真冬の裸
アジトに帰宅した俺は、そのまま風呂場に向かい湯船に浸かった。トレーニングの後はアジトの大浴場で汗を流すのが日課となっている。
「んー、今日もいい汗かいた!」
その直後に春香も入ってきた。当然、全裸である。無意識に視線がそっちの方に向いてしまう。相変わらず羞恥心が全くないな。
あれからというもの、俺と春香は毎日のように一緒に風呂に入っていた。念のため言っておくと俺が入ってる時に春香が勝手に入ってくるのであって、その逆は一度もないからな? 最初の頃は一応軽く注意していたが聞き入れる様子もないので、最近は諦めて何も言わなくなっていた。まあ、俺としても悪い気はしないし……。
「秋人は高宮さんに随分気に入られたみたいでよかったわね」
「あれは気に入られてるの一言で済ませていいのかどうか……」
高宮さんの指導はとても丁寧で分かり易いので、その点は感謝してるけども。
「そういやこの間俺が【操縦】を奪った参加者の痣が〝94〟だったんだけど、俺が〝88〟ってことを考えると、かなり仮転生のペースが早くなってないか?」
仮転生は痣の数字の順に行われているため、俺が仮転生してから落合が現れるまでの僅か三日の間に、最低でも七人もの参加者が仮転生していることになる。第八次転生杯が始まって〝88〟の俺が仮転生するまで五年も経ってるわけだから、それを考えるとこのペースは不可解だ。
「仮転生のペースには結構波があるのよね。全く参加者が出現しない時期もあれば、一気に出現する時期もあるみたい。今は後者の時期みたいだから、もしかしたら近い内に100に到達するかもね」
「……なるほどな」
一緒に湯船に浸かりながら、春香と普通に会話をする。最初の頃はしどろもどろだったが、さすがに十日も経てば春香の裸にも慣れ――るわけがないだろう。だって16歳の美少女の裸だぞ? そう簡単に慣れてたまるか。平静を装ってはいるが今もギンギンしっぱなしだよ。童貞なめんじゃねえ!
「ねえ、そろそろ触らせてくれてもいいんじゃない?」
「駄目に決まってんだろ!!」
春香は隙あらば興味津々な顔で触ろうとしてくる。どことは言わないけども。
「相変わらずケチねー。それじゃ秋人もアタシの身体を触っていいから、その代わりにアタシにも触らせるってのはどう?」
「は!? 何言ってんだ!?」
「交換条件ってやつよ。おっぱいでも何でも、好きなところ触っていいから」
「じょ、冗談もそういうこと言うのやめろ!!」
「冗談じゃないってば。もう何日も一緒にお風呂に入ってる仲なんだし、ちょっと身体を触り合うくらい何も問題ないでしょ? ほらほら」
春香が俺に迫ってくる。裸の美少女の好きなところに触っていいだと? さすがにそれはアウトではなかろうか。いやそれを言うなら一緒に風呂に入ってる時点で既にアウトだけども。
本音を言うと、めちゃくちゃ触りたい。正直もう我慢の限界だ。裸の美少女を目の前にして理性を保つことがどれだけ大変か。本人は触っていいと言ってるし、どうせアウトならいっそのこと触っていいよな? 今はお互い16歳なんだし何も問題はないはずだ。俺は春香の胸にゆっくりと右手を伸ばし――
その時、浴室のドアをノックする音がした。俺は咄嗟に手を引っ込める。真冬か!?
「春香。シャンプーの詰替、ドアの前に置いとくから」
ドアの向こうから真冬の声が聞こえる。真冬は今も俺と春香が一緒の風呂に入っていることは当然知っている。最初の頃はだいぶ腹を立てていたものだが、今では黙認するようになった。真冬も春香に注意することを諦めたらしい。あまり良い気はしていないようだけど。
「あー、そういえばシャンプーなくなりそうだったわね。ありがと真冬――」
言葉の途中、何を思いついたのか春香の目がキュピーンと光った。
「ちょっと待って真冬!」
春香は勢いよく立ち上がると、真冬を追うようにダッシュで浴室を出た。
「きゃっ!? な、何するの春香!?」
「真冬も一緒に入ろ! 皆で入った方が絶対楽しいって!」
「何言ってるの!? 秋人もいるんでしょ!?」
「いいじゃない別に! お風呂に男も女も関係ないわよ!」
「関係ある!! 春香は平気でも私は駄目!!」
「またまたそんなこと言っちゃってー。いつも一人でお風呂に入って、本当は寂しい思いをしてたんでしょ?」
「別に寂しくない!!」
「いいからほら、早く脱いで!」
「や、やめてえええーーー!!」
なんだか脱衣場の方が騒がしいな。会話の内容は聞き取れないが、真冬が悲鳴を上げているのは分かる。一体何をやってるんだか。そして間もなく浴室のドアが開いた。
「お待たせ秋人! 真冬を連れてきたわよ!」
「なんだそんなことか……は!?」
まさかと思い、俺は素早く振り返る。そこには春香に腕を掴まれた、裸の真冬の姿があった。どうやら春香に服も下着も全部脱がされ、無理矢理連れてこられたようだ。真冬の胸に、恥部に、俺の目が奪われる。
「い……い……い……!!」
これまでとは比べものにならないくらい、真冬の顔が真っ赤に染まる。そして――
「いやああああああああああああああああーーーーーーーーーー!!」
世界中に真冬の悲鳴が響き渡ったのであった。
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