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仮転生

 次に目覚めた時、俺はどこかに横たわっていた。冷たくザラついた感触が頬に伝わってくる。ゆっくりと身体を起こし、服に付いた土埃を手で払った。どうやら俺は地面に倒れていたらしい。


 今は夜らしく、幸い近くに人の気配はなかった。誰かに発見されていたら救急車でも呼ばれていたかもしれないな。ひとまず俺は周囲を見回してみる。



「ここは……」



 俺が倒れていたのは、生前住んでいたアパートの前だった。逮捕されてから死刑になるまで一度もここに戻ってくることはなかったので、なんだか懐かしく感じる。遠くを見ると俺の知らない建物がいくつかあったりして、同時に時の流れも感じた。


 とりあえず、久々に帰宅してみるか。当時は血の海と化していた部屋も、今では誰かが掃除して綺麗になっているだろう。俺は202号室の前に立ち、ドアノブを回した――が、鍵が掛かっていた。


 ま、そりゃそうか。さっきまで死んでいたのだから、鍵など持ち合わせているはずもない。たとえ部屋に入れたとしても、俺の所有物はとっくに処分されて何も残ってはいないだろう。



「ん……?」



 その時俺は、ドアの隙間から電気の光が漏れていることに気付いた。まさか誰か住んでるのかと、俺はチャイムを押してみる。数秒後、ドアが開いて三十代半ばくらいの男が顔を出した。



「誰?」

「あ、えっと……。すみません、部屋を間違えました」



 男は軽く舌打ちをし、荒っぽくドアを閉めた。本当に住んでる人がいた。三人の人間が殺害された現場で生活するとは、なかなか度胸のある人だな。もしかしたらそんなことは知らずに住んでいるのかもしれないが。きっと家賃もかなり下がってるんだろうなと、俺は益体のないことを考える。


 それにしても俺のことは三人の人間を殺した死刑囚として散々ネットやテレビで報道されただろうに、全然気付かれなかったな。まさか死刑になった人間がこの世に舞い戻ってきたなんて夢にも思わないだろうし、そもそも今の俺は十年も若返っているのだから気付かれなくて当然か。


 仕方なくアパートから離れると、道路の端に落ちている新聞紙に目が留まった。ちょうどいい、あれで今日の正確な日付を確認しよう。俺はその新聞紙を拾い上げた。



「……えっ!?」



 思わず俺は声を上げた。新聞紙に書かれていた日付は、2019年5月10日。つまり俺の死刑から四年もの歳月が流れていたのだ。死んでから蘇るまでそれほど時間は空いていないと思っていたが、俺はこの世とあの世の狭間とかいう謎空間で四年も過ごしていたことになるわけか。全く実感がない……。


 俺が捕まってから死刑になるまで五年、謎空間で過ごしていた時間が四年、つまりあの事件からもう十年近く経っていることになるわけか。それだけ経てば事件もすっかり風化しているだろう。俺にとっては好都合だ。


 さて、これからどうしたものか。すぐにでも黒田に復讐したいところだが、俺はあいつの住所を知らないし、もう夜も遅い。そういうのは明日に回して、今日は休もう。


 だが見ての通り今の俺には住む家なんてないし、一文無しなのでホテルを借りることもできない。銀行口座もとっくに凍結されてるだろうし……。いやそれ以前に通帳もキャッシュカードもないから、どのみち金は引き出せないか。



「ん……?」



 なにやら右ポケットに違和感があったので手を突っ込んでみると、その中には見たこともない黒いカードが入っていた。大きさはキャッシュカードと同じくらい。まさかなと思いつつ、近くのコンビニに立ち寄ってATMにカードを挿入してみたところ、なんと読み込めた。続けて残高表示のボタンを押してみると――



「おおっ!?」



 思わず声を上げた。0が六個も並んでいたのだ。つまり……百万円!? 俺の生前の貯金より多いじゃんか!


 俺は無意識に周囲を確認する。このカード、俺の物ってことでいいんだよな? もしかしてあの支配人とかいう女の子の計らいか? 転生杯の参加者に初期費用として支給しているのだろうか。なんにせよありがたい。


 だが早速いくらか引き出そうとボタンを押したところ、当然のように暗証番号四桁の入力画面が表示された。おいおい、暗証番号なんて知らないぞ。駄目元で生前の口座の暗証番号を入力してみたが、やはり駄目だった。いくら百万円あっても引き出せないんじゃ何の意味も――


 ふと、右腕の〝88〟の痣に目がいく。もしかしてこれが暗証番号か? 試しに〝0088〟と入力してみると……成功! 俺は無事に金を引き出せたのであった。




  *




 翌朝。念のため偽名を使って近くのホテルで一泊した俺は、チェックアウトを済ませて外に出た。久々に柔らかいベッドで寝たので凄く目覚めが良かった。拘置所のベッドは固すぎて快眠なんてできなかったしな。


 昨日はATMの前でつい舞い上がってしまったが、冷静に考えたら今の俺は無職だし、こういうホテル暮らしを毎日続けていたら百万円なんてあっという間になくなってしまうだろう。なら働けよって話だけど、せっかくこの世に蘇ったのに再び社蓄生活に戻るというのもなんだかなあ。あーでも今の俺は16歳だから働くとしたらバイトかな。どちらにしろ全く気乗りしないけど。


 ま、金の解決策は後々考えるとして、今の俺がやるべきことは二つ。一つは黒田への復讐。もう一つは俺に与えられたスキル【略奪】の能力の把握。略奪と言っても何を奪うのか、どういう条件で発動するのか、まだサッパリ分かっていない。今後他の参加者と闘うような状況になった時、スキルの使い方が分からないまま負けました、じゃ笑えないからな。とにかく一回使ってみるか。


 その時ちょうど、通学途中であろう制服の女子高生が目に留まった。よし、あの子で試してみよう。


 スキル【略奪】を発動!! あの女子高生のパンツを奪い取れ!!


 そう心の中で叫んだ。が、俺のもとにパンツが舞い込むことはなく、女子高生にも特に変わった様子はない。つまり何も起きなかった。


 チッ、失敗か。やはり何か条件があるのか、そもそもそういう能力じゃないのか。もしかしたら俺の視界に入った物しか奪えないのではないかと思い、今度は女子高生のスカートを奪おうとスキルを発動したが、結果は同じだった。どうやら色々と調べる必要がありそうだ。てかただの変態だな俺。


 ならば先に黒田への復讐を果たすとするか。それにはまず黒田の居所を突き止めなければならない。足掛かりとなるのはやはり、俺が送検された検察庁だろう。そこに行けばきっと黒田にも会えるはずだ。


 普通に考えれば、この憎しみは俺を陥れた真犯人に向けるのが正しいと言えるだろう。だが今の俺にとっては、顔も名前も知らない真犯人より黒田への憎しみの方が遙かに大きかった。


 あれほどの屈辱を受けたのは生まれて初めてだった。刑務所での生活の中、何度あいつの顔が夢に出てきたことか。黒田への復讐を果たさない限り、俺は前に進むことはできない。真犯人はその後だ。

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