ラッキースケベ
「秋人がアジトに住み始めてから十日くらいだっけ? もう生活には慣れた?」
「んー……」
女の子二人と共同生活なんて初めての経験なので胸が高鳴る反面、様々なハプニングにも見舞われた。その事例をいくつか紹介しよう。
『ハプニングその一・洗濯物干し』
これは真冬がアジトの屋上で洗濯物を干していた時のこと。
「真冬、俺も手伝うよ」
「えっ……」
「住まわせてもらってるのに何も家事をしないのは申し訳ないしな」
「ちょ、ちょっと待って!」
「遠慮すんなって――あっ」
とりあえず何か干そうと洗濯カゴから取り出したのは、水色の可愛らしいパンツ。そりゃそうだ、女の子が二人住んでるんだから当然こういう下着もあるよな。つい一人暮らし時代の感覚でやってしまった。さてこれは真冬のものか春香のものか……。
真冬の方をチラ見すると、顔を真っ赤にして俺を睨みつけていた。あ、これ真冬のだ。
「秋人はお風呂掃除!!」
「は、はい!!」
俺は素早くパンツを洗濯カゴに戻し、ダッシュで風呂場に直行したのであった。
『ハプニングその二・食事の準備』
これは俺と真冬が春香の料理の手伝いをしていた時のこと。
「んっ……!」
真冬が台に乗り、食器棚の一番上にあるボウルを取ろうとしている。だが真冬は背が低いので、頑張って手を伸ばしても届くか届かないか微妙なラインだ。
「代わろうか真冬?」
「大……丈夫……!」
爪先立ちになる真冬。古くて不安定な台なので足場がグラグラ揺れている。このままでは転倒する可能性大だ。
「おい危ないぞ!」
俺は咄嗟に駆け寄り、台を両手で押さえた。
「どうだ、取れたか?」
「ん」
「それはよかった――あっ」
思わず俺は上を向いた。真冬はスカートなので、この角度だと中がバッチリ見える。真冬もそれに気付いたらしく、みるみるうちに顔が真っ赤になった。ちなみに色は白。
「このっ……変態!!」
「あいたっ!?」
俺はボウルを頭に叩きつけられたのであった。
『ハプニングその三・脱衣場』
これは俺が風呂に入ろうとしていた時のこと。というか脱衣場と言った時点で展開は概ね予想できるだろう。俺が風呂場の戸を開けると……。
「あっ」
脱衣場に下着姿の真冬がいた。そのあられもない姿に釘付けになる俺。エロ漫画ではお決まりのシチュエーションである。本日の色は上下ともピンク。
真冬は俺と目が合うと、茹で蛸のように顔を真っ赤にした。真冬が風呂に入るのはいつも遅めの時間帯なので、俺より先に入ろうとしているとは思わなかった。だがここはノックをしなかった俺に非があるだろう。
「す、すまん!」
俺は慌てて戸を閉め――いや待て。確かにこの場合はすぐにここから去るのが定番の流れだろう。だがこんな素晴らしいシチュエーションに巡り逢えるのは、これが最初で最後かもしれない。それを自分から手放すのはあまりにも惜しい。
ならば今の俺にできることは、一秒でも長くこの場に留まること。そして俺はこの光景をしっかりと脳裏に焼き付けようと、大きく目を見開いた。すまない真冬、俺は敢えて定番に逆らう!
「問題ない。続けてくれ」
「ふざけないで!!」
俺の脳天にシャンプーの容器が直撃したのであった。
とまあ、こんな感じだ。ハプニングと言っても俺にとってはどれもラッキーイベントだったわけだけど、真冬に迷惑をかけてしまったことについては深く反省している。だけどなんで被害者はいつも真冬なんだろうな。春香とはそういうのないのに。
「秋人、聞いてる?」
「ん!? ああうん、だいぶ慣れてきたかな」
そうだ、今は春香と話してる最中だった。それにしても顔を真っ赤にしてる真冬も可愛かったな。ここまで判明している真冬のパンツは、水色、白、ピンク。なんというか、意外と女の子らしいの穿いてるよな……。
「なにニヤニヤしてるの?」
「はい!? いや別に今日は良い天気だなーとか思ってただけだ! ほら早く行くぞ!」
俺は誤魔化しながら足早にジムに向かった。
ジムに着いた俺と春香は、各自トレーニングを開始した。
「いいよ秋人くん!! 凄くいい!! 最高だよ!!」
ダンベルを持ち上げる俺に熱烈な声援を送るこのイケメン男性は、このジムのトレーナーである高宮さんだ。
「ナイスバルク!! 今日も絶好調だね秋人くん!!」
「はい……ありがとうございます……」
いつもながらハイテンションの高宮さんに、俺は苦笑い。他にもトレーニングに励む人が多数いる中、何故かこの人は俺に対して一際熱心に指導してくれる。
「いやあ、秋人くんの成長速度には驚くばかりだよ。このジムに来てまだ日が浅いのに、もう目に見えて筋肉がつき始めてる。今まで色んな人の肉体を見てきたけど、こんな肉体に出会ったのは初めてだ……」
そう言いながら俺の身体を優しく撫でる高宮さん。その手つきもなんだかイヤらしい。だが確かに、この数日間だけでも身体能力が著しく向上していくのを自分でもハッキリと感じていた。もしかしたらこの仮転生体は、普通の人間の身体と違って特殊な性質があるのかもしれない。
「ところで秋人くんはずっと長袖だね。半袖を着たらいいのに。暑いでしょ?」
「あ、その、実は長袖の運動着しか持ってなくて!」
「それは大変だ!! よかったら僕が愛用してる半袖のトレーニングウェアをプレゼントしようか!?」
「お、お気持ちだけで十分です! 寒がりなんで長袖がちょうどいいんですよ!」
勿論嘘だ。正直かなり暑い。しかし半袖なんて着たら右腕の〝88〟の痣が露わになってしまう。つい袖を捲りそうになるが、我慢するしかない。
「前から思ってたけど、秋人くんってなんだか不思議な魅力があるよね。大人の男の魅力というか……。とても16歳には見えないよ」
「そ、そうですか……?」
まあ中身は26歳だから大正解なんだけども。この人ってなんだか妙に鋭いし、いつか正体がバレるんじゃないかとヒヤヒヤする。
「秋人くんと会う度に僕の胸が大きくときめくのは、その魅力の虜になってしまったからなんだろうね……」
「はい!?」
「でも安心して、僕は未成年に手を出したりしないから! 秋人くんが成人するまであと四年、僕は待つ! だから秋人くんも待っていてほしい!!」
ちょっと何言ってるのかよく分からない。
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