ドラゴンの末裔?
いや、よく考えたら沢渡達が一年前に死んだことになってるのなら、一昨日に俺が沢渡達から千夏を庇ったという事実はなかったことになり、俺と千夏の接点もなくなっているはず。だが現に千夏は俺のことをしっかり記憶している。その時点で気付くべきだった。
「秋人さんは一昨日の出来事、覚えてますよね?」
「まあ、うん……」
「ああ、よかった。もしかしておかしいのは私の方なのかなと思い始めてたので」
心から安堵した表情を浮かべる千夏。この様子だと、沢渡達が俺の手によって殺されたことまでは知らないようだ。しかし何故千夏の記憶だけそのまま残っているのか。
「あの、見当違いなことを言っていたら申し訳ないですけど……。沢渡さん達がいなくなったこと、秋人さんが関わっているのですか?」
「……どうしてそう思う?」
動揺を顔に出さないようにしながら、俺は聞き返す。
「秋人さんと沢渡さん達が対面した翌日に沢渡さん達がいなくなったので、もしかしたらと思いまして……」
鋭いなこの子。人々の記憶を改竄したのは転生杯の支配人なんだろうが、俺が間接的に関わっていることは確かだ。だからと言って「その通りです」と馬鹿正直に答えるわけにもいかない。
「さあな。俺は何も知らない」
ここはしらばっくれるしかない。そもそも何も知らない一般人にこの現象をどう説明すればいいんだ。
「本当ですか?」
「ああ」
「……そう、ですか」
どうやら引き下がってくれたようだ。俺が嘘をついてることも勘付いていそうだが、これ以上は触れてはならないと悟ったのだろう。
「ともかく沢渡達がいなくなったのなら、もうイジめられることもない。今は素直にそれを喜んでいいんじゃないか?」
「や、やっぱり秋人さんが何か関わって――」
「っと、そろそろ五時間目が始まるな。それじゃ」
これ以上話したらボロが出そうなので、俺は速やかにこの場を去ることにした。
「待ってください!」
意外にも大きな千夏の声に、思わず俺は足を止めてしまう。
「あの、一昨日は断られてしまいましたけど、やっぱり何かお礼をさせてください! どうして沢渡さん達が突然いなくなったのか分かりませんけど、もしそれが私の為だったとしたら……!!」
「それは思い違いだ」
そう。俺が沢渡達を殺したのは、あくまで真冬の為だ。結果的に千夏がイジメから解放されたというだけ。お礼をされる筋合いはない。
「そ、それでも私が秋人さんに救われたことは事実です! も、もも、もしよかったら今度のお休み、一緒にお食事でもどうですか!? 私に奢らせてください!!」
顔を赤くしながら千夏は言った。ものすごく勇気を出したことが伝わってくる。千夏ほどの美少女からのお誘い、普通だったら二つ返事でOKするだろう。だが千夏はただの一般人だ。これ以上俺に関わると、下手をすれば転生杯の闘いに巻き込んでしまうかもしれない。心苦しいが仕方のないことだ。
それに次の休日までには、俺は退学してこの学校から姿を消しているだろう。そうなったらもう、俺と千夏が会うことは二度とない。だったら早めに俺のことなど忘れさせてやるのが優しさというものだ。
「悪いけど、転入したばかりで色々と忙しいんだ。気持ちだけ受け取って――」
俺が丁重に断ろうとした、その時。焼けるような痛みが右腕に走った。
まさか……痣が反応している!? 転生杯の参加者が近くに現れたのか!? 何なんだ今日は、次から次へと予想外のことが……!!
「ど、どうしました!?」
咄嗟に右腕の袖を押さえた俺を見て、声を上げる千夏。痣、気付かれてないよな? 袖の下とはいえ痣の光は多少漏れてしまう……!!
「右腕を怪我でもされたのですか? だったら保健室に……。あっ、でも転入したばかりなら保健室の場所とか分からないですよね。よかったらご案内しましょうか?」
本当に優しいなこの子は。だが右腕の痣は誰にも見られるわけにはいかない。考えろ、上手く誤魔化しつつこの場から立ち去る方法を……!!
「フッ。クックック……」
「……秋人さん?」
「バレたのなら仕方がない、我の正体を明かすとしよう。我は数千年前に滅亡したドラゴンの末裔なのだ」
「……はい?」
千夏の目が点になる。そりゃこうなるわな。
「この人間の姿は偽りにすぎない。そして俺は……いや我は大半の力を右腕に封印しているのだ。我が力を全て解放すれば人間世界を滅ぼしかねないからな。時折その封印の影響で右腕に痛みが走るのだ。うっ、鎮まれ我が右腕。今はまだその時ではない……!!」
「…………」
呆然と立ち尽くす千夏を置いて、俺はこの場からフェードアウトした。どうよ、中二病で右腕の痛みを誤魔化しつつドン引きさせて自然に遠ざかる俺の作戦! 上手くいったけどめっちゃ恥ずかしいいいいい!! 26歳にもなって中二病とか痛すぎるだろ!!
だが悶絶している暇はない。先程痣が反応したということは、俺と春香以外にも転生杯の参加者が校内のどこかにいる可能性が高い。一刻も早く見つけ出さなければ、関係のない生徒達を危険に晒してしまう怖れがある。まずはスマホで春香に連絡だ。
「春香、さっき痣が反応した! 多分転生杯の参加者が校内にいる!」
『えっ、ホント!? アイドル部の昼練が終わったばかりで疲れてるのに――』
「んなもん知るか!! 見つけ次第連絡しろ、いいな!?」
俺は午後の授業もサボり、ひたすら校内を駆け回った。さあ、来るなら来い!
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