鉄檻の罠
「……ん?」
ふと地面に落ちている一枚の写真を見つけ、拾い上げる。それはライブ中のはるにゃんこと春香の写真だった。誰が撮ったのか知らないが、あまり褒められた行為ではないだろう。そう思いながら俺は写真をじっと眺める。
こうして見ると、やっぱりはるにゃんは輝いてるな。普段の春香より更に魅力が増している。気付けば俺はその写真をポケットに入れていた。数メートル先にも同じくはるにゃんの写真が落ちていた。更に数メートル先にもはるにゃんの写真。
落としたとかじゃないな、これは。明らかに何者かが故意にやっている。春香の仲間として必ず犯人をとっ捕まえてやる。無論、転生杯参加者の警戒が最優先ではあるが、見過ごすわけにもいかないだろう。
俺はそれらの写真を拾ってはポケットに入れていく。言っておくがこれは犯人の証拠を集めているだけであって、決して自分の物にしようなどとは思っていない。しかしどんだけ落ちてるんだ、もう10枚目だぞ。犯人はどういう目的で――
「今だ、落とせ!!」
その時、どこからか声がした。次の瞬間、俺は頭上から落下してきた鉄の檻に閉じ込められてしまった。
「な、何だこれ!?」
まさか罠……!? 転生杯の参加者か!?
「ハーッハッハッハ!! かかったな!!」
けたたましい声と共に、校舎の陰から派手な法被を着た数十人の野郎共が姿を現した。法被には「はるにゃんLOVE」の文字がデカデカと書いてある。転生杯とは関係なさそうだな……。
その集団からおかっぱ頭の男が前に出てきた。こいつがリーダーか。法被の下に着ているのが陸奥高校の制服ではないので、どうやらここの生徒ではないようだ。
「初めまして、月坂秋人くん。僕が誰かって? そう! 僕こそは5000人以上のはるにゃんファンを率いる、はるにゃんファンクラブのリーダー! 佐竹守人だ!!」
変なポーズを決めながら自己紹介してきた。これまた面倒臭そうな奴が出てきたな。はるにゃんファンクラブって昨日春香が言ってた連中か。いつの間にか5000人突破してるし。
「ふふふ。どうだい、囚われの身になった気分は。その鉄檻はファンクラブの皆と協力して予め仕掛けておいたものさ。いやあ、準備には苦労したよ」
「おかげで土日が潰れたぞ!」
「貴重な休みを返せ!」
野郎共から野次が飛んでくる。いや知らんし。
「君を鉄檻の下に誘き出す為にはるにゃんの写真を使ったけど、まさかこんな簡単にいくとはね。どうやら君も相当なはるにゃんファンのようだ」
「……はるにゃんの写真は俺を誘き出す為の餌だったわけか。そんな単純な罠、今時猿でも引っ掛からないぞ」
「引っ掛かった君が言っても説得力なくない?」
くっ、我ながら情けない……。まあいい、こんな檻で俺の自由を奪えると思ったら大間違いだ。それにもう、檻の中に入れられる屈辱は生前に嫌というほど味わった。
「なんでこんな真似をしたのか知らないが、お前等と遊んでる暇はないんだ」
俺は【怪力】を発動し、鉄檻を強引にこじ開けた。
「鉄の檻を力ずくで……!?」
「化け物かよ……!?」
野郎共が騒然とする中、俺は鉄檻の外に出た。
「同じはるにゃんファンの誼で今回は見逃してやるが、もう二度とこんなことするんじゃないぞ」
そう言って俺は歩き出す。まったく、とんだ時間の無駄だった。
「どうしますかリーダー!?」
「あいつ行ってしまいますよ!?」
「……大丈夫、奥の手ならある。待ちたまえ月坂秋人くん。ここを去るのは〝これ〟を見た後でも遅くはないんじゃないかな?」
佐竹が俺の背中に声を投げてきた。しつこいなと思いながらも振り返ってみると――
「なっ!?」
俺は大きく目を見開いた。佐竹が見せてきたのはなんと、はるにゃんの姿を模したフィギュアだったのだ。
「僕の知り合いにプロのフィギュア造型師がいてね。その人にお願いして特別に造ってもらったんだ」
「はるにゃんのフィギュア……!?」
「俺も欲しい……!!」
野郎共もサワつき始める。表情、色合い、ボディライン……。どこにも非の打ち所がなく、まるで生きているかのような躍動感がある。生前にアイドルグッズを集めまくった俺には分かる、あれは間違いなくプロの技だ。しかもかなり凄腕の……!!
「僕の話を最後まで聞いてくれたら、このフィギュアを譲ってあげなくもない」
「……はっ、俺も安く見られたものだな。そんなフィギュアで俺が釣れると本気で思っているのか?」
そう言いながら、俺は鉄檻の中に戻った。
「こいつ自分から檻に入ったぞ!」
「ちょろすぎるだろ!」
何とでも言え。欲しいものは欲しいんだ。
「それで、はるにゃんファンクラブが俺に何の用だ? 閉じ込められるようなことをした覚えはないんだが」
「惚けるなゴミ!!」
「はるにゃんに付きまとう害虫め!!」
「今すぐ死ね!!」
また野次が飛んできた。酷い言われ様だなおい。
「はるにゃんファンクラブ四箇条ー!!」
佐竹が叫んだかと思えば、野郎共が「はるにゃんLOVE」と書かれたハチマキを頭に結んだ。どうしたんだ急に。
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