アイドル部員たち
「くっ、離せ! 俺はただ学校の視察も兼ねて知人の女子生徒の様子を探りに来ただけだ!」
「ストーカーだこいつ!」
「ちょっとこっちに来い!」
昼山は警備員によってどこかへ連行されたのであった。ポンコツキャラ確定だな。
「ふああっ……」
一人部室に残された俺は、大きな欠伸をした。なんか急に眠くなってきた。ここ最近ジムや自主練にかなり力を入れてたから、その疲労が今になって押し寄せてきたのかもしれない。
春香の部活が終わるまでまだ少し時間があるし、一眠りするか。俺は机に突っ伏すと、程なくして深い眠りに落ちていった。
☆
「やー、今日も疲れたー」
「アイドル部に入ってからビックリするくらい痩せたわ」
「私も! めっちゃダイエットになるよね!」
アイドル部の活動が終わり、春香達アイドル部員は部室で雑談をしながら着替えている最中であった。
「でも春香って本当に凄いよね。どんな振り付けも一発で覚えちゃうんだもん」
「しかも踊りも完璧って、どんだけ超人なのよ」
「おまけに超可愛いし。そりゃ人気出るって」
口々に春香を持ち上げる部員達。いつもの春香なら「ま、才能ってやつよ!」などと言って胸を張るところだが……。
「ちょっと、やめてよもう!」
いかにも照れ臭そうに、春香はそう返した。ここで普段の自分を出せば、皆から不興を買うのは確実だろう。春香は高校生として過ごす内に、実年齢六歳とは思えないほど空気の読み方を身に付けていた。
(く~~!! アタシの才能を自慢したい!! そしてもっと褒められたい!!)
必死に衝動を抑える春香。こういうところはまだまだ六歳である。
「それじゃ、お先に失礼しまーす!」
きっと秋人が待ってるだろうと、春香は手早く着替えを済ませ、部室を出ようとドアを開けた。
「……あら?」
その時、ピンク色の封筒が床に落ちた。どうやらドアに挟まっていたようだ。
「どしたの春香? もしかしてラブレター!?」
「うっそー! また春香への告白!? これで何人目よ!?」
「ヒューヒュー! さっすがはるにゃん!」
部員達が一斉に駆け寄ってくる。いつもの春香なら「ふふん、羨ましいでしょ!」などと言って煽るところだが……。
「あーもう! みんな騒ぎすぎよ!」
またしても自慢したい衝動を抑えながら、春香はそう返した。猫を被るのも一苦労である。
高校に入るまではラブレターなんて絶滅危惧種だと思っていたが、今の時代にも手書きの文字で想いを伝えたい人というのは相応にいるようだ。実際これまでも数多くのラブレターが春香のもとに寄せられていた。
しかしまだこれがラブレターだと決まったわけではない。はるにゃんファンからのファンレターかもしれないし、むしろその可能性の方が高いだろう。ピンク色の封筒ということからも男子の線は薄いので、おそらく女子からのファンレターだと思われる。一方で部員達はすっかりラブレターという前提で盛り上がっていた。
「そういやこの間、三年の日沢先輩にも告られてたよね?」
「マジ!? あのサッカー部キャプテンかつ超絶イケメンの!?」
「なんて返事したの!?」
「え? ごめんなさいしたけど」
キョトンとした顔で春香は言った。これまでの告白も、春香は軒並み断っていた。
「えー、もったいな! 私なら即オッケーなのに!」
「ま、しょうがないよね。春香にはもう彼氏がいるんだし」
「あーいたねー。えっと確か、つ、つき……」
「突き指?」
「そーそれ!」
「それじゃない! 月坂よ、月坂秋人! 何その痛そうな苗字! そもそも秋人は彼氏じゃないし!」
思わずツッコミを畳み掛ける春香であった。
「またまたー。彼氏でもない男子を下の名前で呼ばないでしょ普通」
「あといつも一緒にいるし」
「本当にそんなんじゃないから! 秋人は、その、ただの幼馴染みよ!」
確かそういう設定だったはず、と春香は思い出しながら言った。
「へー、彼氏じゃないんだ。ま、春香ならもっと上を狙えそうだもんね」
「月坂君、だっけ? なんかパッとしないっていうか」
「そうそう。春香の彼氏ってなるとちょっと物足りないよね」
「同感。春香もそう思うでしょ?」
「……そうね」
彼氏ではないとはいえ、春香にとって秋人は大切な仲間。何も知らない者達に秋人を貶されるのは不愉快だったが、それを口に出すと空気が悪くなるのは避けられないので、春香は堪えた。
「それじゃ春香は今フリーなの?」
「ええ」
「だったらなんで日沢先輩お断りしちゃったの!?」
「んー。だってアタシ、恋愛とかよく分かんないし」
これは春香の本心である。実年齢六歳の春香にとって、高校生の恋愛など遠い世界の話であった。
「だいたいアタシ達はアイドル部でしょ! 彼氏なんて作ったらファンをガッカリさせちゃうわ! アイドル活動はすっごく楽しいし、それだけで十分よ!」
「うわっ、眩しい……!!」
「なんという純粋さ……!!」
春香の輝かしい笑顔を前に、ついつい後退る部員達であった。
「それで話を戻すけど、そのラブレターは誰からなの?」
「あ、そうだった。すっかり忘れてたわ」
春香が封を切ると、一枚の手紙が入っていた。興味津々な顔で覗き込む部員達に囲まれながら、春香はその手紙を広げた。
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