不覚の一撃
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「舐められたものだな。手加減しているのか?」
「いーやそんなんじゃねーよ? 弾丸の威力は溜め時間×距離。今のは溜め時間もなく距離も短いからこんなもん……ってあちゃー、つい説明しちまった! 俺様としたことがやっちまったー!」
「……どこまでもふざけた奴だ」
赤来がビルの屋上という遠距離から秋人を狙っていたのは空気弾丸の威力を高める為でもあったのか、と昼山は納得した。
「次はこちらの番だ。ワン!」
昼山がスキルを発動し、この場にワンこと巨大なクマの霊体が出現した。
「うおっ、でっけークマさん出てきた! それがお前のスキルか!」
「ああ。俺のスキルは【守護霊】。この通り動物の守護霊を呼び出すことができる。霊と言っても実体はあるから気を付けることだ」
「なるほど、さっきの二匹もそのスキルで呼び出したってわけか。でもいいのか? わざわざ自分のスキルを明かしちゃってよ」
「そうしないとフェアじゃないからな。次はこちらの番だ。いくぞ、ワン」
『ガウッ!!』
昼山とクマが赤来を目がけて同時に駆け出す。一方の赤来は不気味な笑みを浮かべたまま微動だにしない。昼山は左から、クマは右から挟み撃ちにする算段であったが――
「!?」
昼山の拳は赤来には届かず、逆に〝見えない何か〟によって弾き返されてしまった。クマの攻撃も同様である。
「んんー残念でした! 俺様の周囲は〝圧縮空気〟で覆われている。圧縮された空気には弾性力があって物体に反作用する力が……って、またまた説明しちまった! まあこんな小難しい話をしたところで分かんねーか。だってお前、あんま頭は良くなさそうだもんな」
「分かるさ、空力弾性というやつだろう。スキルで空気を操って圧縮空気を形成し、空力弾性の性質を利用して俺達の攻撃を弾き返したわけだ。さしずめスキル名は【空気】といったところか?」
「……へえ。頭は良くなさそうと言ったのは撤回するわ。要するにお前らの攻撃は俺様には通用しないってことだ」
赤来は次々と空気弾丸を放ち、昼山の身体に炸裂させる。さすがの昼山もこの近距離で不可視の攻撃を回避するのは困難。しかし威力は相変わらずである。
「そんなチマチマとダメージを与えたところで、俺の命には届かないぞ」
「だろうなあ……」
口元を歪ませる赤来。それを見て何かを企んでいると察する昼山。先程から赤来は右手しか使っていない。空気弾丸は右手からしか放てないのか、あるいは敢えて左手を使っていないのか……。
弾丸の威力は距離×溜め時間だと赤来は言った。あくまで右手の弾丸は目眩ましで、その間に左手の弾丸を溜めているのだとしたら――
「死ねえ!!」
ここで赤来が左手から一発の空気弾丸を放った。距離こそ短いが溜め時間は十分、人間を一人殺すには申し分ない威力である。昼山の予感は的中していたが、時既に遅し。空気弾丸の速度は秒速三○○メートルを超えており、どんな人間でも既に放たれた弾丸を回避することはまず不可能である。
殺った――この瞬間、赤来はそう確信した。
☆
俺は現在、住宅街の道路を闇雲に走り回っていた。
「どこ行ったあいつ……!?」
昼山の登場に気を取られている間に朱雀を見失ってしまった。まさか逃げた……いやそれはないだろう。きっとどこかで奇襲のチャンスを窺っているに違いない。
「真冬、変身女は見つかったか!?」
『……まだ。ドローンにも監視カメラにも映っていない』
そっちも駄目か。相手も移動に【潜伏】を使えるのだから現在地を捕捉しづらいのは無理もない。一体どこに――
その時、一つの人影がこちらに近づいてくるのが見えた。
「……春香!」
それは春香だった。そういやさっき春香がこちらに向かってると真冬から連絡があったな。思ったより早かったが。俺は春香のもとに駆け寄った。
「ちょうどよかった、春香も一緒に変身女を捜して――」
『秋人!! それは春香じゃない!!』
真冬の叫び声が響き、ハッとする。だが気付いた時には遅かった。春香の姿をしたそいつは口元を歪ませながら鮫島に姿を変え――俺の腹に拳を叩き込んだ。
「がはっ……!!」
骨が砕ける鈍い音と共に、俺は派手に吹き飛ばされた。防御も間に合わず【怪力】で強化された拳をまともに喰らってしまった。
「あっはっはっはっは!! 見事に引っ掛かったわね!!」
ちくしょう油断した!! 朱雀が俺の仲間に姿を変えることは想定していた!! 想定していたのに……!!
『秋人逃げて!!』
鮫島の姿をした朱雀が俺の息の根を止めんとばかりに迫ってくる。俺は血を吐きながらも【重力】を発動し、身体を宙に浮かせてなんとか回避した。
こんな状態ではロクに闘えない。ひとまず朱雀から距離を取ろうと、重力を横方向にかけて空中を移動する。今は昼山が赤来の相手をしているはずなので空気弾丸で狙われる心配はないだろう。しかし意識が朦朧としているせいかコントロールが難しく、程なくして俺は羽をもがれた鳥のように、どこかの雑木林の中に落下してしまった。
『秋人大丈夫!? 秋人!!』
「大……丈夫だ……心配すんな……」
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