同盟の提案
「お前は真冬とどういう関係なんだ? 前から知ってたような口振りだったが」
俺が尋ねると、夜神は少々難しい顔をした。
「んー、勝手に話すと怒られそうだしな。真冬に直接聞いてみたらどうだ? まあ、お互いにかけがえのない存在、とだけ言っておこう」
確かに本人の許可もなしに過去を探るのは、あまり褒められた行為ではないだろう。そういえば俺と出会う前のことはほとんど知らないな……。
「それで、お前の目的は何だ?」
「何のことだ?」
「惚けるなよ。こんな回りくどいことをしてまで俺達をここに呼んだんだ、何か目的があるんだろ?」
「ふっ。察しがいいな……」
その時、夕季が救急箱を持って部屋に入ってきた。
「あれ? 秋人さんの手当てをしようと思ったんですけど、もう治ってる……?」
「悪いな。春香に治してもらった」
「そ、そうですか。なら良かったです」
正確には身体を元の状態に戻してもらった、だが。しかし敵の手当てをしようとするなんて、お人好しな子だ。
「夕季。昼山は帰ってきたか?」
「いえ、まだです」
「そうか。陸奥高校の様子を見に行っているはずだが、何かあったのか……?」
「……多分大丈夫だと思うぞ」
不審者扱いされて警備員に連行されてたし、今頃は警察署で事情聴取でもされているのだろう。
「本当は互いのメンバーが全員揃った上で話したかったが、まあいいだろう。そこの二人も、一旦食べるのをやめて聞いてくれ」
スイーツを頬張っていた春香と朝野がこちらを振り向く。まだ食ってたのかよ。
「秋人、春香。私達のチームと同盟を組まないか?」
「同盟……!?」
予想外の提案に、俺は驚きを隠せなかった。
「同盟と言っても、そんな仰々しいものではない。両チームの間では戦闘を行わず、有事の際には協力する。決まり事はそれくらいだ。前に朝野がお前達と共闘したのは聞いているし、その延長線と思ってくれたらいい」
「なんでまた、俺達と……?」
夜神がテーブルの方へ歩き出し、クッキーを手に取った。
「まあ理由はいろいろあるが……。決め手となったのは、ニーベルングの一件だ」
「ニーベルング……。そういや昼山をスパイとして送り込んだのは、お前の指示だったんだよな?」
「ああ。ニーベルングの悪事を暴き、潰す為にな。あいつらは何の罪もない子供達に無理矢理スキルを与え、都合の良い道具として利用していた。私はそれがどうしても許せなくてな……」
夜神の手にあったクッキーが粉々に砕け散った。
「しかし困ったことに、昼山はスパイとして何の成果もあげられなかった。あいつは戦闘ではとても頼りになるが、それ以外は基本ポンコツだからな。完全に私の人選ミスだ」
溜息をつく夜神。ポンコツなのは同意する。
「だから言ったでしょリーダー、昼山には無理だって! やっぱりスパイには私が適任だったんだにゃ!」
「お前はもっと無理だろう」
「ガガーン! 酷いにゃ! 傷ついたにゃ!」
「やはり夕季をスパイにするべきだったか……」
「僕ですか!? 絶対無理ですって!!」
仲良いなこいつら。
「話を戻そう。結局ニーベルングを潰す糸口が掴めないまま手をこまねいていたのだが、突如あるチームによってニーベルングが壊滅する事件が起きたのだ」
「……俺達のことか」
「そう、図らずも私の目的は果たされたわけだ。だからお前達には感謝している。後にそのチームの一人が真冬だと知った時は驚いたものだ」
確かに俺達にもニーベルングの連中を許せないという気持ちはあったが、俺達の一番の目的は千夏の救出だった。結果的にニーベルングは壊滅し、子供達を保護することはできたが、千夏を救うことはできなかった……。
それにあの闘いで俺はほとんど何もできなかったし、壊滅させたのは転生杯の参加者として蘇った千夏だ。だから感謝されても素直に喜ぶことなどできない。
「その事件以来、お前達に興味が湧いてな。そして朝野や昼山の話を聞いている内に、お前と私は似ていると思った」
「お前と俺が?」
「ああ。お前も私も人一倍、悪を許さんとする正義の心がある。違うか?」
「……買い被りだな」
俺は自分に正義の心なんてものがあるとは思っていない。自らの復讐の為に黒田を殺した俺が――真冬の復讐の為に沢渡達を殺した俺が正義なのだとしたら、悪と正義の境界線は一体どこにあるというのか。悪を倒す為なら悪にでもなる……と言ったら厨二臭いかもしれないが、俺はそういう人間だ。
「ニーベルングの連中のように、無関係の一般人を平然と巻き込んでいる輩は他にもいるだろう。私はまずそういう奴等から脱落させるべきだと考えている。その為には味方が多いに越したことはない」
「そこで俺達と同盟を組みたい、と……」
「ああ。お前達にとっても悪い話ではないはずだ」
確かに表面上は俺達にも利のある話だが、一つ引っ掛かっていることがある。
「その提案の為だけに、春香を誘拐したフリをしたのか?」
「ただ話したいから会いたい、などと言われても警戒するだろう? 多少強引な手を使った方がスムーズに対話まで持ち込めると考えたんだ。迷惑をかけたのは謝るが、ちょっとしたサプライズだと思ってくれ」
「…………」
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