はるにゃんとの出会い
「とにかく僕は君を排除しなければならない!! 二つの意味でな!!」
「……二つの意味?」
「そうだ。一つ目は、はるにゃんファンクラブのリーダーとして。そしてもう一つは……これだ!」
「……は!?」
佐竹が法被の袖を捲った瞬間、俺は衝撃を受けた。なんと佐竹の右腕に〝81〟の痣が刻まれていたのである。こいつ、転生杯の参加者だったのか!!
「その驚いた顔を見るに、やはり君も転生杯の参加者で間違いなさそうだね」
俺の右腕のリストバンドに目を向けながら佐竹が言った。
「それじゃ、三日前のライブの時に俺の痣が反応したのは……!!」
「ま、そういうことだ」
あの時姿を見せなかった参加者の正体が、まさかこいつだったとは。佐竹は空を見上げながら、静かに口を開いた。
「今でも思い出すよ。僕がはるにゃんと出会った日のことを……」
流れぶった切って回想に入るのやめてくれる?
「不慮の事故で生涯を終えた僕は、81番目の参加者として仮転生した。だが不幸にもいきなり他の参加者に襲われてしまってね。名前は覚えてないけど、その男は【怪力】というスキルを使っていた」
怪力という単語を聞いて一瞬ギョッとしたが、その時まだ俺は仮転生前だし、そもそもこいつと出会ったのは今日が初めてだ。つまりその男は【怪力】の元の所持者である鮫島だろう。
「当然ながら、仮転生の直後でスキルの使い方もままならなかった僕では全く勝負にならなかった。殺されかけたけど、命からがら逃げることができたよ」
俺の時も似たような状況だったな。奇跡的に【略奪】の発動に成功したからなんとか勝てたが、その奇跡がなかったら俺は鮫島に殺されていた。
「それ以来、情けないことに僕は外に出るのが怖くなってしまってね。しばらくネットカフェに引き籠もって時間を潰す日々が続いた。そんなある日、とんでもない女子高生アイドルがいるという噂をネット掲示板で目にした僕は、アップされていたライブの動画を興味本位で見てみたんだ。それこそが、僕とはるにゃんの出会いだった――」
出会ったって動画で見ただけかよ。
「生前はアイドルなんて全く興味なかったけど、その動画のはるにゃんに僕は一瞬で心を奪われてしまった。この子はいずれアイドル界の頂点に立つと確信した僕は、すぐにはるにゃんのファンクラブを創設した。そして僕の見込んだ通り、はるにゃんはこの短期間で急激に人気を伸ばしていった。ファンクラブ会員が一万人を突破する日もそう遠くはないだろう」
俺もはるにゃんのライブに心を奪われた一人なので、正直共感できる部分は多い。すると佐竹は悔しげに拳を握りしめた。
「だが僕はファンクラブの創設者でありながら、一度もはるにゃんのライブを生で見たことがなかった。また転生杯の参加者と遭遇するかもしれない。今度こそ殺されるかもしれない。そう思うと怖ろしくて外に出られなかった。だけどそんな時、はるにゃんの声が聞こえてきたんだ。『大丈夫、君は強いよ。もっと自分に自信を持って』って」
幻聴じゃねーか。あと春香はそんな喋り方しないぞ。
「そうだ。もうあの時の、逃げることしかできなかった僕とは違う。スキルも使いこなせるようになったし、今なら誰にも負けはしない。僕は勇気を出してはるにゃんのライブを観に行くことにしたんだ。そしてついに、はるにゃんのいるこの陸奥高校に来た時――」
「痣が反応した、ってわけか」
「ああそうさ! またしても転生杯の参加者だ! そのせいでライブを楽しむどころじゃなくなってしまった! あんなに楽しみにしてたのに、どうしてくれるんだよ!!」
よっぽど悔しかったのか、泣き叫ぶ佐竹。同情はするけど俺にそんなこと言われても困る。それに水を差されたのは俺も同じだ。
「痣とか転生杯とか、何の話をしてるんだ……?」
「何のことかサッパリだ……」
野郎共の頭にクエスチョンマークが浮かんでいる。そういやさっきから一般人の前で堂々と転生杯のことを話しちゃってるな。まあ例によって支配人が記憶を改竄してくれるだろうから問題ないか。
「馬鹿正直にアピールしてくれたおかげで、君が参加者だということはすぐに分かった。でも驚いたよ、まさか前々からはるにゃんに悪影響を及ぼす危険人物として警戒していた君が参加者だったなんてね……!!」
更に憎しみを込めた目で佐竹が俺を睨みつける。
「だが同時にこれは好都合だと思った。転生杯という大義名分があれば、正々堂々と君を排除できるからね! はるにゃんに付きまとう害虫である君を!」
「だから害虫やめろ。そんなに俺のことを排除したかったのなら、どうしてすぐに俺の前に姿を現さなかった?」
「普通に考えたら分かるだろう? もしあの場で戦闘になっていたらライブは確実に中止になっていた。そんなの僕は望んでいないし、はるにゃんも悲しむに決まっている。それはファンクラブ四箇条の第四条『はるにゃんを困らせる行為は絶対にしないこと』にも反している」
「……本当は闘うのが怖かっただけじゃないのか?」
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