ビルからの脱出
「うおっ!?」
天井が崩れ、その破片が大雨のように降り注いでくる。床も既に崩れ始めており、間もなくこのビルは崩壊すると俺は確信した。モタモタしてたら瓦礫の藻屑と化してしまう。
「戻れ、ワン!」
昼山のスキルによって召喚されていた守護霊のクマが、昼山の合図で姿を消した。それから昼山はもう一体の守護霊であるワシの上に飛び乗った。
「乗れ、月坂秋人! 脱出するぞ!」
「……は!?」
俺は自分の耳を疑った。俺達は敵同士なのに、何故俺を助けようとするのか。決着をつけないまま死んでもらっては困るとかそういうアレか?
「早くしろ! 死にたいのか!」
なんにせよ、こいつの助けに甘んじるわけにはいかない。まだやるべきことが残っているからだ。
「一人で脱出してろ!! 俺は千夏を捜しに行く!!」
「なっ……おい!?」
俺はトレーニングルームを飛び出し、階段の方へ突っ走る。20階で向井と出くわした時、向井は千夏を追って階段を上っている途中だった。つまり千夏はそれより上の階にいることになる。
「千夏!! 聞こえたら返事をしろ!! 千夏!!」
俺は階段を駆け上がり、各フロアで千夏の名を大声で叫ぶ。だが一向に返事はない。一体どこにいるんだ千夏。まさかもう……。
俺は自分の頬を思いっきり叩いた。馬鹿なことを考えるな。千夏は必ず生きている。俺が諦めてどうする……!!
上の階へ進むほど崩落が酷くなり、あちこちで炎が上がっている。あまり時間は残されていない。一刻も早く千夏を見つけて脱出しなければ。
しかし29階まで来た時、とうとう足場が崩壊してしまった。俺は為す術もなく瓦礫と共に落下していく。やばっ、これ死んだ――
「!?」
落下の途中、俺は何者かに受け止められた。それはワシに乗った昼山だった。
「まったく、世話が焼ける……」
「待ってくれ、まだ千夏が!!」
「もう助からん。諦めろ」
「千夏!! 千夏ー!!」
俺は崩れゆくビルに向かって、ただ叫ぶことしかできなかった。
「った!!」
ワシがビルから少し離れた道路に着地すると、昼山が俺の腕を掴んでぶん投げ、俺は派手に頭を地面にぶつけた。程なく起き上がり、昼山に目を向ける。
「お前、どうして俺を助けた!?」
「……また会おう。月坂秋人」
それだけ言って、昼山は夜空へ飛び立っていった。結局何だったんだアイツは。そんなことより春香と真冬が心配だ。二人とも脱出できたのだろうか。
「秋人ー!!」
その時、こちらに駆けつけてくる春香の姿が見えた。
「よかった、無事だったんだな春香!」
「それはこっちの台詞よ! 酷い怪我だけど平気なの!? フラフラじゃない!」
「大丈夫だ。問題ない」
正直大丈夫どころか今にも気を失いそうだが、そうも言ってられない。
「なんか人を乗せたでっかい鳥が飛んでくのが見えたから追ってきてみれば! まあ秋人のことだからそう簡単に死なないとは思ってたけど! てか何だったのあの鳥!?」
「……その話は後だ。それより真冬は!?」
「真冬とはさっき合流したわ! 今は子供達を安全な場所に避難させてるとこ!」
ひとまず真冬が無事だと分かり、俺は安堵した。どうやら子供達も助け出してくれたようだ。だが……。
「秋人!!」
「ぐはっ!?」
背後から真冬の声がしたかと思えば、勢いよく俺に抱きついてきた。
「秋人……!! よかった、生きてた……!!」
「ま、真冬。気持ちは嬉しいけど怪我してるから、あまり強く抱き締められると……」
「あっ。ごめん、つい……」
真冬は顔を赤くしながら俺から離れた。よく見ると真冬も春香も傷を負っている。俺ほど重傷ではないが、決して軽くもない。おそらく二人も向井の側近と交戦したものと思われる。
「秋人、千夏ちゃんは!? 一緒じゃなかったの!?」
「……ああ」
俺は力なく返事をした。俺に聞いてきたということは、二人も千夏の行方を知らないということだ。
「それじゃ、千夏ちゃんは……」
俺達は無言で俯く。千夏はきっと生きている――そんな何の根拠もない言葉を口にできる雰囲気ではなかった。やがて真冬が何かを思い出したように顔を上げた。
「二人とも、こっちに来て!」
「えっ、どこ行くんだ真冬!?」
俺と春香は真冬の後に付いていく。真冬いわく、子供達を避難させている途中で驚くべきものを発見したそうだ。
「こいつは……!!」
俺達は足を止める。そこには一人の人間の死体があった。あまりにも無惨な姿に思わず吐き気を催す。ほとんど人体の原型を留めていないが、顔はかろうじて判別できた。
「まさか、向井か……!?」
間違いない、向井だ。ただの落下死にしてはビルから距離があったり熱傷の跡が酷かったりと、不自然な点が多い。何者かによって殺害されたと考えるのが妥当だ。おそらく脱出直前に昼山が見た落下物は向井だったのだろう。だからあんなに驚いていたのか。
一応スキルを奪えないか試してみようと、俺は向井の腕を掴んで【略奪】を発動する。が、やはり駄目だった。これも【無効】の力か。
間もなく向井の身体は塵となり、完全に消滅した。図らずも一番倒したかった奴が転生杯から脱落したわけだが、手放しで喜べる状況ではなかった。
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