石神への制裁
「何なんだお前はさっきから!! どけ!!」
「もう分かったでしょう!? こんなことしても何にもならないってことは!! 殴るなら私を殴ってください!!」
「このっ……!!」
石神は腕を振り上げたまま動かない。さすがの石神も女子を殴ることには抵抗があると見える。
「危ないぞ千夏。離れてろ」
「で、でも! 秋人さん、頭から血が……!!」
「いいから。俺なら問題ない。それに、こいつにはちゃんとお礼をしないといけないからな……」
そう。これにてめでたしめでたし、で終わるのは虫が良すぎる話だ。やられたらやり返さないと気が済まない。俺の意図を察したのか、千夏は恐る恐る俺から離れた。
「とんだ邪魔が入ったが……今度こそくたばれ!!」
石神がバッドを振り下ろす。しかし俺はそれを片手で容易に受け止めた。二度も喰らってやるほど俺はお人好しではない。
「ぐっ……てめえ……!!」
「……サービスタイムは終わりだ」
俺は受け止めたバットを掴み、遠くに放り投げた。
「言ったよな? 俺に手を出した奴は、それ相応の覚悟はしておけと。次はお前が歯を食いしばる番だ」
「は、はは! やれるもんならやってみろ! こっちには人質が……は!?」
石神の足下に横たわっていた圭介は、自力で縄を解いてとっくにこの場からいなくなっていた。
「あいつ、いつの間に……!! 一体どうやって……!?」
「……覚悟はいいな?」
俺は【怪力】を発動。拳を握りしめ、一歩一歩、石神に近づいていく。
「ま、待て!! 俺が悪かっ――」
俺の拳が石神の腹に炸裂した。石神の身体は吹き飛び、後方の氷の壁に激しく叩きつけられた。
「がふっ……」
地面に落下し、ピクピクと痙攣する石神。一応死なない程度には加減したつもりだ。あいつは黒田や沢渡と違って、俺の中の「死んでもいいライン」はギリギリ超えてなかったからな。それにこんな状況で人を殺したら大混乱を招くことになるだろう。
「……っ」
その直後、俺も地面に倒れてしまった。強がりも限界か……。
「秋人さん!! しっかりしてください!! 秋人さん!!」
千夏の叫び声を遠くに聞きながら、俺は意識を失った。
☆
目を開けると、真っ白な天井が見えた。ぼんやりとした意識の中、俺は自分の身に起きたことを思い返す。
確か石神から野球バットで頭を殴られて、その後気絶したんだっけか。そしてここに運び込まれた、と。俺が今いるのは保健室のベッドの上だろう。
「秋人さん! 目が覚めたんですね!」
顔を横に向けると、そこには心から安堵した表情を浮かべる千夏の姿があった。
「……ごめんな千夏。心配かけた」
「い、いえ! 秋人さんが無事で本当によかったです……!!」
涙を拭う千夏。頭の痛みが全くないことから、春香がスキルを使って治してくれたものと思われる。その証拠に身体の節々が凄く痛い。
「あっ、秋人くん起きたんだね! おっはよー!」
「やっと目が覚めたのね」
個室のカーテンが開き、朝野と春香が入ってきた。
「千夏ちゃんから聞いたわよ、バッドで頭を殴られたんでしょ? まったく、いつも無茶ばかりして……」
そう言いながら、春香が俺の耳元に顔を近づける。
(アタシのスキルでこっそり治しておいたけど、一応まだ怪我人のフリはしておきなさいよ。バッドで殴られたのにピンピンしてたら皆が不自然に思うだろうし)
(ああ、分かった。ありがとな春香)
春香にはいつも助けられてばかりだな。本当に頭が上がらない。
「私も話は聞かせてもらったよん。なんか色々と大変なことになってたみたいだねー。私その間うっかり寝ちゃってたから全然気が付かなかったにゃ!」
朝野の姿が見えないとは思ってたけど寝てたんかい。
「俺が気を失ってから、どれくらい経った?」
「丸一日よ。今日中に起きなかったら叩き起こそうかと思ってたわ」
思ったより長いこと寝てしまったようだ。空腹による体力低下で身体が弱っていたせいもあるだろう。
「千夏ちゃんには感謝しなさいよ。アンタが目を覚ますまで、ずっと傍で看ていてくれてたんだから」
「……そうか。ありがとな千夏」
「そ、そんな。お礼なんていいです」
しかし丸一日過ぎたということは、氷の牢獄の出現から七日が経過したことになる。それはつまり……。
「だけど秋人くんがちょっと羨ましいにゃー。ここのところずっと固い床の上でしか寝てないし、私もベッドでぐっすり眠りたいよ」
「保健室のベッドを使えるのは体調不良の生徒だけよ、我慢しなさい」
「それは分かってるんだけど……とりゃっ!」
「ぐへっ!?」
朝野が布団の上にダイブしてきた。
「ふにゃー気持ちいいにゃー。おやすみなさい……」
猫のように身体を丸め、三秒後には寝息をたて始めた。早いな寝るの。寒いとすぐ寝てしまうあたり、本当に猫のようだ。
「こらこら何してんのよアンタ! 秋人が苦しいでしょ、どきなさい!」
「いいよ春香。寝かせてやってくれ」
「……やけに優しいのね」
それはそうだろう。何故なら可愛い女子に乗られるというのはなかなか……いや何でもない。
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