秋人vs女の子
『秋人。いくらロリコンだからって気を抜かないように』
「誰がロリコンだ!!」
思わず俺は叫んだ。おのれ、こっちの声は真冬に届かないのがもどかしい。言われなくても気を抜くつもりなどない。女の子というのは予想外だっだが、こんなに早く出会えたのは嬉しい誤算だ。
「フーッ……フーッ……!!」
女の子は目が血走っている上に呼吸が荒く、明らかに様子がおかしい。いきなり突進してきたことから、俺に敵意があるのは間違いない。しかしただの子供が俺を襲う理由などあるはずもないし、やはり何者かに操られているのだろうか。
「……ガアアアッ!!」
そんなことを考えていると、再び女の子が突進してきた。どうやら戦闘は避けられないようだ。だが相手は転生杯の参加者でもないただの子供、全力で闘うわけにはいかない。
俺は【氷結】を発動し、目の前に氷の壁を生成した。これに驚いたのか、女の子が急停止する。
「ちょっと痛いけど我慢してくれよ……!!」
続けて俺は空中に無数の氷塊を生成し、女の子に向けて一斉に放った。多少の怪我は負わせてしまうだろうが、その程度はやむを得ない。まずはこれで動きを鈍らせて――
「なっ!?」
俺は驚愕の声を上げた。なんと俺の放った氷塊は、女の子の身体に到達する直前に全て弾かれてしまったからだ。何が起きた……!?
この隙に女の子が一気に距離を詰めてくる。俺は【怪力】を控えめに発動し、返り討ちにしようと右の拳を放つ――が、これも弾かれてしまった。
「がはっ……!!」
そのまま女の子の拳が俺の腹部に炸裂し、俺は地面を転がった。なんてパワーだ、本当に子供の一撃か……!?
『秋人、大丈夫!?』
俺は真冬の声に頷き、立ち上がる。今ので確信した、この子は何らかのスキルを発動させている。だけど俺の痣は反応してないし、とても16歳には見えないので、転生杯の参加者ではないのは確かだ。映像で見た男の子もそうだったが、どうして普通の子供がスキルを使えるのか。
まあ、その疑問は置いておこう。俺の【氷結】【怪力】が効かなかったのは紛れもない事実だ。スキルを無力化にするスキル、といったところか……?
「ガアアッ!!」
だが更なる衝撃が俺を襲った。女の子の右手から凄まじい炎が放たれたのである。まさかこれ、炎丸の【火炎】か!?
俺は咄嗟に【潜伏】を発動し、地中に避難した。一度見たから分かる、あれは間違いなく炎丸の【火炎】だ。それを何故あの子が使えるのか。まさか炎丸からスキルを奪ったというのか。そんな馬鹿なことが……って俺が言っても説得力ないな。
どういう理屈か知らないが、とにかくあの子は〝スキルを無力化するスキル〟と【火炎】のスキル、二つのスキルを使えるようだ。転生杯の参加者ですらスキルは一人につき一つなのに、あんな子供が複数のスキルを操れるなんて有り得ない……ってこれも俺が言ったら駄目なやつだ。
厄介なのがスキル無力化のスキル。あれがある限り俺のスキルは通用しない。一体どうすれば……。
いや待てよ。それなら何故、俺が氷壁を生成した時にあの子は急停止したのか。本当にあらゆるスキルを無力化できるなら、スキルで生成された氷壁などお構いなしに突っ込んできたはずだ。反射的に足を止めてしまった、とも考えられるが……。
やがて息が続かなくなり、俺は地上に出た。よし、一度試してみるか。だが周囲を見回してもあの子の姿がない。一体どこに――
『秋人伏せて!!』
真冬の声で咄嗟に伏せた直後、俺の頭上で炎が炸裂した。俺が地面を転がって体勢を立て直すと、民家の塀の裏から女の子が飛び出てきた。俺が地中から出てくるまで塀の裏に隠れていたのか。危うく丸焦げになるところだった。
「なあ、君は何者なんだ?」
「…………」
「教えてくれないか? どうしてこんなことをしているのか」
「…………」
女の子は無反応。何者かに操られているのなら、俺の言葉が届かないのは当然か。やはり力ずくで止めるしかなさそうだ。
俺は【怪力】を発動する。ただし狙いは女の子ではなく、俺は右の拳に力を込め、足下のアスファルトを破壊した。そして【怪力】を解除し、拾い上げたアスファルトの破片を女の子に向けて勢いよく投げた。
これはスキルを介した攻撃ではない。スキルを無力化するスキルだというのなら、この攻撃は通じるはず。だが俺が投げたアスファルトの破片は、女の子に直撃することなく弾かれてしまった。
やはりそうか。おそらくこの子は自分に対しての〝攻撃〟を無力化している。つまりスキルを無力化しているわけではない。だから氷の壁を突破できなかったのだろう。そもそもこの子が何らかのスキルで操られているのなら、それが無力化されてない時点で気付くべきだった。
まあ、それが分かったところで厄介なことに変わりはないんだけども。攻撃が通用しない相手にどう闘えばいいのやら。
『秋人。【略奪】でその子のスキルを奪うことはできないの?』
真冬の言葉に、俺は首を横に振った。スキルが全く通用しないわけではないと分かった以上、誰もがそう考えるだろう。
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