな」

「かなり力を抑えたからな。オレが本気を出したら、地球が壊れちまうんだ」


 ハムスターは人類の存続を(おびや)かす危険生物だった。




―――




 ジャンは話せるようになったことで、僕にいろいろな要求をしてくるようになった。


「ひまわりの種は毎日くれ」

「もっと頻繁(ひんぱん)にケージの掃除をしろ」

「回し車が、がたつくようになったぞ。新しいのを買ってくれ」


 仕方ないので大抵のことは聞いてやった。


 ある日、休日で家にいた僕に、こんなことを言ってきた。


「外に行ってみたい」

「なんのためにだ」

「十年も、この汚い部屋のせまいケージに閉じ込められてたんだぜ? 犬みたいに散歩させてくれよ」

「ハムスター用のリードは持ってないなあ」

「いらねえよ、御主人の肩に乗っていくからよ」

「ハア……しょうがないなあ」


 僕はジャンを肩に乗せて外に出た。


 途中、小学生の女の子二人に声をかけられた。


「きゃー、かわいー♪」

「なんで逃げないんですか?」


「ちゃんとしつけてあるからね」


「あの……頭なでてもいいですか?」

「いいぜ嬢ちゃん、やさしくしてくれよ」

「…………」

「…………」


 こいつ、何でしゃべってやがる!


「あ、ははは、腹話術の練習してたんだ」


 僕はそう言って、慌ててその場を離れた。


「ジャンのせいで、怪しいおじさんだと思われただろうが!」

「悪い悪い、初めて女の子に声をかけられたんで、舞い上がっちまったよ」




 近所の公園にやって来た。


「ちょっと降ろしてくんねえか? 自分の足で走り回ってみてえんだ」


 降ろしてやると、ジャンは「ひゃっほー」と言って走り始めた。

 回し車と違い、ちゃんと走った分だけ移動できるので楽しそうだ。


 だが、突然ジャンは硬直したように動かなくなった。

 そして頬袋(ほおぶくろ)に貯めていた食べ物を吐き出し始めた。


 ああ、これは逃げる時の動作だな。

 ハムスターは、天敵に出会った時など、速く逃げられるように、頬袋の中身を出して体を軽くする。


 野良猫が三匹、ジャンに近づいてくるのが見えた。


「助けてくれー!」


 ジャンが僕の方に走って来た。

 僕はジャンを抱え上げて、言った。


「『無属性全体攻撃』をすればいいじゃないか」



「猫は種族特性として『無属性耐性』を持っているから、オレの攻撃が効かねえんだよ!」



 人類は猫についても、まだまだ知らないことがあったようだ。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ハムスターが…… つくもがみでしょうか。 童話路線を行かないのが、 このなろうの世界なのかな。 [気になる点] ここ連日の某棋士のニュースから、 ついお名前に惹かれてしまいました。 [一言…
[一言] 象あたりは物理反射属性もってそうな、もってなさそうな。
[良い点] 地球を壊せる魔法が効かない猫……やっぱり猫は最強だぜー [一言] 面白いお話でした
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