【遊戯場】のスキル
「今お開けしま――うわっ!?」
俺は【怪力】を発動し、ドアを粉々に破壊した。それに驚いた夕季が尻餅をつく。部屋には縦長の大きなテーブルが置かれており、その奥では一人の女が座っていた。
「これまた随分と元気な来客だな」
ティーカップを片手に女が呟く。俺の襲来に全く動じていないことからも、強者の雰囲気を感じさせる。
「月坂秋人、だな? 真冬が来てくれることを期待していたが、まあいいだろう」
何故そこで真冬の名が――いやそんなことはどうでもいい。
「……お前が夜神か」
「いかにも、私が夜神恋歌だ。遠路はるばるご苦労だったな。まずは菓子でも食べながらゆっくり話をしようじゃないか。夕季、紅茶の用意を」
「は、はい」
俺はテーブルの手前に置かれていたクッキーの乗った皿を勢いよく払いのけた。壁に打ちつけられた皿の割れる音が響く。
「春香はどこだ……!!」
怒気を帯びた声で俺は言った。こいつの茶番に付き合う気などない。俺がここに来た目的は春香の救出、ただそれだけだ。一方の夜神は全く動じておらず、相変わらず澄ました顔で俺を眺めている。
「聞いていたのとはだいぶ違う印象だな。仲間のことになると直情的になるタイプか。嫌いではないが、食べ物を粗末にするのは感心しないな」
「答えろ!! 春香はどこだと聞いている!!」
これ以上は我慢の限界だ。まともに答える気がないのなら、実力行使で……!!
「そう慌てるな。お前の仲間、青葉春香は丁重にもてなしている。今頃さぞ楽しい思いをしているだろうな……」
意味深な笑みを浮かべながら、夜神が言った。
「春香に何をした!? もし春香の身に何かあったら……!!」
「許さない、か? そんなに仲間を返してほしければ返してやろう。ただし……」
夜神が立ち上がり、その右腕を俺に見せつける。
「この私と闘って勝つことができたらな」
「……!!」
夜神の右腕には〝7〟の痣が刻まれていた。昼山と同じく、一桁台の参加者。こいつも第八次転生杯の初期に仮転生し、今日まで生き残っていることを示唆している。
「どうした? まさか怖じ気づいたか?」
「……冗談だろ」
どれだけ強かろうと関係ない。俺は絶対にこいつを倒して、春香を助け出す。
「そうこなくてはな。月坂秋人、私もお前とは一度手合わせしたいと思っていた」
夜神は上着を脱ぎ捨て、スポーツウェア姿となった。その肉体美に思わず目を奪われてしまう。ジムに通っているから分かる、こいつの身体がいかに鍛え上げられているか。武闘派とは予想外だった。
「さて。ここは闘いの場としては適してないし、私も城内を荒らしたくはない。そこで相応しい舞台を用意してやろう。夕季、例の空間を頼む」
「は、はい」
夕季が頷く。何をする気なのかと思った次の瞬間、視界が光に包まれた。
「……は!?」
目を開けた俺は、思わず声を上げた。ついさっきまで城の中にいたはずの俺達が、なんと空の上に立っていたからだ。
これは夕季が何らかのスキルを発動したと見て間違いない。おそらくは瞬間移動系の――いや違うな。単に移動する能力なら空の上に立っていることに説明がつかないし、夜神が〝例の空間〟と言っていたのも引っ掛かる。
地上に目をやると、西部劇の映画でよく見るような荒野が広がっていた。一体どこなんだここは。そもそも日本なのかも分からない。
「だいぶ混乱しているようだな。まあ無理もないだろう。夕季、説明してやれ」
「わ、分かりました。ボクのスキルは【遊戯場】といいまして、簡単に言うとゲームを行う空間を創り出す能力です」
「ゲームだと……!?」
「はい。今のボク達は、そのゲームの待機画面にいると考えてください」
つまりここは、夕季のスキルで創られた仮想空間の中ということか。
「先程闘うとは言ったが、命のやり取りまでするつもりはない。ならばゲームで決着をつけよう、というわけだ」
「ふざけんな!! 俺はお前らの遊びに付き合う気は――」
「まあ最後まで聞け。大事な仲間を助けたければな」
「……っ!!」
俺は言葉を呑み込んだ。腹立たしいことこの上ないが、人質を捕られている以上、今はこいつの言う通りにするしかない。
「それではルールを説明させていただきます。もうお気付きかと思いますが、この荒野がゲームのステージとなります。このステージには三種類のコインが無数に散りばめられています」
俺達の頭上に金・銀・銅の三枚のコインの映像が出現する。
「参加プレイヤーはコインを拾うことでポイントを獲得できます。金は50ポイント、銀は30ポイント、10ポイントとなります」
「……より多くのポイントを獲得できた方の勝ち、ということか」
「はい。制限時間は一時間。コインは拾った時点で消滅しポイントに変換されるため、相手のコインを奪ってポイントを獲得することはできません。また、ステージには時折モンスターが出現します」
「モンスター……!?」
「モンスターを倒すことでもポイントを獲得することができます。ただしポイント量は決まっておらず、モンスターの強さによって変動します」
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