思わぬ協力者
目が覚めた俺は、ゆっくりと頭を起こし、薄暗い室内を見回した。ここは……将棋部の部室? ああそうか。昼山が警備員に連行された後、急に眠気に襲われて……。
「うおっ」
携帯の画面を見て俺は小さく声を上げた。時刻が七時を過ぎていたのだ。一眠りのつもりがガッツリ寝てしまった。春香は俺がこんな所にいるなんて知らないだろうし、俺のことを探しているか、あるいは先に帰ったか。
ひとまず春香に連絡を――そう思った矢先、着信が来た。春香と思いきや、真冬からだった。きっと帰りが遅いから心配で電話してきたのだろう。
「すまん真冬、今から帰る。春香はもう帰って――」
『秋人。落ち着いて聞いて』
真冬の真剣な声色に、俺は何らかの事態を察した。
「何かあったのか?」
『……春香が攫われたみたい』
「は!?」
俺は耳を疑った。春香が、嘘だろ……!?
『首謀者は夜神という女で間違いない。場所を送るから確認して』
直後、携帯に地図が送られてきた。早くも名前と場所を特定したようだ。いつもながら見事な手際の良さだが、感心するのは後だ。
「分かった、すぐ助けに行く!!」
『あ、待っ――』
俺は通話を切った。一体いつ攫われたのか。学校にいる時か、あるいは帰宅途中か。なんにせよ俺が呑気に寝てないで春香と一緒にいたら、こんなことにはならなかった。何やってんだ俺は……!!
「……くそ!!」
思わず俺は机を殴り、破壊してしまう。前に千夏を攫われたことはあったが、今度は春香かよ。また仲間を人質に捕って俺を追い詰めようという魂胆か? どいつもこいつも卑怯な手ばかり使いやがって……!!
だが今は苛立っている場合ではない。一刻も早く春香を助けなければ。俺は真冬から送られてきた地図で場所を確認する。ここから結構な距離があるので何らかの交通手段は必須となるが、電車やバスで悠長に向かっていたら手遅れになるかもしれない。
俺は部室を飛び出し、屋上に移動して空を見上げる。都合良くヘリでも飛んでたりしないものか。もし見つかったら【操縦】で操り、それに乗って目的地まで行ける。乗員は良い迷惑だろうが非常事態なので許してくれるだろう。しかし残念ながら見えたのはカラスくらいだった。
何か使えそうな乗り物はないかと、俺は街全体を見渡す。だが目的地まで一直線に行ける乗り物となると、かなり限られてくる。ニーベルングのビルに突入した時はスカイカーを使ったが、まだ全然普及してないので見つかるはずもない。
あとは飛行機くらいしか思いつかないが、さすがに操れる自信がないし、もし失敗したら大惨事だ。何か、何かないのか……!?
「……ん?」
その時、見覚えのある浮遊物が俺の視界を横切った。あれは……カーペット!?
それは以前、俺が【息吹】のスキルで命を与えた、空飛ぶカーペットだった。あれから行方知れずだったが、こんなタイミングで発見するとは。こっちの気も知らず、気持ち良さそうに浮かんでいる。そうだ、あいつを使えば……!!
「おいカーペット!! 俺だ!!」
俺が大声で呼びかけると、カーペットはこちらに目を向けた。
『あっ、お前は……!!』
「俺を乗せてくれ!! 急いでるんだ!!」
『……けっ、嫌だね。オイラに命令するなって言っただろ』
そうだ、こいつは大の人間嫌いだった。だが今はこいつに頼るしかない。
『命を与えられたからって、お前の手下になった覚えはねえ。何をそんなに急いでんのか知らねーけど、人間の命令なんて絶対に――』
「頼む!!」
俺は深く頭を下げた。今は形振り構ってる場合じゃない。
「分かってる! 一方的に命を与えて、こっちの都合で命令して、勝手なことばかりしてるのは! だけど今、俺の仲間がピンチなんだ!」
『…………』
「お前の力が必要だ! 頼む!!」
俺は再び頭を下げる。これで駄目だったら潔く諦めて別の手を考えるしかない。するとカーペットが俺のもとに降りてきた。
『乗りな』
「……助かる!!」
どうやら俺の想いが通じたらしい。俺はカーペットに飛び乗り、地図と方角を照らし合わせながら遠くに見える山を指差した。
「あの山に向かってくれ!」
『了解。しっかり捕まってろよ!!』
「……うおおっ!?」
カーペットが猛スピードで空を走行し、俺は振り落とされないよう必死にしがみつく。想像以上の速さだ。これなら大幅に時間を短縮できる。
『う……ぐぐ……!!』
途中、カーペットから何度か苦しげな声が聞こえてきた。どうやらかなり無理をしてスピードを出してるようだ。
「おい大丈夫か!? あまり無茶するな!」
『へ、へへ。何言ってんだ、仲間がピンチなんだろ? だったら少しくらい無茶してやんねーとな!』
「お前……!!」
数十分後、目的の山が見えてきた。
「あの山だ! 止まってくれ!」
『駄目だ、減速が間に合わねえ!』
「はあ!? ちょっと待っ――」
俺とカーペットは猛スピードのまま、山の斜面に突っ込んだ。
「あ、危なかった……」
地中から這い出てきた俺は、安堵の息をつく。【潜伏】の発動が間に合わなければ地面に激突していたところだ。水面に勢いよく突っ込んだようなものなので顔はヒリヒリ痛むが、まあ問題はない。すぐ傍にはカーペットが落ちていた。
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