6.弁明
「あ、えっと」
「おまえ誰にゃ! うちらになんのようにゃ?」
猫耳美少女のハンナが凄い剣幕で僕に怒気を放つ。
猫がシャーって怒るような感じでちょっと可愛い。
「えっと、いや、その、僕は――」
想定外の事態にしどろもどろで上手く答えられない。
「ちょっと、ハンナ落ち着いて」
「そう~、話は聞くべき」
見かねたシーフのサシャと魔法使いのキャロルが二人がかりでハンナを制止しながらなだめる。ハンナも渋々といった感じで怒気を引っ込める。
良かった。他の二人は話が通じそうだ。
「いきなりごめんね。えっと君一人? 恰好からすると君も冒険者かな?」
ハンナに喋らせたらまずいと、サシャがハンナの一歩前にでながら僕に問いかける。サシャにも勿論、警戒の色が見える。
まぁ、そうだよね。
「あ、はい。冒険者です。僕はタケルといいます。ソロです」
「それで何してるのにゃ!?」
「ハンナ~。ダメっ。ハンナはここで良い子にしてて」
ハンナが口を挟もうとするとキャロルがのんびりした口調で窘める。
「ごほん。えっと、話を戻すけど、ここには何をしに来たの?」
サシャが仕切り直しと、咳払いをして改めて質問を投げかける。
「さ、採取の依頼だよ。そこで薬草を取っていたら、君達の声が聞こえてきたから様子をみただけで特に他意はないよ」
僕は採取した薬草類を袋から取り出し、現物を見せながら偶々遭遇しただけだと弁明する。
「そっか。まぁ、そうだよね。この林に冒険者が来るとしたら採取ぐらいだものね。私達も同じ。薬草の採取依頼で来たの」
サシャが僕の言葉に頷きながら、怖い顔したままのハンナの肩を大丈夫だよといった具合に軽くたたく。
どうやらサシャは納得してくれたみたいだ。
少しほっとする。けど、ハンナは依然として僕を睨むようなジト目で警戒している。
ハンナはとびきり可愛い女の子だけど、普通に怖い。
獣人だし、恰好からして戦士だろうから襲われたら僕じゃ絶対に勝てない。何かしらの拍子でトラブルになったらかなわないから殺さる前に退散しよう。
「うん。そ、それだけだから、それじゃ僕はいくね」
そう言って僕は彼女達に背を向けその場を去ろうとする。
「あぁ~、なんかゴメンね。この前、他の冒険者と揉めちゃってさ。今、ちょっとナイーブなんだ。気を悪くしないでね」
明らかに怯えた様子の僕を見て気の毒に思ったのか、サシャがすまなそうな顔で片手を手刀状にして謝罪の意を示す。
あぁ、そうなんだ。
そうだよな。
冒険者ギルドで絡まれた時のことが頭をよぎる。
ギリっと思わず歯を食いしばる。
こんな理不尽な世界だもんな。色々あるよな。
妙に納得してしまう。
「あ、そうだ。君たちも採取って言ってたよね」
僕は振り向き、彼女達に少しだけ近づく。
「えっと、これとこれは雑草、それとこれは薬草だね。これは麻痺消し用のガンマ草。で、これは薬草に似てるけど毒草だよ」
彼女達が手に持っていた草をさっと鑑定し、どれが薬草か教える。
「え、あぁ、ありがとう。そうなんだ…… ごめん。もう一度いい?」
「あ、そうだよね。ごめん。一度に言われても覚えられないよね」
いけない。テンパって早口になってた。
僕は再度どれが薬草なのかゆっくりと確認を取りながら教えた。
「へぇ。君凄いね。ソロで来るだけあるね。助かっちゃったよ」
「よかった~。依頼達成できそう」
サシャとキャロルが嬉しそうに安堵の声をあげる。一方、ハンナは、目を丸くしながら僕と薬草を交互に見ていた。どんな心境なんだろう。
「よくそんな簡単に見分けつけられるね。なんかコツでもあるの?」
「……あぁ、そうだね。ちょっとコツを掴めばね……」
流石に鑑定スキルがあるとは言っちゃまずいよね。僕は歯切れ悪くしどろもどろに答える。
特にサシャやキャロルから追及はなかった。助かった。
「えっと、見ず知らずの僕の選別じゃ不安だと思うから、念のため、依頼書に記載されている薬草の形状と違ってないか自分達でも確認してね」
「うん。ありがとうね。助かったよ」
「ありがと~」
「……ありがとにゃ」
最後、ハンナも小声でお礼を言ってくれた。
「それじゃ」
長居すると何かしらボロがでそうなので、僕は急ぎその場を後にして王都への帰路を急いだ。