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男女の関係

「ち、千夏? おーい」



 千夏の顔の前で手を振る。やがて千夏は顔を上げると、決意を秘めた目で真っ直ぐ歩き出した。



「は!? おい千夏!! 嘘だろ!?」

「ほらほら、どうしたの秋人くん。こんな所に女の子一人で入らせる気?」

「くっ……!!」



 積極的に攻めたいとは言ってたけど、さすがにこれは順序をすっ飛ばしすぎだろ。そういえば以前ここに来た時も、なんか満更でもない様子だったような……。



「ま、待て千夏!」



 仕方なく俺は千夏を追いかけるような形でラブホテルに入った。



「にゃっはっは! それじゃお二人さん、ごゆっくりー!」





 そして俺は現在、ラブホテルの一室で待機している。マジで普通に入れてしまった。当然初めてなので全然落ち着かない。一見普通のホテルと変わらないが、所々に〝アレ〟をする為の備品が置かれている。


 千夏は今シャワーを浴びている最中で、バスルームから漏れてくる音が俺に淫らな妄想を加速させる。これはマジで千夏と〝アレ〟をする流れなのか……!? いやまだ朝野が仕組んだドッキリという可能性も……。



「……お待たせしました」



 ベッドに腰を下ろして待つこと数分、千夏がシャワー室から出てきた。その姿に俺の目が釘付けになる。千夏があられもない下着姿だったからだ。色気たっぷりのブラとパンツを俺に晒していた。



「ち、千夏!? なんで服着てないんだ!?」

「えっ……それは……邪魔になるかと思いまして……」



 恥ずかしそうに目を伏せて千夏が言う。その表情を見て俺は確信した。これはドッキリなどではない。千夏は本気だ。本気で俺と……!!


 千夏は無言で俺の隣りに座り、じっと待つ。これはあれか? 襲ってくださいという意思表示なのか!?


 俺も男だ、襲えるものなら襲いたい。今だって必死に衝動を抑え込んでいる状態だ。でも相手はまだ17歳の女子高生だぞ。いや肉体年齢は俺の方が年下だけど、実年齢は俺の方が10個近くも上だ。こんなオッサンの俺が、千夏のような純粋で優しい女の子を汚していいのか……!?


 俺の中で理性と本能が延々とせめぎ合い、ただ時間だけが過ぎていく。やがて千夏が震える声で、こう口にした。



「どうして……何もしてこないんですか……?」



 千夏の方に目をやると、今にも泣きそうな顔になっていた。



「私って……そんなに魅力がないのでしょうか……」

「そ、そんなわけないだろ! 現に俺は自分を抑え込むのに必死で――」

「どうして抑え込んでるんですか……?」

「それは……」



 俺は沈黙してしまう。俺が千夏に手を出さない理由は、もう一つあった。だがそれは千夏も分かっているはず――



「千夏!?」



 俺は声を上げた。千夏が自らブラを外し、胸を露わにさせたからだ。更にはパンツまで脱いで――あっという間に生まれたままの姿となった。



「私は……秋人さんになら……何をされたって……!!」



 その瞬間、俺の中で何かが弾けた。そして気付いた時には、全裸の千夏をベッドに押し倒していた。もう、我慢できなかった。



「秋人……さん……」



 千夏は抵抗する様子もなく、虚ろな目で俺を見つめていた。千夏はとっくに俺を受け入れる覚悟ができている。あとは俺が、獣のように千夏の身体を貪るだけ――



「…………」



 しかし俺は千夏を押し倒したまま、しばらく動きを止めていた。



「秋人さん……?」

「……ぬあああああ!! やっぱ駄目だあああああ!!」



 俺は絶叫しながら千夏の身体から離れた。危なかった、ギリギリ理性が本能に打ち勝った……!!



「どうして……やっぱり私の身体では不満だと……」

「そうじゃない! そりゃ俺だってそういうことはしたい! でも……!!」



 俺は一旦深呼吸して気持ちを落ち着かせた後、ベッドに座り直した。



「……千夏も知っての通り、俺は一度死んだ人間だ。ただ一時的に蘇ってるだけで、いつこの世から消えてしまうか分からない。五年後か、一年後か。もしかしたら明日にも消えてしまうかもしれない」



 転生杯に参加している以上、常に命の危険がつきまとっている。無論俺は最後まで勝ち残るつもりだが、この先何者かに敗れて脱落することも絶対にないとは言い切れない。



「もし俺と千夏が〝そういうこと〟をして、男女の関係になったとしても、俺達が共に歩む未来はないんだ。だからもう、俺のことは――」

「そんなこと分かってます!!」



 千夏が強い口調で俺の言葉を遮った。



「分かってます、そんなこと。でもだからと言って、そう簡単に割り切れるほど、私の心は単純じゃありません……」

「千夏……」

「それでも諦めろというのなら……私の心……返してください……」



 千夏の目からは涙が溢れ出ていた。また、泣かせてしまった……。



 俺はどうしたらいいか分からず、啜り泣く千夏の横で沈黙するしかなかった。それからどれくらい経ったか……。千夏は立ち上がり、下着と服を着直した。



「……ごめんなさい。帰りますね」

「あっ……千夏!」



 もう夜も遅いし、またこの間のように他の参加者に拉致されることがあってはならない。俺はすぐに千夏を追って部屋を出た。




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