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二歩

「仮に俺が横槍を入れなかったとしても、お前に向井を倒す算段はあったのか? お前が仲間を助けられたという保証はない」

「助けられなかったという保証もないだろ!!」



 睨み合う俺と昼山。やがて俺は昼山から手を放し、椅子に座り直した。



「……もういい」



 たらればの話をしたところで不毛なだけだ。俺は感情を鎮め、対局を再開した。



「お前の仲間のことは残念に思う。正直、お前達がニーベルングに勝つとは思っていなかったからな。結果論で言うなら、確かにお前達に協力するべきだった。俺がお前の仲間の死を後押ししてしまったのは紛れもない事実。そのことについては謝ろう」



 深く頭を下げる昼山。素直に謝られると、それはそれで反応に困る。



「しかし一つだけ疑問が残っている。一体誰が向井を倒したのか、だ。お前の別の仲間か? それとも第三勢力の人間か?」

「……さあな」



 向井を殺したのは間違いなく千夏だ。だがそれを話すと、千夏が転生杯の参加者として蘇った事実までも知られることになる。それはなんとなく憚られた。



「本当に知らないのか?」

「知らないな」



 どこか探るような目つきで俺を見据えた後、昼山は小さく息をついた。



「まあ、深くは聞かないでおこう。だがあの向井を倒したとなると、相当な実力者であることは間違いないだろうな。一度拳を交えてみたいものだ」



 そう言いながら、昼山は手駒の歩を盤面に置いた。



「それ、二歩だぞ」

「……何?」



 二歩とは縦列に歩を二枚並べる行為であり、将棋の禁じ手の一つ。初心者本にも書いてあったから間違いない。



「要はお前の反則負けだ」

「……なるほど。ローカルルールというやつか」

「将棋にローカルとかないと思うぞ……」



 斯くして二局目も俺が勝利を収めたのであった。全然勝った気しないけど。



「それで、お前はここに何しに来たんだ。まさか本当に将棋を指す為だけに来たわけじゃないだろ」

「察しが良い。実はこの高校に、俺の仲間の一人が在籍していてな」

「お前の仲間? まさかそれって――」

「あっ、昼山発見にゃ!」



 その時、部室の前を通りかかった一人の女子生徒が窓から声を掛けてきた。朝野だ。



「噂をすれば、か……」

「てか秋人くんもいるし! えっ、なんで二人が一緒にいるの!? いつの間に仲良くなったの!?」

「ただの成り行きだ」



 そうだ、思い出した。『ムーンライト』は朝野が所属してると言っていたチームの名前だ。俺との闘いの最中、昼山は朝野と何らかの関わりがあることを匂わせていたが、まさかこの二人が同じチームに所属する仲間だったとは……!!



「昼山ってば、また私のことが心配で来たんでしょ? 案外優しいとこあるよねー」

「お前に限って心配など無用だろう。ただリーダーの頼みで、時々学校の様子を見に来ているだけだ。この学校に複数の参加者が存在している以上、いつ何が起きてもおかしくはないからな」

「あはは、分かってる分かってる。リーダーって意外と心配性だにゃー」



 実際に氷の牢獄という大規模な事件も起きたので、そのリーダーとやらが警戒するのは無理もないだろう。俺がこの高校に通っているのも、春香のことが心配だからという理由が大きいしな。


 しかし朝野、昼山という強力な参加者を擁するチームのリーダーとは、一体何者なのだろうか。一度お目に掛かりたいものだ。



「あっ。ごめん秋人くん、まだ言ってなかったよね。驚くかもしんないけど、実は私と昼山は――」

「同じチームの仲間なんだろ?」

「あちゃ、もう知ってる感じ?」



 前々からヒントはあったが、それ抜きでもさっきの二人のやりとりを見ていたら誰だって勘付くだろう。



「ふっふっふ、バレてしまっては仕方ない。そう、私と昼山はチーム『ムーンライト』のメンバーなんだにゃ! イエーイ!」



 朝野がハイタッチをしようと右手を突き出すが、昼山は無反応。二人の相性はあまり良くなさそうだ。



「あっ! そうだ私、春香ちゃんを探してるとこだったんだにゃ! 秋人くん、春香ちゃんがどこにいるか知らない?」

「春香? 春香なら部活の真っ最中のはずだぞ」

「あー、そういえば春香ちゃんってアイドル部だったね」

「春香に何か用なのか?」



 俺が尋ねると、朝野は何やら意味深な笑みを浮かべた。



「んー、まあ、ちょっとね! ありがと秋人くん!」



 そう言って朝野は走り去っていった。なんだか気になるが、朝野のことだから大した用ではないだろう。



「さて。朝野の無事も確認できたことだし、俺はそろそろお暇するとしよう。将棋のリベンジはいつか必ず果たす」

「お好きにどうぞ。それより気を付けろよ、お前は立派な部外者なんだし、警備員とかに見つかったら面倒なことになるぞ」

「ふっ、杞憂だな。そんなヘマをする俺では――」



 その時、廊下の方から騒がしい足音が聞こえてきたかと思えば、二人の警備員が部室に駆け込んできた。



「いたぞ不審者! やっぱりここだったか!」

「また勝手に侵入したな!? いい加減にしろ!」



 警備員に取り押さえられる昼山。がっつり見つかってんじゃねーか。しかも〝また〟ってことは一度や二度ではなさそうだ。




次回で200話達成です!

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