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自殺の瞬間

 こんなことが、何日も何日も続いた。どうして私がこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう。私は何の為に生きてるんだろう。どうして私は生まれてきたんだろう。いつかそんなふうに考えるようになった。


 そしてある日、決定的な事件が起きた。相も変わらず女子トイレで沢渡達からイジメを受けていた時のこと。



「そうそう、真冬ちゃんに聞きたいことがあってさー。真冬ちゃんって処女だよね?」

「……!?」

「だーかーらー、処女かどうか聞いてんの!! 質問にはさっさと答えろよ!!」



 怒鳴りながら、モップブラシを腹に押し付けてくる沢渡。真冬は恐る恐る頷いた。



「だよね、よかった! 実はアンタのことを知り合いのおじさんに紹介したら、結構気に入ってくれさー。なんと十万で真冬ちゃんを買ってくれるんだって! 更に処女だったら倍の二十万!!」



 沢渡が自分に何をさせようとしているのか。それを理解した瞬間、真冬は恐怖で凍りついた。



「凄くない!? アンタみたいな根暗女に二十万も出してくれるとか奇跡じゃん! あ、当然その金はアタシらのもんだから。それでアンタが今まで滞納してた教育費はチャラにしてあげる。アタシ優しい!」



 そう言いながら、沢渡は真冬の腕を掴む。



「これからそのおじさんと会う約束してるから、真冬ちゃんも一緒に来て! きっと大喜びしてくれると思うから!」

「い……いやっ!!」



 なんとか真冬は気力を振り絞り、沢渡の手を払って女子トイレから抜け出した。



「あっ、待てコラ!!」



 必死に逃げる真冬を、沢渡達が追いかける。相手は三人、逃げ切るのは難しい。真冬は息を切らしながら階段を駆け上がり、やがて屋上に辿り着いた。沢渡達がここに来るのは時間の問題だろう。


 何故自分から逃げ場のない屋上に来てしまったのか。いや、分かっていた。自分に逃げ場などないことは。これからもずっと、こんな地獄のような日々は続く。もう終わらせたかった。だから無意識に、足がこの場所に向かってしまった。



「お父さん……お母さん……ごめんなさい……」



 下から階段を駆け上がる音が響く中、真冬はゆっくりと、端の方に歩を進める。そして――真冬は空に向けて、その身を投げ出した。





「うわあああっ!!」



 記憶世界の真冬に死が訪れた瞬間、俺は悲鳴を上げた。どうやら俺の意識が現実に戻ってきたようだ。真冬と春香は心配そうに俺の顔を見つめている。



「大丈夫? 凄い汗よ?」

「……あ、ああ。問題ない」



 なるほど、これは確かに精神をやられる。まるで自分が体験したような感覚に陥るというのは本当だった。頭が地面に衝突して死んだ瞬間の記憶は一生俺の中から消えないだろう。ひとまず俺は息を整えた。



「真冬の記憶、視させてもらった。真冬は沢渡達からのイジメを苦に、自殺を……」

「……ん。そして私は転生杯の参加者に選ばれ、こうして蘇った」



 俺が視た記憶のはほんの一部だろう。生前の真冬は俺が想像もできないほど、つらい思いを味わったに違いない。



「……許せないな、そいつら」



 掌に爪が深く食い込むほど、俺は拳を握りしめた。沢渡達の気色悪い笑みを思い出すだけで激しい怒りが湧き上がってくる。今の俺は黒田に匹敵するくらい、沢渡達への憎しみに溢れていた。



「当時の真冬達が高校一年生で、それが二年前ってことは、留年でもしてない限り沢渡達は現在三年生か」

「……ん」

「でも自殺者が出たことでそいつらには何らかの処分が下されただろうし、既に退学なり転校なりさせられて、その高校にいない可能性もあるよな」



 俺の言葉に、真冬は力なく首を横に振った。



「私が死んだ後のことを調べてみたけど、陸奥高校で行われたのは簡単なアンケート調査くらいで、沢渡達は事情聴取すらされてなかった。沢渡の親が手を回してイジメがあった事実を隠蔽したみたい。私が死んだ原因も単なる事故死になっていた」

「……酷いな」

「三人とも、何事もなかったように高校生活を送ってる。私はそれが許せない」



 真冬の言葉からは怒りと悲しみの感情がはっきりと伝わってくる。そんな真冬の姿を見て、俺はもう居ても立ってもいられなくなった。



「よし、早速その陸奥高校に行こう」

「落ち着きなさいよ秋人、もう夜よ? 行ったところで警備員くらいしかいないわよ」

「そうか。なら直接そいつらの家に乗り込んで――」

「だから落ち着きなさいってば! そんなに事を急ぐ必要はないでしょ!?」



 春香に宥められ、俺はようやく平常心を取り戻した。



「……すまん、ちょっと冷静さを失ってた」

「まったく……。だいたいこれは真冬の復讐なのよ? 秋人が一人で先走ってもしょうがないでしょ」

「真冬を自殺に追い込んだ奴らだぞ。一刻も早くそいつらに報いを受けさせたいと思うのは当然の感情だろ」

「気持ちは分かるけど、まずは作戦を立てるのが先。行動に移すのはそれからよ。真冬もそれでいい?」

「……ん」



 春香の言う通りだ。俺は逸る気持ちを抑え込み、真冬が復讐を果たす為の作戦を練ることにした。




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