三度目の邂逅
それから学校の準備を済ませ、俺は春香の待つ玄関に向かう。
「遅いわよ秋人! 早くしないと遅刻に――って秋人!? 何その格好!!」
「ん? 何か変か?」
「靴下が左右違うし、浮き輪を付けてるし、ランドセル背負ってるし、変なところしか見当たらないんだけど! てかそのランドセルどこから持ってきたの!?」
「……あ、本当だ」
春香に言われてようやく気付いた。何故俺はこんな変人のような格好を……。
「朝ご飯の時からおかしかったけど、これは相当重傷ね……。やっぱり今日は休んだ方がいいんじゃない? そんなんじゃ通学途中も電信柱に頭をぶつけたり道路の溝に足を突っ込んだりするのが目に見えてるわ」
「……そうさせてもらう。何かあったらすぐに連絡してくれ」
春香を見送った後、俺は自分の部屋に戻り、ベッドに寝転がった。どうやら自分が思っている以上に千夏を失った精神的ショックは大きいようだ。いくら身体が快復しても、心の傷まで癒えることはない……。
「……秋人」
ノック音の後、真冬が部屋に入ってきた。俺のことを心配して様子を見に来てくれたのだろう。
「秋人、大丈夫?」
「……ああ」
「何かしてほしいことがあったら、遠慮なく言って」
真冬は優しいな。自分だってまだ完全に立ち直ってないだろうに。しかし真冬には申し訳ないが、今は一人になりたい。
「ありがとう真冬。でも特にない、かな」
「……ん」
俺の気持ちを察してくれたのか、真冬は静かに退室した。目を閉じると、千夏の笑った顔や悲しい顔、色んな顔が浮かんでくる。今頃どこで何をしてるのだろうか……。
☆
気が付くと、俺は〝ある空間〟の中に立っていた。ここは……あの世とこの世の狭間だな。さすがに三度目ともなるとすぐに分かった。どうやら現実の俺はいつの間にか寝てしまったらしい。そしておそらく……。
「またお会いできて嬉しいです。月坂秋人さん」
振り返ると、そこには仮面を付けた一人の女の子が立っていた。やはりいたか、転生杯の支配人。
「……俺はそんなに嬉しくないけどな」
「おや、それは残念です」
また俺が寝ている間に、俺の意識をここに呼び寄せたのだろう。大地といい支配人といい、何故そこまで俺の安眠を妨害したがるのやら。
「で、俺に何の用だ。また俺とお喋りがしたいから、とか言わないよな?」
「大正解です」
拍手をする支配人。そんな気まぐれに付き合わされる身にもなってほしいものだ。しかし良い機会だ、こいつには色々と聞きたいことがある。
一つ目は、大地という男について。あいつが俺の中に存在し始めたのは明らかに仮転生してからなので、それに支配人が関わっている可能性は十分にある。二つ目は、仮転生体の使用期限とスキルの関係について。大地の言っていたことが本当かどうか確かめる必要がある。そして三つ目、これが一番重要――
「貴方もだいぶ闘いの空気に馴染んできたようですね。貴方の活躍もあって、この第八次転生杯も残る参加者は49人となりました」
「49人……!」
つまり現時点で半数以上が脱落したわけか。確か真冬の調べでは、俺が参加した時点での脱落者は推定20人から30人だったな。第八次転生杯が五年前から始まったことを考えると、この短期間だけで結構な減り具合だ。まあ参加者が増えていくにつれて脱落者も増えていくのは当然と言えば当然か。
俺が知っている限りの脱落者は、鮫島・愛城・落合・雪風兄弟・炎丸・向井・兵藤・広瀬の計9人。それ以外の脱落者は俺達の与り知らぬ闘いで散っていったのだろう。
「そんな情報を俺に与えていいのか? 俺としてはありがたいけど、支配人の立場上あまり贔屓するのは良くないと思うけどな」
「構いませんよ。どうせ目覚めた時にはほとんど忘れてるでしょうから」
確かに前回も何を話したか、ぼんやりとしか記憶がない。目覚めた時の俺が覚えていることを祈っておこう。
「貴方もご存じでしょうが、先日ついに100人目の参加者を送り出しました。よってこれ以上、新たな参加者が出現することはありません。あとは減っていくのみです」
「100人目……!!」
無論、俺はそれが誰か知っている。やがて沸々と、支配人に対して得も言えぬ怒りが込み上げてきた。
「全部、アンタの策略か……?」
「はい?」
「千夏は一般人であるにもかかわらず、アンタの記憶改竄の影響を受けなかった。いや、正確には千夏の記憶だけ敢えて改竄しなかった。そうやって千夏が転生杯に巻き込まれるように誘導し、死に追いやるために。そうだろ?」
先程言いかけた、支配人に聞きたいことの三つ目がこれだ。
「前にも話したでしょう。せっかくの100人目なので、少しばかり趣向を懲らそうと。その為の〝布石〟を打ったというだけです」
「趣向……そんなことの為に千夏は……!!」
「しかしこれは彼女に限った話ではありません。最初に言いましたが、参加者の選出基準は憎しみ・怒り・悲しみといった負の感情を強く抱いて死んでいった者。ですが必要な要素はそれだけではないんです」
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