衝撃の再会
「一体誰が向井を……。春香? それとも真冬か?」
「私は何も知らない」
「アタシもよ! 秋人がやったんじゃないの!?」
「いや、俺は昼山と闘ってたし……」
となると考えられるのは、他の転生杯参加者か? どこかでニーベルングの悪行を知り、それを阻止する為に突如として現れ向井を倒した、と。
もしそれが本当なら、千夏はその人物に助けられて先にビルから脱出したとは考えられないだろうか。あくまで千夏は一般人なので、真っ当な心の持ち主なら千夏を狙ったりはしないはず。あまりにも都合が良すぎる憶測だが、可能性はゼロでは――
「「「!!」」」
その時、俺達の身に予期せぬことが起きた。右腕の痣が反応したのである。近くに転生杯の参加者がいる。場所はビル付近だと俺の直感が告げていた。
「こんな時に……!! ってどこ行くのよ秋人!? そっちは危ないわよ!!」
「もしかしたら千夏がいるかもしれない!!」
「えっ、千夏ちゃんが!?」
俺の憶測が全て正しければ、千夏はその参加者と一緒にいるかもしれない。俺は一縷の望みに賭け、ビルの方へ駆け出した。
☆
崩れゆくビルの下に、一人の人物が立っていた。100番目の転生杯の参加者として蘇り、向井をあの世へと葬った、千夏だ。
千夏の足下には、生前の自分の死体が横たわっていた。千夏はその胸ポケットに手を入れ、ある物を取り出す。かつて秋人から貰った、イルカのキーホルダーである。千夏はしばらくの間、それを静かに見つめていた。
「!」
その時、千夏の痣が赤く光り出した。かなり反応が強い。おそらく複数の参加者に同時に反応しているのだろう。千夏はキーホルダーを自分の胸ポケットに入れる。
「千夏!!」
間もなくそこに、三人の人物が駆けつけてきた。それは千夏のかけがえのない仲間――春香、真冬、そして秋人であった。
☆
痣の反応を感知した俺は、今にも意識が飛びそうになりながらも必死にビルの方へ走っていた。後から春香と真冬も追ってくる。
「あれは……!!」
上から大量の瓦礫が降りしきる中、俺達は一つの人影を発見し、足を止めた。あの後ろ姿は……間違いない!
「千夏!!」
俺が叫ぶと、その人物がこちらを振り向いた。綺麗なショートボブの髪に、雪のように白い肌。幻覚などではない。それは紛れもなく、千夏本人であった。
「千夏……!?」
「本当に、千夏ちゃんなの……!?」
真冬と春香が唖然としている。無理もないだろう、誰もが千夏の生存を諦めかけていたのだから。俺も始めは驚いたが、すぐに喜びの感情が込み上げてきた。
「は、はは! ほら見ろ二人とも、やっぱり千夏だった! 俺の勘も捨てたもんじゃないな!」
一体どうやってビルから脱出したのか、俺達の痣は誰に反応していたのか、そんな疑問はこの際どうでもいい。千夏が生きていてくれた、その事実だけで十分だ。
「心配したんたぞ千夏! さあ、俺達と一緒に帰――」
「待って秋人」
千夏のもとに駆け寄ろうとした俺の腕を、真冬が力強く掴んだ。
「なんだよ真冬、千夏が生きてたんだぞ!? もっと喜べよ!」
「……様子がおかしい」
「えっ……?」
俺は改めて千夏の方を見る。確かに外見は千夏そのものだが、雰囲気はまるで別人のようだ。現に俺達と念願の再会を果たしたというのに、表情に全く変化がない。ただ虚ろな目で俺達を見つめているだけだった。
「二人とも、あれ見て!!」
春香が千夏の足下を指差す。千夏ばかりに目が行って気付かなかったが、そこには一人の人間が横たわっていた。この距離ではハッキリと見えないが、死んでいることだけは分かった。
「誰だあれは……!?」
「……多分、千夏」
「は!? なに言ってんだ真冬、千夏はあそこに――」
その時、信じられないものが目に留まり、俺は絶句した。千夏の右腕に〝100〟の痣が刻まれていたのだ。転生杯の参加者の証である痣が。そして全てが繋がった。一体誰が向井を殺したのか。俺達の痣は誰に反応していたのか。
一度、千夏は何者かの手によって殺された。おそらくは向井だ。その直後に千夏は最後の転生杯参加者として蘇り、今度は千夏が向井を殺した……。
だが、これはあくまで推測にすぎない。あんなに優しかった千夏が人を殺めたなど、俄には信じられない。たとえ自分を殺した相手だとしてもだ。だから本人に真偽を確かめる必要がある。
「千夏が、向井を殺したのか……!?」
「…………」
「なんで黙ってるんだ、千夏!!」
「…………」
千夏は無言のまま、俺達に背を向けた。どうして何も答えてくれない……!?
「もしかして千夏ちゃん、アタシ達のこと忘れちゃったんじゃないの……?」
「何……!?」
そうか、千夏も10の倍数の痣を持つマルチプルの一人。マルチプルには強力なスキルが与えられる代わりに何らかの弊害が生じる。そのせいで千夏は生前の記憶を失ってしまったというのか。
「千夏、俺だ!! 秋人だ!! 分からないのか!?」
「…………」
千夏は沈黙を続ける。本当に俺達のことを忘れてしまったのか……!?
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