スキル連発
しかし知っての通り【略奪】には〝スキルを奪うという意志を持った状態で対象に接触すること〟という発動条件がある。一見簡単そうだが、実際はかなりの難易度である。
ほんの少しでも意志が途絶えたら発動しないので、様々な余念が入り乱れる戦闘中は特に難しい。鮫島戦で発動できたのは本当に奇跡だった。そして奇跡というのはそう何度も起きるものじゃない。
それに女の子は【火炎】も使えるので、不用意に近づけば焼き尽くされてしまう。【略奪】を使うとしたら戦闘が終わった後だ。
「よ……寄越せ……」
するとこれまでロクな言葉を発してこなかった女の子が、俺を睨みつけながら呻くように言った。
「血を……血を寄越せ……」
血……!? そういえば映像で見た男の子も、炎丸から血を採取していた。転生杯の参加者の血を集めているのか? 一体何の為に……。思考する余地もなく、女の子が右手を前に突き出す。あの構え、また炎が襲ってくる……!!
そうだ。俺の勘が正しければ、俺の攻撃は無力化できても女の子自身の攻撃は無力化できない。ならば女の子が炎を放った瞬間に【入替】を発動して俺と女の子の位置を入れ替えれば、女の子を炎が襲って自滅を狙えるのでは――
って何を考えてるんだ、相手はただの子供なんだぞ。そんなことをして女の子が焼け死んだらどうする。そもそも【入替】は基本的に自分以外の人間を対象にはできない。
「ガアアッ!!」
女の子が勢いよく炎を放つ。何かちょうどいいものは――あれだ!
俺は【入替】を発動、近くの民家のアンテナと俺の位置を入れ替えることで屋根上に瞬間移動し、炎を回避した。
あの子もそう簡単にここまでは上ってこられまい。今の内に打開策を――
「は!?」
俺は声を上げた。なんと女の子は野生動物のように塀や電信柱を次々と飛び移り、一瞬で俺のいる屋根上にまで到達したのである。これも何かのスキルか、それともただ身体能力が異常なのか――
「がはっ!!」
腹に女の子の蹴りが炸裂し、俺は屋根上から斜め下方向に吹き飛ばされた。俺は半ば反射的に【潜伏】を発動し、蹴り飛ばされた勢いのまま地中にダイブした。【潜伏】の発動が間に合わなかったら地面に激突してタダでは済まなかっただろう。
しかし呼吸が浅い状態で潜ったのですぐに息が続かなくなり、俺は数秒で地上に出た。蹴りの威力も半端じゃなかったから結構なダメージを負ってしまった。次また喰らったらヤバそうだ。
「っ!!」
間髪入れず、凄まじい炎が迫ってきた。俺は瞬時に【氷結】を発動して氷の壁で身を守る。今度は地上に出た瞬間を狙ってきたか……!!
ジワジワと炎の威力が上がっていく。【潜伏】は所持スキルの中でも特に体力を消耗するので乱発はできない。しかしこのままでは――
『秋人! 女の子の後ろに自転車がある!』
「自転車……!?」
炎の隙間から女の子の後方を注視すると、一台の自転車が路肩に放置されていた。
そうか、なるほど。真冬の意を汲み取った俺は【操縦】を発動。その自転車を操って女の子の方へ一直線に走らせる。
俺は同時に二つ以上のスキルを発動させることはできない。おそらくそれはあの子も同じだ。よって【火炎】発動中の今なら攻撃無力化のスキルは発動しない可能性が高い。
女の子は炎を放つことに集中していて、後方から迫り来る自転車に気付いていないようだ。このまま自転車を衝突させて無理矢理にでも動きを止める!
「なんっ……」
俺は目を見開いた。自転車は女の子に衝突する寸前に弾かれてしまったからだ。間違いない、攻撃無力化のスキルだ。俺と違って二つのスキルを同時に発動できるのか!? 反則にも程があるだろ!
「ガアアッ!!」
女の子が咆哮し、火力が更に上昇する。このまま炎で押し切る気か。氷の壁もそろそろ溶かされそうだ。ならば新たな氷の壁を生成して――
「いっ……!!」
その時、強烈な頭痛に襲われて【氷結】の発動を阻害された。くそっ、よりによってこんな時に!!
間もなく俺を守っていた氷の壁が完全に溶かされる。遮る物が何もなくなった凄まじい炎が、俺の身を焼き尽くした――かに思われた。
「……!?」
俺の身体は無事だった。女の子が炎の攻撃を中断したからだ。何故だ、今のはあの子にとって絶好のチャンスだったはずだ。
「アッ……ガアッ……!!」
女の子はとても苦しそうに悶えていた。言っておくが俺は何もしていない。一体あの子の身に何が……?
『きっと女の子の身体に限界が来たんだと思う。普通の子供にスキルの発動は負担が大きすぎる。その上あんな無理のある闘い方をしていたら、こうなるのは当然』
真冬が冷静な口調で分析する。そうだ、転生杯参加者の仮転生体は少々特殊だからある程度の負担は問題ないが、相手は普通の身体で、しかも子供だ。俺達と全く同じようにスキルを操れる方がおかしな話だ。
『これ以上はまともに闘えないはず。あとは持久戦に持ち込めば勝てる』
確かに真冬の言う通りにすれば、自ずと決着はつくだろう。だが……。
「血……血を……寄越せ……!!」
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