4つの闘い
向井に直撃することなく氷塊が弾かれた。向井の【無効】が発動したのである。千夏は大きく目を見開いた。
「そんな……!!」
「私も甘く見られたものだな。スキルを発現させた程度で、この私を倒せると思っていたのか? お前はただスタートラインに立ったにすぎない」
秋人のスキルを得たとはいえ、向井との力の差は歴然。千夏の劣勢に変わりはない。
「さあ、もっと私を楽しませてみろ!! ハハハハハ!!」
千夏と向井。秋人と昼山。春香と兵藤。真冬と広瀬。時を同じくして四つの闘いが勃発した。果たして最後まで生き残るのは――
☆
――ニーベルングビル二十一階・トレーニングルーム――
『ガウアアッ!!』
クマの一撃が炸裂し、俺は後方に吹き飛ばされた。なんてパワーだ、【怪力】で威力を殺さなければ身体がどうなっていたか分からないぞ。
しかも相手はクマだけではない。床を転がった俺に、すかさず昼山が拳を畳み掛けてくる。こいつもこいつで身体能力が高く、クマほどのパワーはないがスピードがある。
悔しいが、素の身体能力は昼山の方が上。接近戦は不利だ。ならばと俺は昼山から距離を取りつつ【氷結】を発動し、巨大な氷塊を生成して昼山に向けて放つ。だが素早く間に割り込んできたクマによって、その氷塊は粉々に破壊されてしまった。
「そいつ、ただのクマじゃないな……!?」
実際にクマと闘ったことはないが、それくらいは分かる。身体がデカいというのもあるが、こいつは一般的なクマとは比較にならないほど強い。
「ああ。俺の【守護霊】で呼び出した動物の強さは、俺の力量に比例する。つまり俺が強ければ強いけど、ワンも強くなるということだ」
「……なるほどな」
実質一対二。しかも絶妙な連携によって俺は苦戦を強いられていた。くそっ、こうしている間にも千夏が……!!
「本当は俺も、お前達の邪魔はしたくないんだがな。これは俺なりの優しさだ。悪く思うな」
「……どういう意味だ?」
「仲間を助け出そうとすれば、必ず向井が立ちはだかることになるだろう。だが奴のスキルは【無効】。奴にはあらゆる攻撃もスキルも通用しない」
それは俺も実際に目の当たりにした。しかしこいつ、総帥である向井のスキルを自分から明かすとは一体どういうつもりなのか。
「つまりお前に向井は倒せない。助けに行ったところで己の無力さを思い知るだけだ。だからそれを止めてやるのが、せめてもの俺の情けというわけだ」
はた迷惑な言い分に、思わず怒りが込み上げてきた。
「なら千夏を見捨てろってのか……!? ふざけるな!! 俺は必ずお前も向井も倒して、千夏を助ける!!」
「……そうか」
昼山が疾駆してくる。俺は咄嗟に【氷結】を発動して氷壁を生成――するのと同時に昼山が大きく跳躍し、氷壁を飛び越えてきた。読まれていたか……!!
そのまま昼山が空中から拳を放つ。俺は【怪力】を発動し、同じく拳で迎え撃つ。スキルで強化されている分パワーは俺の方が上のはずだが、昼山には落下の勢いが加わったことで、互いの拳は相殺された。
「がはっ!!」
この隙にクマに距離を詰められ、強烈な一撃を叩き込まれた。俺の身体は吹き飛んで壁に激突する。今度は防御する暇もなかった。何をやってるんだ俺は、さっきからやられっぱなしだぞ……!!
「ほう。ワンの一撃を食らって無事とは、意外と頑丈だな」
なんとか立ち上がった俺を見て、昼山が感心したように言った。無事なものか、今ので確実に骨を何本かやられた。あと一回でもまともに食らったらただでは済まないと、身体が警告を発している。
「だが、どうやら今のお前は戦闘に集中できていないようだ。仲間のことが心配なのは分かるが、それでは俺達は倒せない」
「……!!」
昼山の言う通りだ。俺は闘っている間も千夏のことばかり考えて、戦況をちゃんと見ていなかった。こいつらは強い。このままでは勝てない。
俺は自分の両頬を強く引っぱたき、深呼吸。そして昼山とクマを真っ直ぐに見据える。そんな俺を見て、昼山は小さく口角を上げた。
「良い眼になった。ようやく本当の闘いができそうだ」
「ああ。おかげで目が覚めた」
千夏のことは心配だが、こいつらを倒さない限り助けに行くこともできない。今は闘いに集中しよう。
☆
――ニーベルングビル十三階・図書室――
兵藤の【洗脳】によって操られた子供が、春香に向けて何発ものレーザーを放つ。それは本棚や机を容易に貫通するほどの威力なので、それらを遮蔽物として使うの無意味であり、かと言って全て回避するのは春香の身体能力的に不可能だ。
「〝逆行壁〟!!」
そこで春香はスキル【逆行】を発動し、目の前に透明な壁を作り出した。この壁を通過した物体・物質の時間を強制的に巻き戻すという、最近春香が習得した技だ。巻き戻される時間は10秒と短いが、それでも十分である。
よって子供が放ったレーザーも〝逆行壁〟を通過した瞬間に10秒巻き戻る。10秒前はそのレーザーが放出される前なので、レーザー自体が消失することになる。この手の攻撃に対しては無敵の壁である。
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